75:恐るべき侵攻計画
山田は「魔法の鏡」に映し出された巨人鎧の映像を見ながら目を丸くしていた。
「あの、これ、空っぽの鎧なのに動いてるんですか?
何かすごい魔法も使ってたじゃないですか。ほら、全部の指先に同時に炎魔法を出して……あれ、何という名前の技ですか」
「あれは魔法ではなく錬金武装です。指向性熱線投射砲」
「は? ……つまりビーム兵器?」
「物理攻撃だから魔法障壁で反射されないし、物理障壁で防いでも当たった場所が溶けて燃え上がります。防ぐ手段はいくらでもあるけれど、近寄らせないための威嚇としてはかなり有効です」
「うへえ、空っぽの体の中に近代兵器を組み込んであると」
「さらに魔法詠唱に干渉する術式を持続放射しています。あの鎧の周囲では魔法を唱えても発動しなくなります」
「妨害電波みたいなものですか」
「本人、というか本鎧は魔法を詠唱しないので影響が無いようですけれど……魔術師にとっては天敵のような存在です」
錬金術師はため息をつき、山田はそのまま無言になる。
「それでヤマダ、あの魔族は何を企んでいると思う?」
「え? ……えーと、今回の目的は、確か『聖力』の収集ですよね」
「そう。武器や防具に知性を与える力」
「あの、もしかして……聖力を集めれば任意の防具に知性を与えることができますか?」
「理論的には可能」
「あの黒い巨人はただの鎧、ということは防具ですよね?」
「だとしたら?」
「もしかして腐乱拳さんは……ヒトのように物を考える巨人鎧を作ろうとしている?」
「……確証は無いけれどね」
それを聞いた山田は難しい顔になる。
「あの魔族の固有魔力紋が判ったから、王都には二度と出入りできないよう結界が調整されたけれど……他の国に行ってまた聖力を集めると思う」
錬金術師も表情が冴えない。
「黒鉄の城塞のような鎧に宿る屍人の不滅の力。そこにヒトの頭脳を加えたならば」
「なんかそれって、神にも悪魔にもなれそうなイメージが」
「しかもヒトと違って、防具は資材があれば量産できるから」
「りょ、量産型……まさかその、これから自律思考型の黒い巨人が大量生産されて侵攻してくる驚きの展開に」
錬金術師は肯定の仕草をした。
「何千体作られたとしても、当代の勇者様なら一瞬で倒せるでしょうけれど……」
「けれど?」
「多数の巨人が世界中に分散して、同時に暴れはじめたら?
『いかに資金があろうとも、一人で同人誌即売会の複数の行列に同時に並ぶことはできない』……初代勇者様が遺されたお言葉です」
「勇者様一人では同時多発テロには対応できない、と」
「だからあの魔族の下着集めを阻止しなければならないの。でも、昨日は私の判断が甘かった。あの時にヤマダが来てくれなかったら……」
気落ちしている様子の錬金術師を山田はあわてて元気づける。
その様子を見て、召喚士はそっと立ち上がる。
「話が一段落したようじゃから、わしは少し出かけてくる。山田よ、明日の朝食まで戻らんからの」
「え、どちらへ」
「部屋の中ばかりで飽きたからのう。王都の様子を見てくる。戒厳令も緩んだようじゃしな。あ、そうそう、おぬしが持ち帰った公爵の宝具、あれはわしが預かっておこう。おぬしらが持っていて詮索されると面倒じゃろう」
「あ、つい持ってきてしまったのですが……元の場所に戻さなくてよろしいので?」
召喚士は山田から一角獣の角を受け取って空間収納し、それから答えた。
「これの存在を知っておる者はおらぬようじゃし、もう魔力も聖力も使い果たされた抜け殻になっておるから二度と使えん。歴史的価値はあるかもしれんが、ただの骨董品にすぎん。売る事もできぬゆえ実質的には無価値だしのう」
そう言うと召喚士は、部屋の外壁を収納すると空中に向けて歩き出した。
「おぬしら、今晩は二人で将来のことなどゆっくり語りあっておくが良いぞ」
そう言われた山田がとまどいながら外に顔をのぞかせると、召喚士は「空飛ぶ座布団」に乗って飛び去っていくところだった。
そして錬金術師は壁に穴が開いたまま放置されているのを見て頭をかかえていた。
こうして二人きりになった山田と錬金術師。
この日も特に進展が無かったので描写は割愛する。せっかく気を利かせてもらったのに何をしているのだろうか。
そして陽が落ちた後、召喚士は集合住宅の屋上に座って、一人で月を眺めていた。空中から一角獣の角を取り出すと自分の前に置いて、硝子の湯呑みを二つ出してそれぞれに果汁を注いだ。
「……卿は下戸(訳者注:お酒が飲めない体質)じゃったからな」
そう言って、自分の湯呑みに注いだ果汁を飲んだ。
「……あの頃に『冒険者の書』があれば、卿も復活して新生エド王国の発展を見とどける事ができたじゃろうに……
悔いは無いじゃと? ふざけた事を言いおって……
今度もまた頼みもせぬのに人助けか? まったく、卿は死んでもお人良しが直らんのう、大馬鹿者め」
召喚士はふたたび月を見上げた。その目からは一筋の涙が流れていた。
周囲では夜の帳の中で、ハチ公爵をたたえる蟲の歌だけがいつまでも静かに響いていた。
不死王のシュタインさんに質問のお便りが来ています。
「一定期間使っていた防具ならば下着でなくても良いのでは?」
「ふむ、では君だったら、たとえば脂ぎった中年男が5年間使い続けて汗をじっとり吸い込んだ柔道着、そういうものを触りたいと思うかね?」
なるほど、つまりはただのエロジジ(極大消滅双拳で消滅)




