第102話 大谷さんのやり方
ハゲが去った後。
大谷さんがクラスの人間に「今から別の大部屋に集まるように」と言い出して。
言われた通り、クラスの皆は普段会議室として使われている大部屋に移動した。
当然、俺も移動する。
リスリーは呼ばれていないので一旦別れた上でだ。
それで。
「皆、揃ったわね」
大部屋に大谷さんの声が響く。
それを聞く皆は、少し落ち着きがない。
初めての任務のせいなんだろうけど……
俺はそれよりも、大谷さんの後ろで控えさせられている不良グループたちが気になった。
他の皆は全員普通にしているのに、コバルとゴワケ以下不良グループたちだけ、膝を折る「上位者に控える」姿勢を強制させられている。
しかも一言も喋らない。
他の皆は私語を許されているのに。
(あいつらだけ徹底的に虐待されているのかもしれないな)
ふと思った。
大谷さんはそれで自分への求心力のようなものを作ってるのかもしれない。
所謂あれだ。
『あいつらみたいにはなりたくない』
……何かの本で読んだ「独裁者の手法」で見た覚えがある。
それはこういうものだった。
まず誰かを徹底的に被差別的な立場に追い込み、ぶちのめし、見せつけ。
他はそれなりに緩くする。
そうすると深層心理で
まだ酷い目に遭ってない人間の心に
あの立場になるのは嫌だ。
そういう思考が起きるので、逆らわなくなる。
で、加えて。
人間はプライドがあるものだから。
自分は本心からこの方に仕えている。
そう自己暗示を掛けてしまうんだ。
自分は独裁者が怖くて従ってるんだ。
……なんて思うのが、あまりにも情けなくて嫌だから。
でも。
えげつないけどさ、的確なやり方かもしれないな。
自分の足元を掬われないために、皆の心を掌握する手段としては。
なんというか……
大谷さんは夢を見ないのかもしれない。
自分が圧倒的な力を手に入れたからと、それで増長して「自分の天下は揺るがない」というような。
思い上がり、という名前の夢を。
彼女のメモ取りの習慣と嫌に噛み合う気がする。
「私たちはこれから、馬車に乗り合わせて王国辺境の開拓村に向かうわ」
そして。
大谷さんが話しはじめた。
その瞬間、周りの皆が一斉にメモ帳を取り出した。
ギョッとする。
(……俺、メモ帳持ってない……!)
俺はこういう事態を予想して無くて。
準備してなかったんだ。
皆やってるのに、自分だけしていないいたたまれなさ……
一瞬、トオルが事前にこれを教えてくれなかったことを恨みがましく思ったけど。
(何でもかんでも教えて貰えると思うのは違うよな)
そう思い直し、何とかこの場は全部覚えておくことに集中する。
次までにメモ帳と筆記用具を買っておかないと。
大谷さんの話はそんな俺にはお構いなしでスラスラと進んでいく。
それは
「そこでは、豆一族という魔族の盗賊団が襲撃を掛けていて、開拓民を襲ってるそうよ」
「豆一族は開拓民の家畜や作物を奪うだけでなく、子供を攫うらしいわ」
「だから人の形をした獣だと思いなさい」
……そんな話だった。
まとめると、豆一族という魔族の盗賊団が俺たちの討伐目標で。
それは悪逆非道で、獣同然の奴ららしい。
子供を攫うようだけど、奴隷で使うためならマシかもな……
色々、最悪の方向性で考えてしまう。
そして
「夕刻にこの王城広場から馬車が出るわ。それまでに何かやらなければならないことがあるならしておくように」
大谷さんのその言葉で。
その場は解散となった。




