あぁ、世、世、世。神の言葉を聞け
魔女狩りというものが行われていた時の話である。
魔女といっても本物の悪魔崇拝者は、狩られない。そういった人物は名家にいて、善人を装っている事の方が多い。
高齢、孤独、無学、社会的地位のない女性が魔女の濡れ衣を着せられ、殺されていた。
そんな女性だけでない。猫も魔女の使いとされ、捕らえられていた。もっともそのおかげでネズミが減り、ペストが流行していたが。ペストの流行も魔女のせいだと濡れ衣を着せられ、迫害は一層強くなっていた。多くはキリスト教徒がこんな事をやっていた。ローマ教皇の権威が絶対的になるにつれ、こうした異端狩りも激しくなっていた。
「どうしよう」
フローラは、黒猫を抱きしめながら呟いた。
魔女の条件に合致するフローラは、異端狩りから逃げ、森の中を彷徨っていた。森には一匹の黒猫がいて、つい抱きしめてしまう。自分と同類の猫を見ていると、ほんの少しだけ心が落ち着く。それにモフモフボディを触っていると、癒される事は確かだった。
それでもずっと森の中を彷徨っているわけにいかない。森を出たら殺される可能性が大だが、ここには食べ物はない。だんだんと陽が翳ってきたし、これからどうするべきか。
「あれ?」
そんな不安に押し潰されそうになっていると、猫に首輪がついているのに気づく。しかも、首輪には小さな巾着袋もぶら下がっていて、中には住所が書かれた紙があった。どうやこの子は、どこかで飼われていた猫のよう。
迷ったが、住所にある家に届けに行く事にした。異端狩りに怯えていたが、今はいないようだった。
「何この家……」
ついた家は大きな屋敷だった。もしかしたら貴族の屋敷かもしれない。怯んでしまうフローラだったが、猫を渡すと恩人だとで歓迎されてしまった。事情を話すと、いつまでもこの屋敷にいて良いという。
「そんな、悪いです」
屋敷の女主人に、そういってしまう。フローラと同じぐらいの妙齢の女性だが、綺麗なドレスに身を包み、明らかに身分違いだと察する。また、異端狩りの問題みある。この女主人は味方? 公爵家の未亡人と言っていたが……。
「私は魔女狩りなんて反対してるんだから。聖書には異端を排除しろなんて一行も書いてない。敵を愛せとあるのよ」
「本当ですか?」
「ええ。あぁ、世、世、世。神の言葉を聞けと言いたいわ。あなたが例え敵だったとしても、私は助ける。良きサマリア人のように」
女主人の劇のような物言いにフローラは、気が抜け、クスリと笑ってしまった。
足元にいた黒猫も鈴を転がすように鳴いている。
こうして命拾いしたフローラは、未亡人の家でメイドとして働き、生涯を終えた。周りにはフローラと似た境遇のメイドも多く、賑やかな余生だったらしい。
フローラのそばには、いつもあの猫がいて、友達のようだった。殺される寸前から猫のおかげで助かったフローラは、かなり幸運といって良いだろう。
いつの間にか猫は魔女の使いから幸運の象徴として認知されたという。




