第126話 クソからドブ
「何で俺に? その辺の貴族の人に習えば良いじゃん」
俺は別に特別成績が良い生徒じゃない。
教師役をこなせるかどうか怪しいというか……
自信が無い。
別にノーザリア語と日本語がペラペラなのは俺だけじゃ無いんだ。
貴族階級の人間なら基本そうなんだし。
そう思ったから
だけど大谷さんは
「信頼できないから」
そんなことを言い出す。
「信頼できないぃ?」
意味が分からない。
大谷さんはそんな俺の表情から俺の心情を察したみたいで。
「信頼できないでしょ。この世界の人間なんて。……都合のいい召喚獣みたいな感覚で日本人を呼び出すようなろくでもない連中なんだし」
そんな、とんでもない言葉を口にした。
ちょ、と思う。
ここにいる人間で、開拓民の子供たちは日本語が分からないから通じないけど。
この馬車の御者をしているのは領主の家臣……つまり貴族だ。
日本語が分かる。
なのにそんな言葉は……
それに大谷さんはこの世界に呼ばれて良かったと思ってるんだろ?
おかしくないか? その言葉……!
困惑しながら焦る俺に
「……別に私はこの国に反逆しようと思ってるとかそんなの無いから。当たり前でしょ? ……前の世界なんてクソじゃん」
大谷さんは足を組んで頬杖をつくみたいに腕を組み。
馬車の外を眺めつつ。
そう呟くように言う。
「綺麗事ばっかり言って、黒を白と言いくるめ、本当に弱い人を守ろうとしない。ゴキブリばかりの掃き溜めでしょ」
そう口にする大谷さんの目には怒りと悔しさ、そして諦めがあった。
口元には笑みが浮かんでいたけど
「最低よ。なーんにも未練無いわ」
その目には笑いなんて無くて。
「だからといって、こっちの世界も大概だけどね。仕事が出来るくらいでロリコン犯罪者が領主に収まるような世界なのだし」
吐き捨てるように口にする。
前の世界のこと。
そしてこの世界のことを。
そして
「クソからドブに呼ばれただけだよ」
最後にそう言いつつ大谷さんは「へっ」と笑った。
……なるほど。
大谷さんの気持ちは少しだけ理解できた。
大谷さんにとっては、前の世界は偽物に塗れた歪な悪徳の世界で。
こっちはそこより多少マシというか、自分が被害を受けないだけの世界。
だからこっちの世界が好きでは無いが、前よりはマシ。
そういう思いなのか。
……正直、歪んだモノの見方だと思うけど。
俺は大谷さんの人生なんて分からないし。
俺が大谷さんを否定するなら、大谷さんにも俺を否定する権利がある。
そんなの、俺にとっては何の益も無い。
だから何も言わないことにして
「……分かった。出来る限り教えるよ」
彼女の要望に応えることにした。
だけどさ……
大谷さん。
キミはソウジのことは大事に思ってくれてるはずで。
トオルと岩戸さんについても優しくしてくれて。
そして今、理不尽に殺されそうになった子供たちを救ったのに。
それでもまだ、そんな風に思えるっていうのか……?
そのことに俺は何だか寂しさ……いや、悲しさを感じた。




