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心からネコを信じなさい〜眠る前の優しい物語〜  作者: 地野千塩


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イエス・キリストと唯一のネコ

「つ、辛い……」


 陽野梨沙は、小さく呟くと、ため息をついた。あまりにも心が辛く、飼い猫のクロを膝に上に抱き、モフモフしてみるが、思った以上に癒されない。


 なぜか知らないが、クロは最近妙に塩対応で、キッチンをメチャクチャにしたりしていた。可愛いから許すが、クロはツンと顎をあげ、梨沙の方を見向きもしない。


 なぜそうなったかは不明だが、梨沙がスピリチュアルにハマったあたりから、クロは機嫌を損ねる事が多かった。


 梨沙がスピリチュアルにハマったきっかけはSNSだ。婚活に行き詰まっていたところ、SNSにいる自称・霊媒師に相談に乗って貰うようになってから、引き寄せの法則、アファメーション、イメージング、ヨガにはハマっていった。会社で好きな人ができたまではよかったが、いくらスピリチュアルをやっても恋愛成就に至らず、挙句の果てに振られた。


 あれほど一生懸命スピリチュアルを頑張っていたのに。


 原因をSNSで探すと、スピリチュアルは元々アンチキリスト教の人が私怨で作ったカルチャーである事も知り、ドン引きだった。クリスチャンのスピリチュアルは背後に悪魔がいるから危険という投稿も読み、なんとなく冷めてしまった。結局、その悪魔に都合の良い家柄、容姿、財力、コミュ力を持ったものが願いが叶いやすいようで、騙された気分だ。また、願いが叶っても代償を請求されるとあり、怖くもなった。


 だからと言って失礼の痛みなども取れず、有給を消化しながら、家でぐずぐずしていた。


 そんな折、母校の恩師から文化祭の知らせをもらった。母校はカトリック系の女子校で、親の見栄の為に通っていたが、なんだか久しぶりに恩師の顔を見たくなった。


 高校の文化祭といっても人が多く、すっかり人酔いした。屋台で菓子や軽食も買ったりしたが、やっぱり一人では楽しめない。近所の公立校の制服をした若いカップルの姿を見かけると、何とも言えない気分にもなる。


「そうだ」


 裏庭に行こう。よく授業や部活をサボって人影がない裏庭にいた事を思い出し、そこへ向かう。


 裏庭につくと文化祭の騒々しさから遠く、静かだった。秋の風が柔らかく吹き、綺麗なコスモスが咲き乱れ、ちょっとしたお花畑のようだ。


「あ……」


 銅でできたキリスト像も、昔と変わらずそこにあった。確か十字架にかかる前に山で祈ったキリストをイメージした像だった。目を閉じ、手を組み熱心に祈っている。


 いわゆる偶像と言われるものだが、カトリックでは識字率が低い地域にも根付いていたため、像や絵が多くあるという。


 そのキリスト像に、どこからか猫がやってきた。ちょっと汚い野良猫だったが、キリスト像の膝の上に登っていた。リラックスした表情を見せ、キリストの腕の中にすっぽりと収まっている。


 その猫の目は完全に安心しきっていて、まるでキリストに甘えているようだった。幸せそうにも見えた。


 梨沙は、この猫を見ながら、ちょっと羨ましくなってきた。自分もあの猫みたいに無条件に受け入れてくれる人を探していたのかもしれない。


 婚活や彼氏探しをしていたが、心の底にある欲求は、これだったのかもしれない。どんなに汚れていても、無条件に受け入れてくれる人が欲しかった。残念ながら、そんな人は見つからなかったが、その対象が神様だったらどうだろうか。


 ふと、そんな考えが浮かぶ。


「にゃー!」


 あの猫は、心から幸せそうな声をあげている。確かに宗教とかは気持ち悪いけど、神を求める気持ちは自分の中にある事は否定できない。実際、日本人は無宗教と言いつつ、「神様」自体は大好きな国民だ。自然に祈る気持ちは梨沙も否定できない。その中にも神様がいるとは思う。


「お前は幸せものだね」

「にゃー」


 梨沙があの猫を見つめながら、苦笑していた。なぜかもう、心の苦しみは消えていた。たぶん、その原因が分かったからだろう。


 再び秋の柔らかな風が吹き、足元のコスモスが揺れていた。

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