90:聖教会の最終審問
「……以上がこの件に関するすべてである。
よって被告、執事ヤマダを王国法で禁止されている黒魔術を使用した罪により火刑に処す。この処遇に対して反論があらばこの場にて述べよ。
異議無き時は沈黙を持って示せ」
審問場でお白洲の敷物の上に座らされた山田に向かって、審問長が罪状とそれに対する刑罰を読み上げた。ちなみに極刑の場合は主文(判決)を最後に伝える事が多く、無罪の場合は『被告人は無罪』が冒頭に来るのが慣例である。
そして「麻痺」と「沈黙」の術式を付与された山田は、正座したまま動かずに沈黙を保っている。
「では、当審問会はこれにて……」
「異議あり!!!!」
若い女性の声が審問場に響きわたった。
「審問長!! 被告ヤマダは黒魔術を使用してはおりません!!」
今回は満を持して錬金術師の登場である。白魔術師の礼服を着てビシッと決めている。たいへん凜々しい。
「何者だ! 神聖なる審問場で許しもなく発言する不届き者は!!」
「ヤマダの主人、錬金術師のファナ・コサンでございます」
「弁護人でない者の発言は認められぬ。ただちにこの場から下がるがよい!」
「いいえ、王国法では弁護士や検事の資格が無い者でも特別弁護人として審問場に立つ事が認められております」
錬金術師は毅然とした態度で堂々と反論する。
ちなみに地球の場合、異端審問に弁護人というものはそもそも存在しない。
この世界でも聖教会に逆らった弁護人は物理的に首が飛ぶので、異端審問で被告の弁護を引き受ける者はほとんどいない。いたとしても聖教会から買収か脅迫をされているのが一般的である。
闖入者を取り押さえようとした警備員は錬金術師に「混乱」の術式を付与されて同士討ちをはじめる。連絡をうけて外部から騎士団員達が応援に駆け付けたが、同行していた女騎士団長に一喝されて動きが止まった。
「こちらを御覧下さい」
錬金術師が古文書の画像を空間に投影する。
「初代勇者様が藁人形をお使いになり、魔人をお倒しになられたという古記録でございます。王立国会図書館に収蔵されていた王立大学鑑定済の文献です」
審問官達の間にどよめきがおきる。
「調査の結果、藁人形は初代勇者様が異世界の偉大なる知識を用いてお創りになられた、神聖なる魔道具であることが判明いたしました。
それを黒魔術扱いするなどという事をなされば、聖教会にとって必ずや禍根となりましょう。
偉大なる審問長様が、そのようなご判断を善しとされるとは私には思えませぬが、そのお考えや如何に」
書記はあわてて錬金術師の言葉を記録に残す。
審問長は苦々しい顔をするが、こうなると強権的に結審することもできかねた。
「一同の者、静まれい!
被告への処罰の申し渡しはひとまず留め置き、再度吟味の上、後日あらためて沙汰を申し渡す。それまで錬金術師は審問場にて拘置。女騎士は騎士団の責任において拘留せよ」
「この資料はすでに各方面に配布してございます。なにとぞ公正なお裁きを」
言いたい事を伝えた錬金術師は、その後はもう抵抗する事もなく騎士団から魔法封じの石でできた手錠をかけられた。そしてべそべそと情けなく嬉し涙を流している山田と共に、拘置場へと連れていかれる事になったのである。




