20話
俺の武器はというと、相変わらずロクなものじゃなかった。
アニカから拝借したスティレットは持ってきていたが、元々投げ物として使われていただけに刀身が通常のものよりさらに短い。
あとは先ほどジャックの馬車の中から拝借した、アンティークものの装飾がされたナイフだけだ。
多分ジャックが扱う商品の1つだろうが、威力は期待できそうにない。
それに比べてラフィーニャの武器は見るからに業物だった。
切れ味鋭そうな直刀の刀身は日の光を受けて輝き、妖気を滲ませていた。
メイファが隣にやってくる。
「クロウ、ここは共闘といくぞ」
「ああ、頼りにしてるぜ」
メイファと2人、背を預け合って並び立つ。
武器を構えてキッとラフィーニャを睨みつける。
それを見てもラフィーニャはまるで動じない。
よほど自分の剣に自信があるようだ。
「俺が勝ったら、ミリエルとここの連中のことは諦めてもらうぜ」
「フフ、いいわよッ!」
「いくぜ、高みを行く者」
先手必勝!
俺はスティレットを脇に構え、サルコジの抜刀剣技をイメージする。
期待したとおりに、スティレットは閃光のごとくラフィーニャに向かって過たず軌跡を描き始める。
――――しかし。
「あら、その太刀筋は生憎見飽きてるの」
アテが外れた。
カーンッと大きな金属音がして、俺の攻撃は完全に防がれた。
「覚悟ッ!」
続けざまにメイファが短剣でラッシュを仕掛けるが、まるで通じない。
「まあまあってとこね」
俺とメイファは2人とも距離を取り直して、荒れた息を整える。
「……ぬう、完全に格上とはな」
「こっちは2人いるんだ。なにか手はあるはずだ」
ラフィーニャは刀をまるで鞭のように扱う。
縦横無尽に繰り出される太刀筋はおよそ予測がつかない。
普通に戦っては勝機が低いと見て、俺とメイファはお互いを見てしかと頷きあった。
「よし……我が奥の手を使う。クロウも動きを合わせよ」
「わかった。……いつでもいいぜ」
メイファは左手をかざす。
「謎に封じられし聖櫃」
「あら? なにかしら……」
霧の結界が一瞬にして展開され、俺とメイファ、それにラフィーニャをのみ込む。
「ふぅん……なるほど。気配を隠そうってわけね」
霧の中でメイファが俺に耳打ちする。
「よいかクロウ。この結界は以前お主に使ったものとは違う。
我が幻影を無数に生み出すことができるが、気配を消すことはできぬ。
それゆえ相手の攻撃を避けられるかどうかは運じゃ。
タイミングを合わせて我が幻影とともに仕掛けるぞ」
「ちょっと作戦が雑すぎないか?
大分穴があるような……」
「うるさいぞクロウ。他に案はない。……行くぞ!」
メイファの号令で、俺とメイファ、それに幻影たちが一気にラフィーニャに斬りかかる。
「血沸く血沸く……。イイ感じよ。
戦いはこの感覚がたまらないのよッ!」
ラフィーニャは刀を鞭のように振り回す。
あまりのスピードに剣先がまるで本物の鞭のようにしなり、剣圧で暴風が巻き起こる。
「あははははははッ!」
幻影は次々とかき消され、ラフィーニャにはまったく届かない。
俺とメイファはお互いまったく動けずにいた。
「くっ、よもやこれほどの使い手とは。
伝説に聞く剣鬼のようじゃ」
「おぉーい、どうすんだよ! これじゃ近づけねえぜ!」
必死に突破口を探る。
額に脂汗が浮かび、頬を滴り落ちる。
ひとつだけ……ひとつだけ案が浮かんだ。
だが、それは諸刃の剣とも言えるものだった。
「俺が動きを止める。メイファはその隙に攻撃を」
「だが、それではお主が……」
「いや、これしかねえ!
俺よりメイファの方が動きは速いんだ。後は任せる」
承服しかねるといった表情のメイファに「安心しろ。死ぬ気はない」と言い放ち、俺は剣の暴風の中に飛び込んだ。
一応俺も全力で攻撃を試みるものの、やはり弾かれる。
構わず武器を捨て、そのまま捨て身でラフィーニャに突進した。
「うおおおおおおおおお!!」
ゴンッと重たい衝撃が俺の身体を突き抜けた。
恐る恐る見ると、ラフィーニャの剣が俺の胸に深々と突き刺さっていた。
「ぐっ……がはっ」
口から大量に血を吐き出す。
……だが捕らえた!
ラフィーニャの剣は、抜けないッ!
「はああああああああッ!!」
その隙をメイファは逃さない!
グンッとラフィーニャを通じて衝撃が俺の方まで届く。
ラフィーニャの腹部に短剣がねじ込まれていた。
俺と同様、口から血をゴポッと吹き出すラフィーニャ。
「ぐふっ……勝負アリだぜ」
「ふふ……見直したわ。あなた、とても立派な戦士じゃない」
そうして、俺とラフィーニャは同時に地面に倒れ伏した。
メイファが能力を解除し、霧が晴れる。
「お、お頭! い、いったい中で何が起こったでがすか!?」
「クロウ! ねえ死なないでクロウ!」
地面が血で真っ赤に染まるところへみんなが駆け寄ってくる。
あばらのあたりが燃えるように熱い。
意識が朦朧としている。
ひょっとして俺はこのまま死ぬのかも知れない。
ミリエルの小さな手のひらの温もりがありがたかった。
そこへとても内気で恥ずかしがり屋の少年がやって来る。
「あ、あの、みなさん落ち着いて……。と、通してください」
レヴィだった。
「ぼ、僕が治療しますから、み、道を開けてくださぁーいッ!!」
いつもの調子からは考えられないほど大きな声で叫ぶレヴィの様子に、ようやく道が開けられた。
「ひ、治癒、治癒!」
レヴィの魔法を受けた俺の身体の傷はみるみる塞がっていく。
刺さった剣が引き抜かれ、粉砕したあばらが修復されていく。
気づけば血はもう一滴も流れていなかった。
「レヴィちゃん、私もおねがーい」
「は、はい。あの、いつものことですが無茶はしないでください……」
「はいはい、レヴィちゃんは心配性ね」
治癒の魔法をかけられると同時に、ラフィーニャは慣れた様子で身体に刺さった短剣を引き抜く。
そして、座ったまま大きく伸びをしてすっかり毒気が抜けた表情を見せた。
「あーあ、楽しい時間はあっという間ね」
俺は横になったまま隣に座るラフィーニャに静かに語りかける。
「……最初から、殺す気はなかったわけか」
「まあね。でも、それがわかってたら面白くないでしょう?」
屈託のない笑みを見せるラフィーニャ。
俺はドッと肩の力が抜ける。
「はぁー……まんまと三文芝居につきあわされちまったぜ」
「あら、芝居だなんて。わりと本気で打ち込んだのよ」
「お主、なかなかクレイジーな女じゃな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
空は少し日が傾いて、心地よい風が吹き抜けてきていた。
木々がざわざわと葉を揺らす音を聞きながら、俺は少しだけ目を瞑った。




