82:覆面女性の謎
「ヤマダ! 大丈夫!?」
茂みの中から肩幅の広い、オカマっぽい化粧をした口髭の冒険者が現われて山田のほうに駆け寄ってきた。
「うわああ! 今度は誰っ!?」
「私よ! あ、ごめん、夜歩き時の用心に変装幻像を展開してるの」
「えええ、お嬢!?」
声は錬金術師だが見た目はオカマのおっさんと、白装束で鉄輪をかぶった怪しい男の会話。非常に状況が判りにくい絵面である。
「あ、ありがとうございます……助かりましたお嬢」
「何なの、今の魔物」
「いや、自分にも何が何だか」
会話している二人のところに、騎士装を解いて王国服姿に戻った覆面女性が戻ってきた。
「すまない、助けるつもりが助けられてしまった……えーと……そちらは冒険者殿? で良いのかな、それと……」
山田のことを職業名で呼ぼうとして女性は困惑している。しいて呼ぶなら不審者殿である。
「あ、いえ、自分の命が助かったのはあなたのおかげです。王都で執事をしております山田と申します。あなたのお名前は」
「王国騎士団の一員だが、名乗るほどの者では無い。また生き恥をさらして……死に損なってしまった」
「は?」
「いや、こちらの話だ。素晴らしい剣だった、執事殿」
そう言って女性は地面に片刃剣をそっと置いた。
「すまないが、剣はここに置いておく。わたしはあなた方にあまり近寄らぬほうが良いから」
「え、何故ですか」
山田が女性のほうに行こうとすると、彼女はそれを止める仕草をする。
「長い時間一緒にいると、わたしの病が伝染るかもしれない」
それを聞いた山田はびくり、として動きを止めた。
「……剣は浄化してから持ち帰ってくれ。貴殿の誇りある闘いに、そして高潔なる精神に御礼を申し上げる」
王国式の騎士礼をしたあと、女性は後ろを向いて杖をつきながら立ち去っていった。山田達は声をかけることがはばかられて、黙ってそれを見送った。女性はそのまま二度と彼らのほうを振り向かなかった。
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「という事があったのです、召喚士様」
「……ふむ、また魔族か。むぐむぐむぐ」
召喚士は小皿に乗せたオハギに醤油をかけ、匙でくずして食べながら部屋に戻ってきた山田達の話を聞いた。
ちなみにオハギとは日本を起源とする食べ物で、マグロという巨大魚の背骨の周りについている生肉をはぎ取って細かく叩いたあときざんだ青ネギを混ぜ、その生ペーストで蒸し炊きにしたオコメの塊の周りをくるんだ楕円球型の食品である。
「いやあ、格好良かったです。必殺技の名前を叫んで一撃のもとに相手の武器を真っ二つに」
山田がそう言うと、錬金術師と召喚士は微妙な様子になって顔を見合わせた。
「……あれ、自分、また何かやっちゃいました?」
二人の様子を見て山田は焦った顔になる。
「ううん、ヤマダの事ではないの。……召喚士様」
「うむ、病で体が動かなかったのだろうが……どうも妙だの」
怪訝な顔をする山田に、錬金術師が説明する。
「剣術の練習時ならばともかく、実戦の最中に技の名前を叫ぶような事は普通はしないでしょう? 相手に自分が何をするか知らせるだけだから」
「はあ、言われてみれば確かに」
「あれは魔法詠唱よ」
「魔法?」
錬金術師は肯定の仕草をする。
「何かの理由で思うように行動できなくなった時、あらかじめ記憶させてある動作で強制的に体を動かすよう設定した術式。それを短縮詠唱で発動させているの」
「Excelのマクロみたいなものですか」
「言葉の意味がよく判らないけど、病気で体が不自由なのでそういう手段を使ったのでしょうね。
……でも、変だとは思わない?」
「変?」
「普通の病気なら治癒呪文で治るでしょう? 手足が動かなければ切り落として新しく生やせばいいんだし」
「うええ、この世界ではそういう感じなんですか?
……でも、そう言われてみれば……あの人、何で治らないんだろう?」
「気になるわね……うん、気になる。気になるわ。詳しい状況が知りたい」
「ああああ、お嬢がまた怪しい表情に」
こうして錬金術師と山田は、覆面女性の行方を追ってみることに決めたのである。




