第119話 連鎖呪法
「丸のみって」
約束を守れっていうことだよな?
でも、今言ったことに「破った場合のペナルティ」が入っていない。
そんな約束、意味があるのか?
人間相手ならいざ知らず、相手はルール無用の魔族なのに。
ペナルティが無いなら、守るわけ無いだろ!
彼らは「嘘吐き」という罵り文句が通用しない連中なんだぞ!?
そう思った。
だけど
(大谷さんがそんなことを考慮できないはずがない)
ここまでクラスのリーダーを務めるために、独裁者みたいな真似を散々しておいて。
いきなりそんなおめでたいことを大谷さんが考えるわけがない。
じゃあ、何か意味があるのかもしれない。
だから俺は黙った。
黙って見守る。
「……分かったわ。そこに血判を押せばいいんやな? ……血判って何や?」
ニーブが渋い表情を崩さずに「血判」の言葉の意味を訊ねる。
約束を守るという掟が無い種族だから、そういうものが無いのかもしれない。
だから大谷さんが手ぶりを交えて、血判を説明した。
「親指の先を切って、血で親指の跡をコレに取ることよ」
「ふむ」
文書を掲げつつ説明する大谷さん。
それを訊くニーブ。
説明を受けた彼は、しかめ面で懐からナイフを取り出し。
自分の親指を切り
「ここに押せばいいんやな?」
血を垂らした親指を掲げてそう訊ねると
大谷さんは
「そうだけど……その前に」
ニーブに最後にこう言った。
「さっき言ったことを全て復唱して、その直後に押しなさい」
その指示にニーブは
「二度と王国民を襲いません奪いません逆らいません。王国民の定義は魔族以外の人間です。持ってるダンジョンアイテムは全部差し出します」
無理矢理な感じでそう大声で言い、大谷さんの差し出す文書に親指を押し付けた。
血判……!
血判が取られ、大谷さんがそれを確認して頷く。
「確かにいただいたわ」
「んじゃま」
ニーブはそう言い、親指に布を巻きつけつつ振り返り
「お前ら、ダンジョンアイテムを出せや」
……他の豆一族たちにそう呼び掛けた。
どういうことだ?
その後の展開が、マジで意味が分からなかった。
豆一族たちが自分たちが保有しているダンジョンアイテムを自発的に提出し始めたんだ。
信じられない。
(どうして誤魔化そうとしないんだ?)
普通考えるよな?
比較的価値が低いダンジョンアイテムをいくつか提出して
「これで全部や」
そう言って、やり過ごすことを。
真っ先に考える。
俺ですらそれぐらい思いつく。
なのに、それをやってる素振りが全然無いんだ。
「これが麻痺の指輪で……これが完治の指輪やな」
完治の指輪。
俺が大谷さんにダンジョンアイテム回収係を命じられて。
それに触れたときに効果が分かった。
ダンジョンアイテム名:完治の指輪
効果:嵌めている間は身体のあらゆる部位が回復不能でなくなる。
……ちょっと待て。
こんな貴重なダンジョンアイテムを手放すなんて。
考えられない。
前も言ったけど、この世界の回復魔法は人体欠損を治療することはできない。
これはそれを覆してしまう、とんでもないダンジョンアイテム。
断言しても良いけど、これは絶対に貴重というか……俗っぽく言うとSSRだろ!
だから俺は
「えっ?」
思わず言ってしまった。
ルール無用の種族に、ペナルティ無しの条件突きつけて
どうしてこんなことになるんだ……?
「これで全部のようね」
俺が豆一族から回収したダンジョンアイテムを全て大谷さんに提出し。
大谷さんが疑いもせずに引き上げようとしたとき
「待ってくれ」
俺は呼び止めた。
訝し気に振り返る彼女に俺は
「……念のために再調査とかしなくていいのか? 嘘があるかもしれないし」
そう訊ねる。
すると彼女は面倒そうな表情をして
「不要よ」
あっさりとそう言い
続けて何故そうなのかを教えてくれた。
それは……
「彼らには、連鎖呪法というものを掛けたから」
連鎖呪法……?
それは初めて聞く言葉だった。




