第103話 出発前の買い物にて
「マサヤさん、どうでしたか?」
会議室から出ると。
部屋の近くで待機していたリスリーが駆け寄って来た。
俺は彼女に
「一応覚えておいて。メモ帳と鉛筆モドキ……ゼドックとエティパグを買うってことを」
まずそのことを伝える。
頭が2つあることを生かさないとな。
「分かりました」
リスリーがそう言ってくれたので。
続けて
「で、申し訳ないけど……一緒にゆっくり食事に行く時間は無さそう。でも買い物してる時間はありそうだから、適当なものを買おう」
今後のことを伝える。
夕刻に馬車で出発で、そこまでそんなに時間は無いから。
外にのんびり食事に行ったり、じっくり買い物に出る時間は無さげだ。
それに関しても
「問題ありません」
彼女はそう返してくれる。
ありがたい。
……まあ、彼女ならそう言ってくれるという予想はあったわけだけど。
「ゼドックって何かオススメはあるの?」
筆記用具を売る店にリスリーと一緒に入り。
棚に並んでいる鉛筆モドキやメモ帳を見ながらそう訊ねると
「ワトジのものがいいですね。用途と値段を考えると……」
そんなことを言われる。
「ワトジ?」
ピンと来なかったのでそう訊き返すと
リスリーは
「これです」
棚から1つ、メモ帳を取って渡してくれる。
それは紙の端に穴を開けて、そこに紐を通して閉じるタイプで。
……時代劇でよく見る気がした。
ひょっとして和綴じか……?
とりあえずリスリーが勧める鉛筆モドキとメモ帳を買い。
あとは腹ごしらえということで。
どこか時間が掛から無さそうな店は無いか、探した。
無論探す時間もそんなに無いわけで。
俺たちは、2人で店を探して
「あの屋台はいかがですか?」
「別にいいんじゃない?」
リスリーが見つけた屋台。
リヤカーみたいなものの傍で鍋に火を掛け、そこからお粥っぽいものを販売する屋台で食事を取ることにする。
見るからに時間が掛から無さそうに見えたんだ。
だって、お粥をずっと鍋で煮てるんだもの。
掬えばすぐだろ?
実際、お金を払って注文を出して、実際にお粥が出てくるまで3分掛からなかった。
鍋から掬って、具材を投入して。
そのまんまだ。
味も悪く無くて。
トッピングの野菜の塩気がお粥と実にマッチしていた。
「忙しい人が朝ご飯の代わりに食べることもあるくらいです」
屋台近くに並べられた、簡素なベンチみたいな椅子に一緒に座り。
隣で同じトッピングのお粥を食べながら。
リスリーがこの屋台の食事について教えてくれた。
「そうなんだ」
俺はそう、彼女の話に相槌を打ちながら
自分が穏やかな気持ちになっていることに気づいた。
俺はリスリーが好きで。
好きな女の子と、同じものを食べてその話をする。
……別に俺がそう感じることはおかしくない。
だけど。
頭の片隅で、ソウジが焼かれたときが蘇る。
元の世界に返せと当たり前のことを言っただけなのに。
見せしめで焼かれた俺の親友……
俺は幸せを感じて良いのか?
そんな言葉が俺の頭の中を過る。
大切な友達が理不尽に殺されたのに。
女の子に愛されている状況に幸せを感じるなんて。
そこに気づいたとき。
冷水を浴びせられた気がした。
「マサヤさん?」
そしてリスリーは、俺のそんな些細な心の動きに気づいたみたいに。
俺に訝し気な目を向ける。
それを俺は
「何でも無いよ」
笑って誤魔化した。
……これはリスリーには関係ないし。
リスリーには幸せであって欲しい。
それは俺の正直な気持ちだから。




