72:闘いの決着
常人には知覚できぬ、超加速下での格闘戦が始まった。
魔族が音速を超える剛拳を放ち、山田の体を借りたアキタがそれを慣性制御で易々と受け流す。
山田が重力魔法で相手の重心を崩して攻撃魔法を込めた蹴りを叩き込むも、即座に無慣性に移行した魔族に打撃効果は与えられない。瞬時に発動された逆位相の魔法によって攻撃魔法も中和されてしまう。
魔族の嵐のような連続攻撃を、常人には理解不能な怪しい挙動でくねくねと体をゆがめて回避してしまう山田。
山田の攻撃を、魔法による物理法則をはずれた動きを駆使して巧みにかわし続ける魔族。
後日、錬金術師が高速撮像したこの時の幻像記録を見た召喚士が
「二人とも変態じゃ」
と絶句したという、すさまじい戦いであった。
しかしそれは現実時間ではわずか十数拍。お互いが一歩も譲らぬ攻防の末、ついに山田の必殺攻撃が放たれた。
「烈風金精突きぃぃっ!!!」
実際には音声を発するに足る時間は無く、技名を思考したにとどまる。
山田の一角獣の角が、目にも留まらぬ腰の動きと共に魔族の顔めがけて突き出された。そのあまりの疾さに魔族も対応できず、角は切っ先も鋭く額のど真ん中に命中する。
――キイィィィンッ!!
錬金術師にその音が聞こえた時、二人の超加速はすでに止まっていた。
「……見事。儂もまだまだ未熟であった」
そうつぶやくと、魔族はゆっくりと体勢を立て直して顔をあげた。
額の中央にわずかな傷がある。
「馬鹿な、鋼鉄をも貫く我輩の突きが!」
「鋼鉄ならば良かったのだろうが、儂の体は究極金属なのでな」
「なっ…何だとっ!! 不死者の体が金属でできているなど……」
「儂が改造手術したのだよ。自分の体をな。この世界はすでに新しき時代を迎えている」
魔族が額を手でぬぐうと、傷はもう消え去っていた。
「言うまでもなく、自己修復の術式も付与してある」
再び高笑いをする魔族。嗚呼なんという事だろう。
オリハルコンの体を持つ金色の骸骨が笑いながら殴りかかってくるなどという非常識な話が、どこの世界にあるというのだろうか。
だがその時、町の上空に次々と照明魔法弾が打ち上げられた。
煌々とした白い光に照らされて、駅前広場は白昼のごとく明るくなった。
風魔法によって夜霧が吹き払われ、広場にいた3人の姿が遠くからも見えるようになる。
「ふむ、邪魔が入ったか」
魔族がつぶやくと同時に、上空から航空騎士団の飛翔士達が次々と舞い降りてくる。
「動くな魔族共! 御用だ御用だ神妙にお縄に付けぃっ!」
錬金術師と山田にも騎士団の捕縛の十手が向けられる。
「いや私は味方だから!」
あわてて降伏の態勢をとりながら、抗議する錬金術師。
少し遅れて、周囲に次々と陸上騎士団が到着しはじめる。機甲騎兵が迫撃槍をかまえ、魔導特殊部隊の魔術師達が周囲に逃走防止障壁を展開した。
「もう逃げられんぞ! 投降すれば協定に従って捕虜としての安全は保障する!」
「捕虜? 捕まえられたらな」
魔族は左腕にはめた奇妙な形の腕輪に向かって話しかける。
「来い、黒瑪瑙」
腕輪がピィピィと聞きなれぬ音を立てる。
すると大通りの交差点の中央に、輝く魔法陣が出現した。
その中から地響きをたてて現れてきたのは、跪いた全身甲冑の騎士である。
「な、何だあれは」
驚く騎士団員達を意に介さず、召喚された騎士はゆっくりと立ち上がった。
その身の丈は優にヒトの3倍。重厚そうな総甲冑は黒一色で、太く真っすぐな二本角がある角付き兜。頭頂部のみが三角形に赤く彩られている。
「……鎧の巨人だとっ!?」
騎士団員達は新たに出現した敵の周囲に、素早く人員を展開しなおす。
キリキリと奇妙な音をたてながら、巨人騎士はあたりを見回した。
そして騎士団員を次々に確認すると、おもむろに両手を胸のあたりまで持ち上げて指を広げた。
その直後、10本の指先から放たれた赤い光芒。
その光が命中した場所は爆発し、燃え上がり、金属が溶けた。
「退避っ!!」
魔導特殊部隊が新たに防護障壁を展開しようと試みるが、不思議な力でかき消された。
機甲騎兵の多槍頭魔撃が巨人騎士に次々と直撃するも、その黒い甲冑はほとんど無傷のままである。幾度となく放たれる赤い光に繰り返し焼かれ、騎士団は大混乱に陥った。




