49:空から見た大エド王国
山田は錬金術師の魔法で空中高く浮かびながら、眼前に広がるエド王国の町並みを眺めた。
王国の中央にあるチヨダ山。その頂上には荘厳な美しさの建造物、エド城があった。
内外共に建築設計、錬金術、土魔法、装飾芸術、あらゆる分野の妙技を尽くして造営された、この世界で最も美しいと言われる王城。
その大部分は黒い樹液塗りの窓が配された白壁だが、上部の王族居住区は階層ごとに配色が異なっている。ある階層は紅が基調となり、またある階層は青が主体となり、最上階は全て金色である。
優美な曲線を描いた屋根は青黒い瓦葺きで、破風には技巧を凝らした石細工の怪人面が飾られている。
最上階の屋根にはエド王国の象徴、薄い本を持った初代勇者の黄金像がそびえ立ち、横にある屋上駐龍場の航空騎士団や飛龍達を見下ろしている。
チヨダ山の全域は緑の森に覆われた自然保護区域で、王族とその関係者以外に定住者はいない。ヒトに危害を加える魔獣や寄生獣、疫神・疫蟲などは完全に排除されているが、それ以外の動植物はほぼ原生に近い。
この緑の山を囲む第一城郭の外周に沿って、山田達が居住している御家人用の集合住宅が建っている。この建築物については、のちに山田が書いた記述が残されている。
「エド王国の集合住宅は、第一城郭の外周に沿って建てられた多数の個人住宅が、増改築を繰り返しているうちに互いに融合して山裾を一周する巨大な建造物に発展したものだという。その規模から言っても一つの建物というよりも、むしろ隣近所と壁を共有した状態で建っている町並み、と言ったほうが正しい。
各種の建築魔法、収納魔法、土魔法、錬成魔法などを駆使して各住居をブロックごと移動させたり、増改築を加えたりするため、集合住宅内には築年数も建築様式も異なる部屋がさまざまに混ざりあっている。
外部から見た場合に統一感があるよう配慮する決まりになっているが、窓の数や大きさ、外壁の色や質感などが各住居ごとに若干異なっている。そのため遠方から見た場合の外観が均一ではない。それが意図せずして芸術的な魅力を生み出している。
地球にはこれに類似した建造物は存在していないが、しいて言えば丘に沿って段丘状に密集して建てられた住宅群、たとえば南仏のマントン旧市街、あるいは東チベットのラルンガルゴンパ住居群を画像で見たイメージに近い」
(「外出から始まる異世界狂想曲」6段の27)
集合住宅の外側には公園区画と、学校などの公共施設、高級店舗などが散在し、この上級屋敷町のさらに外周を取り巻くのが第二城郭である。
第二城郭と、最外の第三城郭の間にあるのが先日、山田達が出かけた商店街で、王国では「下町」と呼ばれている。家々に統一感の無いところが統一感、という明るく活気にあふれた庶民街である。
そして第三城郭の外側に出ると、そこは法的にはもうエド王国では無い。
悪徳が武装し、王国の中に入れぬ犯罪者と荒くれ者が棲みつき、そのお零れを狙う者が日々を送っている。暴力と野心と混沌とを混ぜあわせてブチまけた、危険な奴らが集まってくるコーヒーの苦い町である。(脚注1)
さらにその外側に出ると、大陸有数の大河トネ川が作りだした、見渡す限りの広大な緑の氾濫原が広がっている。
城郭外は各種の疫病が猖獗を極め、さまざまな魔獣・魔蟲・魔植物が人々に襲いかかり、魔痴女が現れて男の精を死ぬまで搾り尽くし、野生の美少女が冒険者をかどわかして連れ去っていく恐るべき人外魔境である。
このような説明の数々を、錬金術師はあちこちを指さしながら、山田に語っていった。その多くは、山田は「魔法の鏡」を通じて知識としてはすでに知っていたが、実際に自分の目で見た驚きと感動は筆舌に尽くしがたかった。
見たことのない都市構造。地球に存在しない建造物。
魔法によって創り上げられた、地球人の常識からは思いもよらぬ住居群。
しかしその異界の町の中には、日本起源としか思えぬ意匠がところどころに混じっていた。明らかに異質なのに、なぜかなつかしい感じがする暖かい町並み。
山田は、おおおお、と小さく声をあげながら、言葉も無く眼前の光景を眺めるのみであった。
脚注1:この世界の「コーヒー」と呼ばれる嗜好品についてはそのうち説明が出てきます




