71:聖戦士グレートアキタ
山田が装備していた執事の服は原子に分解され、新たなる戦闘装備に一瞬のうちに再構成された。
山田を蝕んでいた魔界の瘴気は跡形も無く消え失せている。
光が消えた時、そこには鍛え抜かれた肉体を持つ一人の戦士の姿があった。
その装束は地球で言えばパプアニューギニアの民族衣装、コテカ・ルルスに似ていた。
体の正面に突き出ている、螺旋の力を秘めた一本の長い角。その表面には複雑な模様が赤く光り輝き、周囲に聖属性の魔力を放出している。
姿形は山田のままだが、皮膚にも赤く輝く模様が刺青のように浮き出して全身を覆っている。
それは、誰もが一目見て只者では無いと本能的に理解する姿であった。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 青い地珠を守るため、股間の鼓動が天を衝く! 忠義の公爵グレートアキタ、ここに参上っ!!」
一角獣の戦士は口上を述べながら、手足を素早く動かして決めの姿勢をとる。
山田の様相に対して魔族の男と錬金術師は、異様なものを見る目になった。
それも当然の反応である。
21世紀の日本で言うならば、連れていた従業員が突如として鎌倉時代の鎧兜姿に変化して「やぁやぁやぁ、我こそは忠義の武士、楠木正成なりィィ!」と叫びはじめたようなものである。一生に一度、出会うかどうかの珍事である。
だが魔族は即座にその状況に適応した。
「……ほう、何がおきたのかは判らんが、今までの彼とは違うようだ」
山田、いや戦士グレートアキタはそう言った魔族に向かって、びしり! と指を向ける。
「闇の力のしもべの者よ! とっとと魔界に帰るが良い!」
魔族は不敵に笑うと、かけていた遮光眼鏡をはずして空間収納する。
「言われずともすぐに帰るよ。そこのお嬢さんの装備を頂戴してからな。儂の『探知』によれば、そのお嬢さんの装備は……何年も肌身離さず身につけ続けて熟成された、希に見る逸品のようだ」
眼鏡を外したその顔には眼球が無く、ぽっかりと黒く空いた眼窩の奥が赤い光を放っている。
魔族は右手の指を自分の顎に食い込ませると、顔の肉をべりべりと剥がし取った。その中から現われたのは黄金に輝く髑髏。
服装も見る間に魔道士の外套姿へと換装されていく。
隠蔽されていた強大な魔力が一気に放出されて周囲に広がり、たまたま通りかかったアブラコウモリが魔力に当てられて空から落ちた。
死者の顔を持つ魔族は、わはははははは、と大きく笑う。
夜の闇の中で外套をなびかせながら高笑いする黄金髑髏。どこからどう見ても典型的な悪役である。
「さては貴様、『聖力』の収集が狙いか!」
(せ、せいりょく?)
「ヒトが長きに渡って身につけた武器や防具に宿る力のことである。その力が極まった時その装備には知性が宿り、付喪神甲冑へと進化するのだ!」
(下着が?)
「その力、集めて何を企むか!」
魔族は笑うのをやめてそれに答える。
「何も企んではおらんよ。儂の趣味だ。防具収集の」
「嘘をつくな! 女の下着を見たがる骸骨がどこの世界にいる!」
「おやおや、1000年前の知識のままか。情報更新されておらんようだな」
「軽口は止めよ! 貴様、いったい何者ぞ!」
魔族はゆらり、とグレートアキタに向き合う。一見無防備に見えるがまったく隙が無い。
「問われて名乗るも馬鹿馬鹿しいが、答えてやるのも世の情け」
武術の達人の動きで魔族は身構える。
「たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死者の体。漢の誇りをへし折り千切る、儂のこの手で握って潰す。魔王ガーデナー様配下、不死王のシュタイン。ここにお相手仕る」
近代戦においては名乗り口上を返す必要は無いのだが、魔族さん意外と律儀である。
次の瞬間、対峙した二人の姿が視界からかき消えた。




