39:花の色を決めるもの
赤い花の低木と、青い色の花草を見ながら、錬金術師は山田に問いかけた。
「その2つの花をヤマダが合成するとすれば、どういう花を創りますか?」
「そうですね……色々と考えられますが、たとえば赤い花の樹に、青い花の色素遺伝子を組み込んで青くする」
そう言われた錬金術師が、ぼそりとつぶやく。
「青い花の色素、か……」
「何か問題でも?」
そうたずねた山田に、錬金術師は複雑な笑いを見せる。
「その青い花は、赤いんです」
「は?」
意味がわからず、山田が首をひねる。
「解析魔法をかけてみたら、赤い色素しか含まれていないという結果が出たの。
おかしいと思って錬成魔法で色素を抽出してみたのだけれど、本当に赤かった。目で見ると青いのに、含まれている成分は赤い。もう何が何だかわからない」
そう言って錬金術師は、枕にぽすん、と顔を埋める。
「ああ、たまにあるみたいですね、そういう花って」
「…………!」
錬金術師が枕から、がばっと顔を上げる。
「……ヤマダ、今何て言った?」
「地球にそういう花があります。
赤い花が咲くバラという植物と、青い花が咲くヤグルマギクという植物の花に含まれているのは、どちらも……えーと何と言ったかな……シア……シアなんとか」
「シアニジン?」
「あ、それですそれ。赤い花も青い花も、両方ともシアニジンです」
「……この青い花に含まれているのもシアニジンよ。赤い色素の」
「でしたら、同じような発色機序なのかもしれませんね」
錬金術師は寝床から飛び起き、手帳を取り出すと、ずいずいと山田に迫った。
「ちょっと、今の話を詳しく。なんで赤いのに青いの?」
「え、あのちょっと、お嬢、近いです。ああああ、鼻腔に若い乙女のむせかえるようなフェロモン臭が」
「え、ちょっとやだ、今日はまだ浄化してないんだから嗅がないでヤマダ!」
「すーはーすーはー……えーとですね、シアニジン単独だと赤い色なんですけど、ほかの成分が混ざっていると青くなるらしいです」
「ほかの成分?……シアニジン以外の?」
自分に念入りに浄化魔法をかけながら、錬金術師が山田に聞く。
「何を混ぜると青くなるの? 酸や塩基の問題?」
「酸塩基?……ああ、リトマス紙の赤青の話ですね。
いえ、ヤグルマギクの青い色に酸やアルカリは関係無いです。名前は覚えてないですが、何か無色の物質が関係していたと」
「無色……」
錬金術師はブツブツと独り言を言いながら考え込む。
「……候補はいろいろ考えられるけれど、実際に混ぜて確かめてみるしか無いかな……
花に含まれている成分を全種類錬成して、順列組み合わせで……」
「あの、お嬢、お考え中に申し訳ないのですが」
「ん? 何?」
「えーとその、解析魔法と、錬成抽出の魔法というのは、どういうものなのですか?」
「どういう……というのを専門用語を使わずに説明するのは難しいのだけれど……
どんな魔法か、ここで実際にやってみましょうか?」
「お願いします」
こうして、錬金術師の実演が始まった。




