第111話 軍服の話
そして現地に着いた。
現地は山の傍。
豆一族は、この先の山の中の洞窟に住んでいるとか。
現地に着いて。
最初に馬車から大谷さんが降り。
続いて俺。
最後にコバルとゴワケが降りてくる。
……なんというか。
最初乗るときは「勘弁してくれ」って思ったけど。
大谷さんがソウジのことをちゃんと別格で想い続けてくれていると分かってからはそうでもなかった。
同じように、ソウジに想いを向けている相手なんだと思ったら……
何だか近くに感じたんだ。
「あぁ、今度の馬車は割とすぐだったわね」
「前は3日間乗り続けていたからな」
身体をほぐすためか、俺の隣で屈伸運動をしている大谷さん。
彼女は今回の出撃でも軍服を着ておらず、上にあのローブを羽織り続けている。
(頑なに軍服を着ようとしないのは何かあるのかな?)
ふと思った。
彼女はちゃんとしてるのに。
軍服を着ないってのは、学校で言えば制服を着ないのに近いだろ。
真面目に取り組んでる人間の態度じゃない。
なので俺は
「……軍服着ないのなんで?」
そう訊ねる。
大谷さんはしゃがんだ姿勢で俺を見上げ
「私に言ってる……?」
そう訊いて来たので俺は
「うん」
頷く。
俺があそこの2人……コバルとゴワケに話し掛けるわけねーじゃん。
こんな雑談みたいな話。
彼女はスッと立ち上がって。
ローブの袖を弄りながら
「……魔法使いとして、こういうのが大事な気がするから」
そんな返しを。
ええと……
「精霊のテンション対策……?」
「まぁ、そんなところよ」
そんな理由かよ……
でも、そんな理由でも結構重要そうな事柄で特例を認めて貰えるってことは
それぐらい、彼女が優遇されてるってことか。
……でも、だったら
「あの2人は?」
俺はコバルとゴワケの2人について疑問に思ったので訊ねる。
あの2人は魔法使いじゃ無いよな?
俺は目線で2人を示しながらそう訊く。
するとだ
「お猿さんの事?」
お猿さん……
俺だってあの2人は大嫌いだけど。
あまりそういう言い方を常態化するのはいじめに加担してる気になるから気分良くない。
「……その言い方止めてくれ。少なくとも俺の前では」
だから俺は彼女に苦言を言った。
彼女はそんな俺の様子を見て露骨に顔を顰め
軽く舌打ちをした。
……で
「元々あの2人は、私が覚醒する前は一番戦闘に向いたスキル持ちで、ダンジョンアイテムをそれぞれ2つずつも与えられるぐらいだったのよ」
しぶしぶと言った感じで、コバルとゴワケの2人を「あの2人」という言い方に直して教えてくれた。
どうもだ。
元々軍服を着たくないと言い出したのはあの2人が最初で。
大谷さんが覚醒して2人の天下が終わり地獄を見るまで、一番の有望株。
そのままなら、兵団長はコバルで、副官がゴワケみたいな事態になっていたらしい。
(それは色々最悪だな)
聞きつつ、思う。
ホントにそうならなくて良かった。
で。
その後大谷さんが覚醒し。
トップが入れ替わった。
そしてその後、大谷さんは
「別に軍服を無理矢理着せても大して面白くないし。むしろなるべく着せない方が無様で下僕っぽくていいかなって」
……そんな感じで。
トオルは「あの3人は特別に軍服非着用を認められている」って言ってたけど。
実情はだいぶ違うようだ。
そして彼女の話を聞いて思ったのは
(なんというか……軍服ひとつでここまでドロつくとは。あと……かなり怖いな大谷さん)
大谷さんの憎しみって。
あまり軽いものじゃないんだなと。
あの2人の虐待に関することを話すとき、何も感じていないような表情だった。
あの2人を貶めることは、まさしく呼吸するようにやってるんだな。
そのくらい、憎い相手ってことなのか。
まるで後ろめたさや罪悪感を感じていないみたいに見えたよ。




