92:語り出す怪生命
「おお、お二人そろわれたようでござるな」
床に正座しながら、異形の生命体が右鋏を上げて挨拶する。
錬金術師は空中から愛用の魔杖を取り出し、臨戦体勢に入る。
「何者だ! 魔王のしもべの者か!」
「おお心外な。魔族ではござらん。他生物を外見で判断するのは非論理的でござる」
怪生物は鋏を動かして、二人に座るようにうながす。
錬金術師と山田は警戒しつつも座布団を取り出して座り、怪生物と向き合った。
日本基準で言うと三畳ほどの部屋なので、三人だとけっこう狭い。
怪生物はおもむろに、ふしゅる、と咳払いをして話を始めた。
「申し遅れた。それがしは、ご公儀お庭番を務める伊賀者にござる」
「えぇ……」
山田はまたもや固まって次の言葉が出ない。それも当然のことだろう。
ご公儀だの、お庭番だの、伊賀者だの、この世界の者にしか判らない文化的背景を有する単語を使って説明されても、異世界人である山田にその意味が判るはずも無い。
だがその事を気にする様子も無く、怪生物は複眼を動かしながら話し続ける。
「このような姿でござるが、それがしは遠い宇宙の彼方から、この星の平和を守るためにやってきた正義の宇宙忍者でござる」
「う、宇宙忍者? さっきの怪光線も、もしかして忍術なんですか?」
「さようでござる。それがしの故郷の忍法は、この星の500年先を行っているのでござる」
「500年先の忍法」
「して本日は、さるお方のところにお二人をお連れするため参上つかまつりました」
「さるお方……ってその、ご公儀お庭番が来た、という事は」
「ご一緒においでいただければお判りになるでござる」
山田が何か答えようとするのを、錬金術師がとどめる。
「……何も説明せずに一緒に来い、と言うのは横暴ですね。もし行かないと言ったら?」
「おお、それは困るでござる。お役目が果たせぬと、それがしの嫌いな:::::を顔にかけられてしまうでござる」
「え、嫌いな……何?」
言葉がうまく聞き取れず山田が聞き返す。
「おお、それは言えないでござる。でもどうせかけられるなら同族の若い雌の排泄液をかけられたいでござる。タイニーバルたんハァハァ」
「どうしてここで特殊性癖をカミングアウトするんですか」
「自分が好きなものを、他の方々にも知っていただいて広めたいのでござる。
もし誰かが否定したとしても、それがしは感情的になることなくその魅力を語り続ける所存でござる。そうすればごく一部ではあれど、新しい世界を知って同好の士となってくれる者が必ずやいるはずでござる。
山田殿も一度お試しになってみてはいかがでござろうか。丁度そちらの錬金術師殿がそろそろ頃合いに」
話をふられた錬金術師は慌てていくつかの術式を自分に付与すると、顔を赤くしながら、ふんっ!と鼻息を立てて服を整えて座り直した。
「おおお、魔法で処置なさるなどなんと勿体ない事を。この場で山田殿の顔面に向かってお注ぎになればよろしい物を」
「そういう趣味に勧誘する目的でいらしたのでは無いでしょう?」
「おっと、そうでござった。では話を戻させていただき、これよりお二方を不思議時空にお連れするでござる」
「ふ、ふしぎ?」
「ほれ、よく造物主様方が転生者とご面談なさるためお使いになられる、摩訶不思議な異次元空間の事でござる。
これからしばしの間、あなたの体はこの世界を離れ、その不思議な空間に入っていくのでござる。ではよろしいでござるか。答えは聞いてないでござる」
「あ、ちょっと待」
三人の姿は忽然として消え、あとにはただ静寂が残るばかりであった。




