永遠の命
ある祝日、瑛美は彼氏と一緒に映画を見ていた。いわゆる映画デートだ。
元々瑛美は陰キャだったが、今の彼氏である杉野和哉に一目惚れ。見た目や性格、学力のグレードアップの努力を重ね、ついに告白が受け入れられて、こうしてデートをしている。次は憧れの制服でイオンデートの約束もしており、楽しみなところだった。
しかし、今見ている映画は感動的だった。余命僅かの女子高生の儚いラブストーリー。世界を7日で創ったという大天使とともに、生きる意味を見出していくファンタジー要素もあり、さらに涙をさそう。タイトルは「余命と永遠の命〜私に残された666時間〜」。
瑛美は今日の映画だけでなく、こういった余命系の小説や漫画が好きだった。家の本棚には、そういった本がぎっしりとあり、涙で濡れていた。やっぱり号泣できる感度的なストーリーに弱い。
一方、彼氏の和哉はしらーっと冷静だった。そこは少しガッカリだが、完璧な彼氏もいないだろう。映画を見た帰り道は、この映画の感想を言い合う。和哉の感想はクールなものだったが、「そういう視点もあったのか」とちょっと新鮮だったりした。
そんな会話をしつつ、地元の駅に戻り、駅前の商店街をぶらぶら歩く。この商店街にあるカフェで最後にお茶をする予定だった。
「あれ、何この看板」
失礼ながら、この商店街が田舎らしく栄えてはいない。店員も老人が多そうだった。潰れた店も目立つ。そんな中、商店街にある民家の壁に変な看板があるのに気づく。
黒地に白抜き文字で「キリストは永遠の命を与える」と書いてある。妙に迫力があり、ホラー風だ。キリストというからには宗教の何かだろう。カルトだろうか。
「いやいや、これはキリスト看板だって。よく田舎にある。クリスチャンの布教活動の一環で、洗脳したり大金とるようなカルトではない」
「へー、和くんは物知りだね!」
どちらと言えばクールな和哉だったが、物知りというのも改めて惚れてしまう。
「ところでキリストさんって永遠の命くれるっけ? なんか歴史の教科書だとすっごい迫害されてなかった?」
歴史の教科書ではキリスト教というと、ザビエル、踏み絵、長崎の教会への原爆投下。そんなイメージでよく知らない。
「迫害はキリスト教が日本人を奴隷にしてたからっていうのが一般的だ」
「ふーん」
「ま、宗教組織と教義って厳密には違うからね。ここを分けて考えれば、キリスト教はとんでもない簡単な宗教」
「そうなの?」
「キリストが十字架で人類の罪を背負い、それを信じるだけで天国に行って永遠の命を得るっていう単純明快な教義だからな」
「へえ。だったら、ウチらが見た映画ってクリスチャンから見たら何の感動ポイントないね」
映画のオチは、転生し、前世からの運命の相手と出会うところで終わっていた。
「まあ、それはそうだな。あの人達、楽しめる娯楽少なそうでどうしてるんだろうな」
「そっだねー。まあ、どっちが正しいとかウチらが言える事でも無いけどね」
しかし、そんな考えがあるとは、世界は広いものだ。
確かに余命関係の感動的なストーリーは面白い。でも、そればっかりでは無く、違う視点の物語に触れても良い気がしてきた。そう、世界は広いのだ!
「とりあえず、早く店行こう!」
「うん!」
瑛美は頷き、笑顔を見せていた。
今は生きている事、こうして彼氏とデートできる事が何より幸せだと思う。それだけは間違っていない確信があった。




