↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/104

55:魔の大密林

 気がつくと、錬金術師と山田は密林の中にいた。

古びた石舞台の上に描かれた見知らぬ円陣の中に、いつのまにか移動している。


 周辺の木々は王国周辺では見慣れぬ樹種ばかり。

周囲にたちこめる、もわっとした熱気。むっとくる湿気。

衣服に体温調整の術式が付与されていなければ、とても厚着などできない気候である。


「ギャアギャア」

「ケケケケケケ」

「ブッポーソー」

「ギョギョシギョギョシケチケチケ」

「テケリ・リ、テケリ・リ」

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ」

「ヨホホホホホホ」

「ウルォーード!」

「ミクダヨー」


 どのような生き物が発しているのかも判らぬ、さまざまな怪しい鳴き声があちこちから聞こえてくる。濃密な野生の気配が二人の周りに満ちている。


「おおおおお嬢、な、何がおきたんですか!?」

「……空間転移だ……」

「く、くうかんてんい?」

「空間を操る魔法。遠く離れた場所に、一瞬で移動する秘術」

「ええええ、いったいどこに来たんですか」


 錬金術師は空を見上げ、いくつかの解析呪文をとなえた。


「魔力分布から見て、迷宮内ではなく屋外ね……大気組成や重力加速度、恒星の分光解析を見る限りでは、違う惑星に転移したのではなさそうだけど」

「ち、違う惑星に行くこともあるんですか」

「異世界や異次元に転移することに比べたら、同一宇宙内の移動なんて、たいした話ではないでしょう? 目的地が隣の家でも14万8千光年離れた惑星でも、距離が違うだけだもの」

「そ、そういうものなんですか?」


 錬金術師はぶつぶつと独り言を言いながら、手帳に記録を書き続ける。


「凄い、凄いわ…… ヤマダのおかげで1000年の謎が解けた!

……えーと、さっきヤマダが言った言葉は何だっけ?」

「え? 言葉?」

「川流れの音」

「……どんぶらこ、どんぶらこ?」

「そう、それが転移魔法を発動させる音声符牒だったの!」

「えええ、起動パスワード?」


 錬金術師は、ずい、と山田に近寄った。


「その言葉には、どういう魔術的意味があるの?」

「いや、意味と言われても……日本文化圏で、巨大な果実が川を流れ下る場面でのみ使われる、専用の擬音オノマトペです」

「果実流れ専用の擬音! そんなものがあるなんて、何という奥深い文化なの! ニホン文明を知らない者には絶対に解けない、文化圏(しば)りの暗号だったのね!」

「……いや、感動していただけるのは嬉しいんですけど……うーん、映画なんかに出てくる『古代文明の言葉が判る人』って、こういう気分なんだろうか」


 山田はあらためて周囲を見回す。


「……ここには十二支像も無いし、どうやったら戻れるのかな……

『どんぶらこ、どんぶらこ』」


 山田はふたたび符牒をとなえた。しかし、なにもおこらなかった。


「……お嬢、無線か何かで助けを呼べないですか?」

「むせん?」

「えーと、電波通信」

「電波なんて、せいぜい室内程度しか届かないでしょう?」

「え、届かないんですか?」

「だって電波は……ああ、チキュウには魔素マナが無いのね」

「まな?」

「この世界では、相転移した目に見えない魔力粒子が空間を満たしているの。魔法学的にはミノモドキー粒子と呼んでいるのだけれど」

「あ、それ以上は説明しなくていいです。つまりその謎粒子の影響で電波通信ができなかったり、飛べる形でないものが空を飛んだりできると」

「そうだけど、何も説明してないのによく判るわね」


 錬金術師は緊急連絡用の術式を組み、空中に発光魔法を打ち上げた。


「救援を求めてみたけれど、近くに誰かいなければ意味は無いわね」

「空に上がって、町がどっちの方角にあるか見てみるのは?」

「それは危険だと思う」


 彼女が指さした上空を、黒い飛翔体が横切っていく。


「……皮翼竜がいるから、うかつに上に行ったら食べられてしまう」

「えええ、強い魔物なんですか?」

「空中歩行しながら戦えるような相手じゃないわね」

「うへえ、そんな魔物がいるって、この場所はいったいどこなんですか」

「王国近在ではなさそう。大陸の奥地かな……駄目、地磁気が乱れていて位置情報が取得できない。このへんにいる魔物は……」


 そう言いながら展開していた索敵魔法を遠方まで広げ、顔をしかめる。


「まいったな……把握できるだけでも、灰狼竜ゼラギナスが3体、喰血獣オドガルノスが4体もうろついてる……」

「つ、強い魔物ですか」

「1体だけだったとしても、私達だけで撃破する自信は無いわね。……それと、中位の上ぐらいの魔物が30体ほど、こちらに近づいてきてる」

「ち、近づいて」


 錬金術師は、困った顔をして山田のほうを見た。


「発光魔法が裏目に出たみたい。もう四方を囲まれてる。完全に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。