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89:そして貴様は火炙りだ

「異端の黒魔術を使用した罪により、執事ヤマダを7日後の最終審問の終了後に火刑に処す。錬金術師ファナ・コサンは雇用者責任により30日間の蟄居閉門ちっきょへいもん(訳者注:自宅謹慎)」


 それが聖教会異端審問部からの通告であった。


 最終審問が終わっていないのに、もう処刑が決定しているのはたいへん迅速である。というか、審問は形式だけで処分はもう決まっているから葬儀の準備をしておけ、という関係者に対する暖かい心遣いである。

 言うまでもないが宗教裁判は超法規的処置なので、法的な整合性などというものを気にしてはいけない。


 当代の勇者が旅の一行パーティーに黒魔術師の美少女を参加させた事から、この時期すでに黒魔術を許可制で使用可能にする法律改正が(聖教会は難色を示したが)なされている。しかしながら無許可の黒魔術使用はその当時はまだ、邪神召喚に次ぐ重罪とみなされていた。


 山田が問題視されたのは、聖教会所属の療術士が治せなかった病気を回復させてしまった事にあった。

 言うまでもなく聖教会の面子めんつを丸つぶれにする行為なのである。ただちに聖教会上層部は、画像は映さずに音声のみを伝達する黒い魔法石版を通じた遠隔会議によって、山田を処刑することに決定した。


「健康体であった騎士ノーラ・クローをたぶらかし、その身体機能を禁呪によってさらに強化する実験をした行為は死罪に値する」

というのが表向きの処刑理由である。


 むろん本音としては

「聖教会には病気の原因が見つけられなかった、などという話を言いふらされる前に処さねばならない。女騎士の活力が高まったのは禁断の呪文を使ったからであり、聖教会が無能だったわけではないという事にするのだ。騎士の病気はその時にはもう治っていたと言い通せ。異論のある者はすみやかに消去デリートせよ」

という話である。


 山田は異端審問官が拷問具を見せると3拍で自分の罪を認め、自白内容がすでに書き込まれて用意されていた調書に承認の署名をした。


「藁人形は自分が見つけ、雇用主に隠して使用法を研究した。錬金術師は何も知らない」


 御家人である錬金術師や、騎士団員が黒魔術に関わっていた事にすると王国にも雇用者責任を問わねばならず話が面倒になる。そのため国民資格を有していない山田一人に責任を押しつけ、極刑に処すことでそれ以外の者への見せしめと口封じをするという判断である。


 これによって錬金術師は極刑からはまぬがれたが、山田がもうすぐ火炙ひあぶりにされるという通告を聞いて半狂乱となった。


「何なの!? 悪い事なんて何もしていないでしょう!! 人助けをして何で処刑されなければいけないの!!

 私だけ助かってヤマダが消去デリートされるなんて、理不尽極まりない!!!」

「まあ落ち着け、錬金術師殿。むぐむぐむぐ」


 召喚士は香り高いカンナビスを混ぜ込んだ焼き菓子をサクサクと食べながら、錬金術師をなだめる。そのあと白茶はくちゃで菓子を流し込んで言葉を続けた。


「どうにもならなくなった時は、わしが召喚獣総進撃で処刑場を破壊して山田を助けてやるゆえ心配するでない。その後はわしの屋敷にでもかくまっておこう」

「でも、無実の罪で死刑判決をうけるなんて!」

「よくある話じゃ」

 召喚士は白茶を入れてある「魔法の瓶」から追加のお茶を湯呑みに注ぐ。


「とはいえ脱獄すればその後は二度と王国に戻れぬし、錬金術師殿も山田と一緒に暮らす事はもうできなくなるがのう。それとも、おぬしも一緒に逃亡者になるか?」

「……そういう方法もありますね」

「おぉ、冗談で言ったのじゃが、本気で思いつめておるな……

というか本っっ当に面倒臭いのうおぬしら。何でいまだに進展しとらんのじゃ、このヘタレ共は」


 召喚士は「魔法の瓶」を収納して言葉を続ける。

「しかしまあ藁人形を使った程度で死罪とは、世知辛せちがらい世の中になったものじゃのう。ヤスヒコ様がお使いになられた時には、むしろ喜ばれたものじゃが」


 錬金術師は一瞬固まったあと、召喚士に詰め寄った。

「しょ、召喚士様、今何とおっしゃいました? 初代勇者様が何を!?」

召喚士はその様子に少し引きながら答える。


「あの藁人形はヤスヒコ様の故郷の知識を元にして、大賢者ハナセレブが作ったものじゃ。魔人チャバネゴブリンの群れを倒すためにヤスヒコ様自らがお使いになられたと記憶しておる」

「いつ頃ですか!?」

「確か冥王を倒した直後、戦後混乱期の頃じゃな。闇市の食堂に『じょうじ、じょうじ』と鳴きながら無数のゴブリンが現れて」

「ありがとうございますっ!!!」


 錬金術師は大慌てで「魔法の鏡」をび出すと、ものすごい勢いで何かを情報検索しはじめた。召喚士はよく判らぬまま、黙って錬金術師の側を離れた。


「……何を思いついたか知らぬが、少し様子を見る事にしてみるかの。一応根回しはしておくが」

 そうつぶやいて、召喚士はそっと使い魔を外へと送り出した。

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