7.エピローグ(野田 明良)
通っている高校で入学式があったその日の午後。
アークの2階にある休憩スペースで、翔吾がソファに腰掛けて深刻そうに一枚の紙を睨んでいるのを見つけた。
「何かあったのか」
不思議に思い声をかけると、翔吾は俺に目を向けることなく無言で手にした用紙を渡してきた。
受け取って目を通す。それは俺たちが通う高校の、新1年生のクラス名簿だった。
こいつ、マヤちゃんのことが心配でどこからか取り寄せたな。
「マヤは1年4組。吉澤先生が担任だ」
「ああ、よかったじゃないか」
吉澤先生はこの街の伝説ともいえる人だ。
学年を問わず生徒たちから絶大な信頼があって、影響力もすごい。
あの先生が担任ならば、マヤちゃんに危害を加えようとする奴もある程度は牽制できるだろう。
改めて1年4組の名簿を見直す。
そこには皇龍所属者だけでなく、様々な理由で俺たちがマークしている人物の名前も何人か見つかった。なるほど、このクラスは問題児とまではいかなくとも訳ありな生徒が集められているのか。
俺が名簿を見ている間、翔吾は正面を向いたまま微動だにしなかった。
「どうした。マヤちゃんが問題児に位置付けられたのが気に食わないのか?」
「……4組に水口がいない」
言われてその事実に気づき、俺は再度名簿に目を通して奴の名前を探す。
水口凍牙の名前は見つけられた。
だがそれは、吉澤先生のクラスではかった。
「春休みにあれだけ目立った奴が、あの先生にマークされていないのはなぜだ」
自らに問いかけるように翔吾が呟く。
たしかに、先日街で起こった一連の騒動はすでに吉澤先生の耳に入っているだろう。
難ありな生徒の担任を自分が受け持ちたいと望むなら、吉澤先生の力があれば、クラス発表の1日前でも生徒を入れ替えさせることはできたはず。
しかし水口は吉澤先生のフィルターを素通りした。
不思議といえば、不思議なことなのかもしれない。
だけどな、翔吾よ。
「考えすぎだと思うぞ。水口が本気で皇龍に喧嘩を売ったとかならまだしも、くだんの件も濡れ衣が証明されたわけだからな」
翔吾はただじっと前を見続ける。
俺の言葉に納得していないのだろう。
だからといってどんなに考えても、これ以上確かな答えは出てこない。
直接聞きに行ったところで、吉澤先生が俺たちにクラス編成の意図を教えてくれるはずがないのだから。
「よかったじゃないか。マヤちゃんと水口が同じクラスじゃなくて」
なおも反応を返さない翔吾に軽くため息をつき、俺は奴の座るソファの前にあるローテーブルへと名簿を置いた。
「——案外、水口以上の問題児が紛れ込んでいるのかもな」
軽く冗談混じりに言い放ち、その場を離れた。
*
1年4組 高瀬結衣
自分の言ったことがまさかの真実だったと俺が思い知るのは、もう少し先のことになる。
『めぐりえにし』END.
『モノトーンの黒猫』これにて完結です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。




