81:神速の斬撃
今、山田以外のすべてが、人大熊猫も、女性も、あらゆる動きが止まって見えた。
体にまとわりつく、独特のねっとりした空気の感触。
(お嬢の超加速魔法だ……来てくれたんですね!)
山田は走って女性のところに行き、その体を引きずって少し離れた場所に移動させた。
鎧兜が重いためお姫様だっこをするのは無理であった。外部から見ていた場合は瞬間移動になるが、山田の主観ではかなりさえない行動である。
連続活動すると体がもたないので、山田はここで一旦加速をやめた。
何がおこったのか事態がのみこめず鎧兜の女性はとまどっている。起き上がろうとしたがまた倒れてしまう。
「応急処置を」
山田が自分の魔力を彼女の足に流し込み筋力強化する。本職のように上手にできるわけではないが、体の動きを多少は補助できるはずである。
「すまない、助かった」
女性は立ち上がった。今度はしっかりした動きである。
「今のうちに逃げます!」
山田の言葉に女性は否定の仕草をする。
「騎士が敵に背を向けるわけにはいかない」
「そんな事を言ってる場合では、あああ、ほら来た」
ぼふぼふと息を吐きつつ、人大熊猫がふたたび近づいてくる。
「剣を」
「はい?」
「あなたの剣を貸してくれ。今なら大丈夫だ」
「え、戦う気ですか? いや早く逃げ」
女性は逃げようとしない。山田は困惑したが、自分の片刃剣を彼女に手渡した。
「危ないと思ったら、無理矢理連れていきますからね?」
「判った」
女性は山田の剣を握って構える。見違えるように洗練された優美な動きである。
人大熊猫は、あと一歩で攻撃してくる距離まで来た。
その時、女性が鋭い声を発した。
「虎ノ眼流・無明星流し!!!」
人大熊猫が殴りかかってくるよりも早く、女性が踏み込み魔力を込めた斬撃が走る。
人大熊猫は先読みして棍棒で防いだが、巨大な鉄塊が一刀のもとに両断されて宙に飛び、獣は顔面を切られて激しくのけぞった。
地面に落ちた大鉄塊が大きな地響きを立てる。少し遅れて人大熊猫の眉間から勢いよく吹き出す血潮。
「うきゃああああ、いたい、ちがでた」
傷はあまり深くないが、興奮状態で血圧が高いためけっこう出血が派手である。
「ふええ、ぼくはおこった。もうほんきでやってやる」
人大熊猫の全身がさらに一回り大きくふくらんだ、周囲にどす黒いオーラが立ちのぼる。
女性はふたたび剣をかまえた。
「ちょっと、あんた何やってんの」
その時、闇の中から女の子の声が聞こえた。しかしどこにも声の主の姿は見えない。
その声を聞くと人大熊猫は、びくっとして動きを止めた。
「キユちゃん」
「プリキユア4世『様』」
「キユちゃんは、キユちゃん」
「……呼び方は置いとくけど、あんた王都の近くでは騒ぎをおこすな、って言われてるでしょ?」
「でも、のうみそたべたい」
「あんたのお兄ちゃんに言いつけるわよ」
「やー、それはだめ」
人大熊猫の体は空気が抜けたようにしぼみ、肌がたるんだ坊主頭の男に戻った。
「ちょ、ちょっと何なの裸って! 女の子にそんな粗末な物を見せないでよ!」
「ぱんだ は、これが ふつうのおおきさ」
「いいから早く隠して!」
男はふんっ! といきんで腰周りだけ白い毛を生やした。白ブリーフのみを身につけた、ふくよかな男性という感じである。
「帰るわよ。ほら手を出して。
はぁもう……何であんたみたいなのが大幹部扱いされてるのかしら」
男が手を伸ばし、何かを握るような仕草をすると同時に彼の姿は消えた。
あとにはただ、黒洞々たる夜があるばかりであった。(訳者注:@芥川)




