ある女の改心
彼氏とは婚活パーティーで出会った。田舎の会場で行われた婚活パーティーで、彼は人一倍目立っていた。
背がすらっと高く、短めの黒髪も清潔感があった。スーツも似合い、いかにも有能そう。職業は弁護士だと言っていた。田舎の総合病院で看護師として働く私にとって、彼はとても洗練されて見えた。
相手にされないだろうと思っていたが、マッチングしてしまった。彼は積極的かつ情熱的で、すぐ深い関係になり、結婚の約束もした。彼は開業資金にお金が必要というので、百万円近く貸していた。
「え、それ、詐欺じゃね? 相手の仕事の連絡先とかちゃんと確認した? 親にあった? 彼から友達や兄弟の話は聞いた事ある?」
それを女友達に話したら、注意された。
「やめな。遊ばれてるよ」
「うるさいな。ハイスペ捕まえて私に嫉妬しているんでしょ?」
「はあ? 私はあんたが心配で」
「偽善者! いい加減な事言わないで!」
「いや、どう考えても相手はニセモノだよ。彼女からお金取るっておかしいって」
「もういい!」
こうして大喧嘩し、私は友達を失った。ただ、彼氏は一回も実家にも部屋にも連れて行ってくれる子事はなかった。その代わり、お金ばかり取られた。夜勤で貯めたお金もどんどん減っていく。
何かおかしいと思っていたが、それを認めるのも怖かった。
そんなある日。家の周りの田舎道を歩いていると、目の前に真っ白なネコが現れた。目はミントグリーンで透き通り、ファンタジー世界にいるネコみたい。毛並み普通のネコよりふわふわだった。
『私の言う事を信じて』
「え?」
え、ネコが話した?
しかし、ネコは私の目の前からサッと走って逃げた。
「待って!」
このネコは何かを伝えたがっているのだろうか。わからないが、とにかく置いかける。
走って追いかけたが、いつもと違う道に入り、ネコを見失ってしまった。いつもの運動不足が恨めしい。
ふと、顔を上げると、古い民家の塀に変な看板があるのに気づく。
「ニセモノに警戒せよ。 イエス・キリスト」
黒地に白抜き文字でそう書かれていた。
「どう言う事?」
意味はわからないが、あのネコがこの看板まで案内した?
イエス・キリストというと西洋の神様のイメージだが、「ニセモノに警戒せよ」なんて、あの彼の事を言っているのだろうか。確か十字架の上で犠牲になった事は知っているが、それ以上の情報はよく知らない。
そういえば、喧嘩別れした友達も彼の事は、ニセモノだと言っていた。
この看板がどういう意図で貼ってあるかは、全くわからないが、何かを伝えたがっている?
『今は、ネコとも神様とも和解しなくていいから、友達とは和解しなさい』
「え?」
再び、目の前にあのネコが現れた。人間の言葉を話している。やっぱ信じられない。
『心からネコを信じなさい』
私の思っている事も見透かしている?
科学的には全く根拠はないが、なぜか目の前にネコの言う事を信じてしまった。
「わかった……。友達の言う事は、間違ってなかったかも」
『そうよ。さっさと行きなさい』
私は後ろ髪を引かれながらもネコと別れ、友達に頭を下げ、自分が間違っていた事を話した。
友達はびっくりしていたが、すぐに許してくれ、一緒に警察に行き、結婚詐欺の被害を全て話した。
数日後、彼氏、いや結婚詐欺師は逮捕されたという知らせを受け取った。他にも何人も被害者がいて、中には会社のお金を使い込んだものもいるらしい。私はそこまでではなかったので、命拾いをしたようだ。
もっとも心の傷はの残り、三年ぐらいずっと仕事に打ち込んでいたが。
あれ以来、あのネコにも会っていない。代わりにイエス・キリストについてはちょっと気になってしまい、「自分を犠牲にできる人」を条件に久々に婚活したら、あっさりと相手が見つかり、結婚できてしまった。
思えば容姿や収入など、どうでもいい外側のものばかり執着していたから、婚活もうまくいかず、詐欺にもあったのかもしれない。結婚そのものは自分を幸せにするものではなかった。むしろ、相手を幸せにしたいと思うものなのかもしれない。夫は見た目も収入も良くは無いが、それ以上のものを持っている人だった。
和解した友達も呼び、賑やかで笑顔が溢れる結婚式を挙げた。
あのネコに会う事は二度となかった。寂しいが、今はとても幸せだった。




