65:対戦相手は召喚獣
「うおっ、疾い!!」
眼前で電光石火のごとく高速移動を繰り返す、黄色い魔獣の影。
山田はすかさず土属性の魔法を詠唱する。
「大地よ、泥濘となりわが敵の目を塞げ!『泥操呪文』!」
水分を大量に含んだ土が地面から吹き出し、魔獣の動きを止めた。
効果はばつぐんである。
そのわずかな隙を逃さず、山田は片刃剣で斬りかかる。しかし魔獣は光の壁を出してそれを防ぎ、鉄鞭のような尻尾を振り抜いて山田の顔を強く打った。
思わず姿勢を崩した山田に、間髪を入れず魔獣の放電攻撃が放たれる。地球の単位で10万ボルトにも達する高圧電流である。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!!!」
山田は感電してその場に倒れた。
「山田、戦闘不能。勝者、シビレネズミ!」
召喚士の判定が下される。
勝利の身振りを披露しながら、喜びの鳴き声をあげるのは召喚士が使役する魔獣、シビレネズミである。
その大きさは地球の小型犬程度にすぎないが、両頬に赤い蓄電器官を持ち、そこから電気攻撃を放つ凶悪きわまりない魔物である。
ちなみに体色は、地球のウデフリツノザヤウミウシという動物に類似している。
違う世界において、このようによく似た動物が存在しているのはあくまで偶然の一致である。言うまでもないが模倣やパクリではない。ないったらない。
「ううう、負けてしまった……」
「うちの子は見た目はこんなじゃが、使役獣リーグ戦で優勝したこともある強者じゃ。並の戦闘職では勝てぬよ」
くりくりした目を輝かせながら、シビレネズミは召喚士にすりすりと顔をこすりつける。召喚士がその頭をなでる。ぐりぐりぐりもふもふもふもふ。あ、静電気で毛が面白い状態に。
「では、もっと修行して……」
「おぬしはいくら鍛えても並以下じゃ。基底戦闘力は下の下、そのへんを歩いている虫にも劣る」
「虫」
そう言う召喚士の遠い背後の草原を、無数の青い目を光らせた巨大な王様蟲が、多数の足をわさわさと蠢めかしながら移動していく。たいへんのどかな光景である。
「おぬしが何故弱いか判るか?」
「うう、なぜでございますか」
「生まれつき山田だからじゃ」
「そんなひどい」
「だがまあ、最初に比べれば多少はましじゃ。今のおぬしなら、強大な魔物に襲われた時に、主人と一緒に逃げる事ができるじゃろう」
「そこは普通『主人を守って戦う』じゃないんですか」
「おぬしは火山の火砕流や、地震の大津波と戦って勝てるか? 上級魔物とはそういう存在じゃ」
「……そもそも戦えるような相手ではない、と」
召喚士は山田から視線をそらし、無言で遠くを見つめた。
「……おぬしが何百年も生きていられるなら、ほんの僅かずつでも強くなり続け、いずれは勇者に匹敵する強さに至れるかもしれん。
しかしヒトが持つ時間には限りがある。戦って主人を守れるような強さは、おぬしの手が届く場所には無い」
「だから、一緒に逃げろ……という事ですか」
「そうじゃ。おぬしの性格だと、主人を置いて逃げたりはできそうも無いからの」
召喚士は山田に目を向ける事なく、言葉を続けた。
「……自分だけ逃げれば助かる時に、誰かを守ろうとして逃げそこない、この世から消える。それは救われた者の心に耐えがたい傷となって残る。
よいか山田、おぬしは弱い。それゆえ戦おうと思ってはならん。自分の力を過信せず臆病になれ。
そして主人を逃がす時は、必ずおぬしも一緒に逃げねばならぬ。最後まで共に生き延びるのが本当の忠義じゃ。それを忘れるな」
悲しげな顔で、遠くを見ながら召喚士は山田にそう語った。
「のう山田」
名前を呼ばれた山田は、ビクっとして召喚士のほうを見た。
「錬金術師殿は遅いのう」
「は、王国への連絡に時間がかかっているようで」
召喚士は膝の上の、パチパチと火花を飛ばす使役獣の頭をなでながら話を続けた。絶縁の術式を使っているので彼女に影響は無い。
「山田よ、おぬし、主人のことをどう思っておる?」
「は? お嬢……いえ、錬金術師様ですか? はい、良き主人だと」
「そうではない。女子として魅力があるかどうか聞いておる」
山田は突然の質問に固まった。
「……はあ、それはその……えーと、知的で、可憐で、清楚な感じで」
「取っつきにくい女子か」
「いえ、意外とドジっ娘属性で、優秀なのに微妙にポンコツで、一緒にいて飽きない方です」
「女としての魅力は感じぬか。思わず押し倒したくなるような」
「え、いやそれは、あの、自分と錬金術師様はあくまで主従の関係で」
顔を赤くしながら必死で否定する山田を見て、召喚士は深いため息をついた。
「……おぬしら、本っ当に面倒臭いのう」
「は?」
「いやこっちの話じゃ。おぬしは自分よりも立場が上の女子には、手を出す気にはならんか?」
山田はしばらく考えてから、その問いに答えた。




