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62:攻略できない巨大なダンジョン

 錬金術師は難しい表情で「勇者の迷宮」の迷宮地図ダンジョンマップを見ながら、山田を呼ぶ仕草をした。


「……ヤマダ、ちょっとこっちに来て。これを見て」

「はい? うわ凄い、3D表示マップがぐるぐる動く。

へえ、この部屋というか、空間は完全な球形なんですね。一番下にある赤い点は何ですか?」

「私達の現在位置」

「おお、位置表示機能が。つまり今は球体部屋の底にいる状態なんですね。

部屋の真ん中に表示されている、この黄色い点は?」

「迷宮内の設備表示。あれを表してる」


 錬金術師は、天頂にある光源を指さす。


「はあ、室内照明ですか。見た目にはまるで太陽ですね」

「まるで、というか、迷宮図に表示されている情報を信じるなら、恒星そのものって感じなのだけれど」

「は?」

「設備詳細を出すと……水素核融合塊。設置座標は迷宮空間の中心に固定。

大きさは半径が約17万5千(リーグ)……地球の単位に換算して約70万キロメートル」

「はい?……70……万? メートル?」

「キロメートル」


 山田は天頂を見上げた。太陽よりもずっと小さく、光も弱い。


「あれって、ただの照明じゃないんですか?」

「この部屋の照明として使ってるの。恒星を」

「は? いやその、恒星を照明に使ってる部屋って、ちょっと言ってる意味がわからないです」

「部屋の半径は、約2億7千万キロメートル」


 山田はしばらく絶句した。


「……あのですね、地球の太陽公転半径が、約1億5千万キロメートルなんですけども」

「その1.8倍になるわね」

「火星の公転軌道より大きな部屋?」

「部屋というか、恒星を中心にした巨大な球殻というか」


 山田はそのまま固まった。


「……つまりその、我々が今いるこの大草原は」


 山田は、周囲にはてしなく広がる大平原をぐるりと見回して、言葉を続ける。


「とてつもなく巨大な球殻の、内面のほんの一点にすぎない、と?」

「理解が早くて助かるわ」


 頭をかかえた山田を放置して、錬金術師は召喚士に問いかける。

「あの、初代勇者様は、この迷宮をお一人でお創りに?」

「そうじゃ。丸一日かかったと聞く」

「……すごく、大きいです」

「うむ、ヤスヒコ様はスケールが大きいお方だったのじゃ」


 錬金術師はめまいがするような様子を見せたが、すぐに立ち直った。

「あの、召喚士様、迷宮核ダンジョンコアの管理は、どうなっておりますのでしょうか」

「何じゃそれは」

「迷宮内のすべての物を管理する制御装置です。……あの、もしや放任状態?」

まずいのか?」

「自動修復機能があると思いますので、放任自体は問題ございません。ですがもし侵入者に破壊されると、迷宮が崩壊します」

「そうなのか。では入り口はここ一箇所に固定されておるゆえ、このへんに5~6匹ほど番龍を置いておこう。強い子が良いかな。完全回復魔法の使える光龍とか」

「迷宮に入ると最初に出てくるのが完全回復を使える最強龍、しかも6頭」


 錬金術師はひきつった表情で、あはは、と小さく笑う。


 召喚士は、あらためて迷宮地図を眺める。

「迷宮核というのは、どこにあるのじゃ。わしは見たこと無いが」

「表示だと、この緑色の点ですね。入り口の正反対……球殻上で今いる場所の対極点にあります」

「ちょっと見に言ってみるか。のう山田」

 問われた山田は、え、という顔でまた固まった。


「そこまで転移できるのですか」

「現地まで行かねば転移陣が設置できぬゆえ、行きは歩きになるが」

「……ジェット機で休まず飛んだとして100年単位の距離です……惑星探査機の速度、音速の33倍以上で飛び続けたとしても何年もかかりますが」

「歩くには遠いか」

「遠いですね。一番奥まで行かれる方は……たぶん大変でしょうねぇ」

「そうか、ならばまた時間のある時にしよう。では修行を始めるぞ山田。

ヤスヒコ様の流儀に従って鍛えてやろう」

「ふえええええ」


 こうして、召喚士による山田への特訓講座が開始されたのである。

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