68:狙われた錬金術師
錬金術師が出かけていった後、山田は落ち着かない気分のまま部屋で留守番をしている。
「ほれ、おぬしの番じゃぞ」
召喚士の言葉が耳に入っていない様子で、山田は軍棋(訳者注:中国のボードゲーム。ぐん「ぎ」と読むと別のゲームになる)の駒を握ったまま窓のほうを眺めている。
召喚士はつまらなそうな表情になって盤面から顔を上げた。
「どうなったかのう。あれからだいぶ時間が経つが」
その言葉と同時に、窓の外からチロリ~~ン、という鳴き声が聞こえた。
「ラインが来ました!」
山田が勢いよく立ち上がって窓を開けると、窓辺に小さな使い魔がとまっていた。使い魔はムームーと体を振動させながら山田に1本の筆記用具を手渡す。
「……これは……お嬢の!!」
山田は血の気が引いた。記録魔である錬金術師は愛用の筆記用具を常に肌身離さず持ち歩いている。それが今、ここに届いたという事は……
近寄った召喚士が、空中から銀色の指輪を取り出して山田に渡す。
「……これは?」
「所有物から持ち主の残留思念を読み取る、サイコメトリーの指輪じゃ。使ってみるが良い」
山田は指輪をはめて、筆記用具を手で握る。
(マゾク。シブヤ、ハチコウマエ)
「お嬢っ!!!」
山田は血相を変えて、そのまま部屋から飛び出していく。
召喚士はそれを呼び止め、魔法陣から喚び出した小型羽毛竜を山田の頭の上へと放り投げる。
「うわっぷ!」
「連絡係じゃ、連れていけ。困ったらわしを呼べ」
「ありがとうございますっ!!!」
羽毛竜を頭に乗せたまま山田は走る。
集合住宅の共同通路を走り抜け、御家人従者の身分証明証を使って移動室を起動させると、王都南西にあるシブヤ町の地下往還駅まで空間移動した。
移動室の扉が開くのももどかしく、小走りに地上へと出る。
町には夜霧が漂い、魔導街灯の光が白く霞んでいる。
王都有数の繁華街、シブヤ。普段ならば夜中でも賑やかな場所だが駅の周囲に人気は無く、音もなく静まりかえっている。
山田は駅前広場に移動して周囲を見渡した。しかしそこには誰もいなかった。




