80:白銀の女騎士
人大熊猫に襲われている山田を助けようとする謎の人物。
覆面をしていて、どんな顔なのかわからない。
「わたしが相手をする。早く逃げろ!」
女性らしき誰かは山田に向かって叫ぶ。
だが、山田は逃げる事を躊躇した。
見知らぬ人とは言え、自分が逃げたために代わりに犠牲になってしまったら寝覚めが悪い。
この世界では蘇生魔法があるので生死がかなり軽い扱いをされているが、地球人の感性を持った彼にとって命のやり取りは一大事なのである。
山田は女性を援護することに決めた。
人大熊猫を倒すことは難しそうだが、二人がかりで攻撃すれば錬金術師が応援に来るまで時間を稼ぐことができるかもしれない。
しかし、すぐに山田は女性の動きが不自然なことに気がついた。左足がうまく動かせない様子で、走って逃げることさえ難しそうだ。
(駄目だ、これでは二人ともやられてしまう)
ならば自分だけ逃げるか。だが逃げればあの女性が。
人大熊猫はふんふんと鼻息を荒くしながら、空中から石を取り出した。
「危ない! 石を投げてきます!!」
女性は山田の叫びにはっとして、空中で手を動かす。
瞬時に現われたのは白銀の盾。
投げられた石は大きな音をたてて盾ではじかれた。
「……薔薇の紋章?」
盾にほどこされているのは、薔薇に良く似たロサの花の浮き彫り。
猛烈な速度の投石にも傷一つついていない。
「騎士装!」
女性がつぶやくと、彼女は白銀の全身甲冑姿に変わった。
肩に刻まれたロサの紋章、各所に飾られた草蔓装飾。全体が優美な曲線で構成された見事な女性用の騎士鎧である。兜に隠れてあいかわらず顔は見えない。
そして右手に持つのは細身の長剣。それを人大熊猫に向けて身構えた。
しかしその体の動きはぎごちなく、精彩を欠いている。
人大熊猫はそれを見て、再びムエエエエェ、と笑う。
次の瞬間。
「ちぇすとおおおおおぉ!!!」
人大熊猫の踏み込みの一撃で、女性の剣はへし折れて盾が遠くにはじき飛ばされた。
かろうじて体への直撃はまぬがれたが、体勢を大きく崩されてよろけている。左足がうまく踏ん張れていない。
人大熊猫はそこに追い打ちをかけるように大きな石を勢いよく投げつけた。
ちゅがいーん、と大きな音を立てて石が鎧の胸に命中し、女性は吹き飛ばされてそのまま後ろに倒れた。
ふっはふっはと息を鳴らしながら、人大熊猫は棍棒をかまえて倒れた女性に近づいていく。
(駄目だ、あの人もう次は避けられない。何か援護しなくては)
とはいえ何をすれば良いのか。とりあえずこっちに気を引いてみるか。
「おいパンダ野郎、俺が怖いからそっちに行くのか弱虫うんこ。
やーいヒト族の女が好きなのか異常性癖の変態動物ばーかばーか白黒二色」
山田の挑発に人大熊猫は振り返った。そしてクカカカカと歯を鳴らす。
「おまえ、さきにしなす」
うぎゃああああ、と山田が叫んだ時。
「ヤマダ!!!」
山田の周囲の時間が止まった。




