第118話 謎の文書
平伏する豆一族。
その場に舞い降りてくる大谷さん。
その振る舞いは本当に堂々としていて。
俺としては複雑だった。
やっぱり彼女に昔の姿がダブる。
この世界に来る前の姿が。
毎日周囲に怯えて、暗い顔をしていた彼女が。
俺たちにとってはこの世界に召喚されたことはただの災厄だったけど、大谷さんにとっては神の導きなんだな。
彼女がレフィカルに言ったという言葉には、おそらく嘘は無いんだろう。
この世界に召喚して貰えて嬉しい、っていうことには。
「……あなたがこの豆一族のオサでいいのかしら?」
「そ、そうや!」
歩み寄って来た大谷さんに、その大柄な魔族の男は顔を上げて応える。
その瞬間だった。
大谷さんの死角になる位置から、ヒュッと。
1本の矢が飛んで来て。
大谷さんの頭に命中したんだ。
……だけど。
バチッ!
それが静電気が弾けるような音と共に、突き刺さらずに弾かれて、跳ね返り。
射られた矢はクルクルと空中で回転し、その場にポトンと転がってしまう。
「……え?」
信じられないものを見た声がした。
大谷さんの死角の位置にいた豆一族の若そうな男だ。
そいつが弓を構えながら真っ青になって震えている。
……多分、こいつには舞い降りて来た大谷さんが隙だらけに見えたんだろう。
で、こう思ったのか。
不意打ちでぶっ殺すチャンスだと。
……全然、そんなことはないんだけどな。
実際、肝が冷える暇すらなかった。
気がついたら終わっていたわけだから。
これがスキル『暴力無効』の効果か。
肉体的に自分より上位の強さを持つ者からの攻撃の一切を無効化するスキル……!
「……何かやったの?」
そして大谷さんは自分に矢を射た男に視線を送る。
ゾッとするほど冷たい目だった。
そこから彼女は
「豆一族のオサ!」
弓を射た男に冷たい目を向けながら
「あの男を拳で教育なさい。お前の手で」
そう言い放った。
「……わ、分かった」
大谷さんと自分たちとの圧倒的な実力差。
従わなければ次に何をされるか分からない。
その思いがあったのか。
平伏した姿勢から立ち上がる豆一族のオサの表情は苦しそうだった。
……やり方が酷いな。
リーダーに手下を殴らせて、リーダーの権威を傷つけて、同時に敵からの反逆心も奪い取る。
何かやって失敗したら、本当の意味で何をされるか分からない。
そう言う恐怖心を植え付けるやり方。
やり方が独裁者じみてるよ。
どうしようか迷った。
色々考えた。
でも、最終的に
何だかここで黙ってる俺をリスリーが見たら、悲しみそうな気がした。
だから俺は
「おい、大谷さん」
さすがにそれはやり過ぎだろ。
仮にも騎士なんだから、と諫めようとしたんだ。
だけど
「……やっぱいいわ」
突然、大谷さんが。
豆一族のオサが自分の手下を殴りまわそうと、大谷さんに矢を射て来た男の胸倉を掴んだときに
突如前言を撤回した。
(えっ?)
意図が読めない。
何が狙いだ?
そう思ったときに
「アンタ、名前は?」
「ニーブ・ンタパや!」
大谷さんの言葉に豆一族のオサ・ニーブは弾かれたように答える。
その言葉を聞き
「ではニーブ」
大谷さんはローブの内側から
ゴソゴソと
立派な木の筒……国の文書を入れるやつだ。
それを取り出し
「今後、王国民の生命財産に一切の手出しを禁じる」
「王国民の定義は、魔族ではない人間とする」
「お前たちが所有しているダンジョンアイテムは全て王国が没収するものとする」
そう要求を突きつけて
筒から1枚の書類を取り出し
こう言ったんだ。
「……以上のことを丸のみにすると誓い、ここに血判を押しなさい!」
そんな、意図が全く読めないことを。
ルール無用の魔族相手に、契約文書……?




