42:魔乳あらわる
魔乳王ラプラス。
この世界のすべての知恵と知識を司る者。
古き時代に2代目魔王として、人類と敵対していた神的存在である。
かつてラプラスは、人類の守護者である3代目勇者と対決した。
勇者は単身で全裸になって2代目魔王に挑み、汗にまみれながら3日3晩に渡って彼女と戦い続け、ついに屈服させたのである。
その後、人類に対する考えを改めたラプラスは魔王の座を捨てて3代目勇者の人外妻の一人となり、その英知を人々に惜しみなく与える慈愛の女神に転化した。
しかし3代目の死後に、自分達の頭で考えようとせず、日常生活の事までラプラスの判断に頼ろうとした人類に失望し、彼女は疑似空間に引きこもって現世との繋がりを絶った。
現在では亜空間対戦遊戯で一日をつぶす遊戯廃神となっていたが、上級魔術師が規定の呪法で彼女を喚ぶ時に限り現界へと顕現し、その英知を分け与えていた。
だが、つまらぬ質問をされる事に辟易していたラプラスは、質問の答を与える事と引き換えに多大な対価を要求するようになっていた。ラプラスの知恵を借りるのは、地球で言えば天才無免許医に手術を依頼するようなものだったのである。
研究者にとっては邪道とも言うべきその手段を、錬金術師はあえて選択した。
膨大な情報を整理するには王立大学の超級人工精霊を使うという方法もあったが、それには精霊に情報を整理させるための命令術式を創術することから始めねばならず、期日までに目的を達成する事はとうてい不可能だったからである。
ならば……ラプラスの演算能力を借りて結果を出すしかない。
それが錬金術師の判断だった。
そして今、錬金術師の研究室の床には怪しげな魔術陣が書かれ、その上で魔炎が焚かれていた。炎の周りには山田が調理した、ラプラスに供する精進料理の数々が並べられている。スッポンに似た水棲生物の煮物、ウナギ的な魚のタレ焼き、赤蛇の姿焼きなどである。
なお説明するまでもないが、精進料理とはこの世界で神に捧げる、精を進める料理のことである。
この場において男性経験の無い若い女性が、自らを慰めることによって淫気を発生させ、室内に充満させた時にラプラスは召喚される。
今、錬金術師はその儀式に挑もうとしていた。
「ヤマダ、始めるわ」
「ほ、本当にやるのですか」
「……それしか方法が無いから」
錬金術師が魔術陣の前に座る。
山田はその横で、彼女がこれからする行為を一瞬たりとも見逃さぬよう目をこらし、注意を集中した。
今回、錬金術師は在来の呪法に代わる、淫気を発生させるための特殊な術式を開発していた。
皿の上にうず高く盛り固められた赤飯。その頂上に錬金術師が3本の旗を立てて呪文を唱えると、そこから濃密な淫気が周囲に溢れ出た。
淫気耐性のある錬金術師や、彼女に術式を付与されている山田でなければ、淫気を吸い込んでたちどころに正気を失っていたことだろう。
錬金術師が空中に印字を描き、万誘淫力を操作する術式を詠唱した。すると魔術陣の中央に黒い渦が出現し、それが拡がって次々に供物を飲み込んでいく。
床の上で黒い闇がぐるぐると渦巻く。やがてその中からゆっくりと、白く巨大な何かが浮かび上がってきた。
「え、お、おおおおおおおおおおおおお」
それが何であるかを認識した山田は思わず声をあげ、そして戦慄した。
○っぱい。
巨大なおっ○い。
それは、とてつもなく大きな、誰も見たことがないほど豊かなおっぱ○様であった。
大人3人が手をつないで、ようやく取り囲めるほどの大きさ。
圧倒的な重量感、その豊満を極め、ぷるんぷるんの弾力に満ちた白い塊は、見る者を驚愕させ、絶句させてしまう有無を言わせぬ大迫力に満ちていた。それは一目見てこの世のものではない事が判る、人知を超えた存在であった。
やがて完全に姿を現した巨塊は、たゆんたゆんとした動きを止めると、その雄大な小山の頂上に位置する部分をゆっくりと動かし、そこから言葉を発した。
「アタシを喚んだのは、あなたたちかしら?」
床の上に出現した目鼻も手足も持たない、どこか地球の餡饅を思わせる姿の巨大な単乳房。
異形の神、魔乳ラプラスが今、山田達の眼前にゆさゆさと揺れながら鎮座していた。




