第128話 大谷さんの支配の形
「んじゃま、よろしくお願いするわね」
俺は大谷さんのノーザリア語教師の役の他に。
新しい領主が来るまで、暫定的に領主をすることになった大谷さんのサポートをすることになった。
主に通訳としてだ。
……貴族を通訳につけるのが嫌なんだろうな。
信用できるのは俺だけってか。
まあ正直、俺は別に大谷さんは嫌いでは無いけど。
頼られるのが嬉しいか? と言われると……
複雑な面がある。
今の大谷さんは独裁者みたいな振る舞いをしてるし……
あと、昨日言われたリスリーの言葉が俺の脳を過る。
いや、別に文句言われたりはしないだろうけど……
意識してしまうからな。
大谷さんがやることは、前の領主の家臣の選別と、次の領主のための引き継ぎ書作成なのだけど。
選別の方は正直岩戸さんが居てくれたら楽だったなと思う。
岩戸さんなら味方を見つけられるから、つまり前の領主にまだ忠誠心を残してる人間を弾くことができる。
味方じゃないってことは、俺たちに協力する気がない。
それ即ち、敵ってことだろ。
それで平和的に、確実に「いたらまずい」人が探れる。
なので俺は
「岩戸さんを呼ぶなら連絡入れるが?」
と助言したんだ。
トオル経由で連絡すれば一発だしな。
だけどさ……
「大丈夫。岩戸さんの助けは要らないわ」
大谷さんはそう言って。
代わりに何をしたかというと……
かつては領主が居たという執務室。
そこそこの広さに、威厳溢れる調度品。
絨毯に、本棚。
立派な部屋である。
その部屋のデスクの革張りの椅子に大谷さんは腰掛けて。
俺は彼女の副官のように、その傍に立ち。
そんな状態で大谷さんは言った。
「ええと、あなたは貴族でしたよね?」
俺たちの前に居るのは、領主と一緒に牢屋に入れられなかった家臣の1人。
結構な立場なのか、身に着けている衣服は小奇麗だ。
貴族らしい。
その人は青い顔で立っていた。
領主の一派と思われると牢屋に投げ込まれ、いずれは王都で裁判に掛けられる。
それを分かっているからだろう。
「ええ。かつては税収の仕事を任されておりましたアルバート・コモンズ・バンクールと申します」
コモンズってのは、召喚騎士系統の貴族ではないけれど、家柄としてはあまり高くないんだっけか?
リスリーに前にちょっと教えてもらったが、あまり興味の無い事柄だったのであまり良く覚えていない。
けれども、ある意味生粋の貴族の家柄なわけだから。
かなり家柄や血筋に拘る傾向にあるらしい。
そういう「日本人を祖先に持たない貴族」は。
そして前の領主はそんな貴族のたたき上げ。
色々、思うところもあっただろ。
で、大谷さんは
「ではアルバートさん」
「単刀直入に言いますね。私はあなたのことを疑ってます」
淡々とそんなことを言った。
言われた途端
「そんな! 私はアーサー様とは!」
真っ青な顔でアルバートという貴族出身の元領主家臣は訴える。
自分は違うと。
だけど
「……アーサー様?」
大谷さんは聞き逃さなかった。
アルバート氏の言葉に、元領主への敬称が含まれていることに。
アルバート氏もそれに気づいたらしい。
すぐにその場に平伏して地べたに額をこすり付けた。
「こ、言葉の綾でございます……ワタクシはアーサーのことなど、決して……!」
涙声だ。
疑われれば牢屋。
下手すると家を取り潰される。
その恐怖があるんだろう。
正直気の毒だったが。
俺は
「……申し訳ありませんが、我々の立場を考えてください。派遣されてきた先の領地で、あり得ない企みがあって、そして緊急でこんな事態になったんです」
「我々もやりたくてやってるわけじゃ無いんですよ。耐えてください。貴族ですよね……?」
そう、与えられた役割を果たす。
大谷さんはとことん疑り深く、厳しい意見を言い。
反対に俺がそう、わりと優し目で宥めるようなことを言う。
「万々が一、前の領主の一派が巻き返しを図るようなことになることは全力で防がないといけないんです。協力して欲しいです……分かってくれますね?」
「はい……!」
大谷さんが怖いから、俺の言うことは受け入れざるを得ず。
大谷さんが怖いから、いくらかは優しい俺を味方だと思ってしまう。
そしてその結果、いきなり領主の地位に収まった俺たちに対する反感のようなものが封じられる。
逆らったら確実に処罰されるから。
そして逆らわなければ敵にはならないわけだから。
結果、協力的になる。
全部大谷さんが考えたことだった。
(……ちょっとやり方がえげつないよな)
言われたことをそのままやってるだけだけど。
俺は俺の隣で椅子に座っているローブを着た少女に、底知れない闇深さを感じたよ。




