43:望みの代償
「魔乳王様、わが願いに応え、現界にご降臨くださいました事を感謝いたします」
「前置きはいいわ。早く望みを言って頂戴。収納庫の中の食材で作れるオカズを考えてくれ、みたいなつまらない話だったら潰すわよ」
乳首を振りながら乳輪を逆立てるラプラスに、錬金術師は事情を説明した。
「……なるほど、その生情報を整理して、組み替えるべき遺伝子座を明確にすれば良いのね? すぐできるわよ」
「本当でございますか!」
「本当よ。その対価は……そうね、あなたの……その髪の毛をもらおうかしら」
錬金術師はそれを聞いて、びくり、と体を堅くした。
子供の頃から伸ばし続けた錬金術師の髪の毛は、女性の魅力の象徴であると同時に、魔術師の魔力を司っている重要な存在でもあった。それを対価として差し出すよう要求されたのである。
ラプラスに徴収された身体部位は永久に失われ、二度と再生しない。つまり、もう髪の毛が生えてこない。つるつるの無毛である。明日から彼女の呼び名は錬金ハゲである。
「お、お恐れながら魔乳王様」
「やめなさい、無礼です、ヤマダ!」
「……やめません。お嬢の髪の毛は、お嬢のお仕事には欠かせぬ物です。それを渡してしまうなど、自分は断じて認めません!」
山田は血相を変えて錬金術師を止めにかかる。
「え~? 別に強制じゃないし、嫌なら別のものでもいいわよ?」
「は?」
山田はラプラスの言葉を聞いて固まる。
「あの、別のものでもよろしいので? 強制的に徴収したりはなさらない?」
「当たり前じゃないの。アタシは悪いおっぱいじゃないわよ、ぷるぷる」
ラプラスはそう言ってゆさゆさと身を震わせる。
「この娘の望みをかなえる対価を、あなたが代わりに払っても良いのよ」
「自分が!?」
「昔、ある貴族の望みをかなえてあげた時は、その貴族の息子の体の48箇所を対価として頂戴したわ」
「よ、48箇所」
「今回はそれほど大層な望みではないから、少しだけもらえれば良いわ。両眼を抉るか、両耳を削ぐか、両手か両足を切り落とすか、両睾を引っこ抜くか……どれが一番、生活に支障が無いかしら?」
「ふえええええ」
山田は思わず股間を押さえる。
「ヤマダ、やめなさい! 御家人には転生者を保護する義務があります。あなたを対価に使うつもりはありません!」
「あら、今あなた何て言ったの? 転生者? この彼、転生者なの?」
ラプラスが乳首をかしげて巨体を揺らしながら、山田達のほうにずいっ、と近づく。
山田はひい、と小さく悲鳴をあげて錬金術師に身を寄せる。
「だったら話は別よぅ。アタシはこの世界のものではない、異界の情報というものが喉から手が出るほど欲しいの。アタシの灰色の脳細胞の飢えを満たしてくれるものは、アタシがまだ知らない知識なのよぅ」
そう言ってラプラスはたゆんたゆんと体を波打たせた。喉がどこなのかは見てもよく判らない。
「異界の……知識」
山田はひきつった顔でつぶやく。
「そうよぅ。あなたの記憶に、この世界で誰も知らない知識が隠されていれば、アタシはそれを吸い取らせてもらう。その記憶はあなたから永遠に失われて、アタシだけのものになるの」
「き、記憶を」
山田はふたたび固まる。
「そう。聖協会に預けてある記憶複写からも、同じ情報は消去させてもらうわ。アタシは独占欲が強いの」
「自分の、お嬢に対する……わが主に関する記憶は、そのままにしておいていただけるのですか?」
「ん? あなたとご主人の間の思い出なんて、これっぽっちも興味無いわよぅ。アタシが欲しいのは異界の知識。あなたの記憶を走査して、もし対価として見合う知識があったら、それと交換にその娘の願いをかなえてあ・げ・る」
「……判りました」
「ヤマダ!!!」
こわばった表情の錬金術師に、山田はねぼけた顔で微笑む。
「……とりあえず魔乳王様に、自分の記憶を調べてもらいます。ろくな知識が無くて商談不成立、という可能性もありますし」
不安そうな錬金術師をなだめ、山田はラプラスに向き合う。
「それで、どうやって自分の記憶を調べるのですか?」
「アタシの肌に、顔を密着させて頂戴」
「み、密着?」
山田は恐る恐る、ラプラスの胴体、というか横乳に、もふん、と顔を埋めた。
(描写削除)
しばらく動いたあと山田は顔をあげ、ぷはぁ、と息をつく。
「……何か見つかりましたか?」
「バッチリよぅ。あなたが地球とかいう世界にいる時に編み出した、48の秘技の記憶が欲しいわぁ」
「秘技?」
そんなものあったかな、と山田は困惑した顔をする。
「ほら、あれよあれ。『人肌コンニャクの(削除)』とか、そういう独創的な工夫の数々」
「え、それ???」
山田はラプラスが言った言葉に、心当たりがあった。それはほとんどの地球人にとって詳細を知る必要はまったく無いが、この世界では神ですら知らない知識であった。
錬金術師は目の前にいる二人、いや一人と一乳の会話内容が理解できず、ただひたすらに不安がつのる。
「ヤマダ……」
「大丈夫です。魔乳王様、その情報を対価として、わが主に知識をお授けください」
「ヤマダ!!!」
「あはん、では交渉成立ね。じゃあそこの彼、アタシにまた顔を埋めて頂戴」
「……承知しました」
「ヤマダああっっ!!!!!」
錬金術師の今にも泣きそうな顔が、その時、山田が最後に見た光景だった。




