38:苺ケーキ in 味噌ラーメン
それは来春に行われる予定の国家行事、すなわち当代勇者とその許嫁である将軍家の姫君との、婚礼の儀のための準備が発端であった。
王国には、花婿が花嫁に似合うと思った花を探してきて、それを花飾りにして婚礼の席で手渡すという習俗があった。すなわち、本来であれば現勇者にその花を選定する役目がある。
ところが花に関してまったく知識の無い現勇者は、王家家臣団にその選択を丸投げ、もとい依頼してきたのである。王立植物園の学芸員達が候補にあげた花々の中から、家臣団が合議を経て最終的に残ったのが赤いロサ樹の花と、青いメコノプッシー草であった。
ここで問題が発生した。元老院の大老二人が、それぞれ違う花を推して譲らなかったのである。
どちらの花を選んでも儀礼進行面において問題は無い。逆に言えば、相手に譲る理由が無い。
こういう場合に「譲ったほうが負け」という空気になるのは中途半端に偉い人達によくある話である。本当に偉い人だと勝ち負けなど気にする必要が無いので、そういう細かい事はあまり気にしない。
ともあれ、こうして花飾りの選定は大老二人の面子争いに発展した。
どちらの味方もできず困り果てた官僚達は、最終選択を現勇者に委ねた。
すると勇者は
「どちらか一方を選んだら角が立つから、二つの花を種族合成して一つの花にまとめてくれ」
という、ぶっ飛んだ返答をしてきたのである。
「えーと、つまりカレーにするかラーメンにするかで喧嘩になって、解決策としてカレーラーメンを作る事になったと」
「その仕事が魔術管理局に回ってきたんです」
「生き物の合成って、そういう魔法があるんですか」
「あることはあるけれど、合成生物の作成はだいたい悲惨な結果になっています。昔の話ですけれど、ある国家錬金術師が自分の」
「あああ、悲惨な話は苦手なので、それ以上は説明しなくていいです。
……単純に混ぜ合わせただけだと、2つの生物の良い部分を互いに打ち消し合ってしまいますからねえ。地球で言うと『ポマト』のように」
「ぽまと?」
錬金術師は首をかしげる。
「芋を食用にするポテトという植物と、実を食用にするトマトという植物の細胞融合体です。地球歴1978年に作成されました」
「どんな魔法を使ったの?」
「魔法ではなく、その頃はいろいろな薬を使ってむりやり両者の細胞を合体させる手法が使われたのですが……」
「あ、ちょっと待って、手帳に書くから……悪魔合体をさせる薬がある、と……その結果は?」
「できた植物は地上部がポテト、地下部がトマト」
「何それ、食べる部分が無い」
錬金術師が渋い顔をする。
「まあ単純融合だと、二つのものをむりやり混ぜ合わせるだけですからね。現実の場合、ほとんどは『イチゴケーキを味噌ラーメンと混ぜてみた』みたいな壮絶なものが錬成されてしまうわけです」
「そうね、無理矢理混ぜるとデーモン種族の無差別合体みたいに、生命維持ができなくなって死んだりするし」
「何ですかそれ……でも最近は遺伝子操作技術が進歩したので、必要な形質だけを選んで切り貼りできるようになりまして……つまりケーキから乳脂肪分だけを取り出してバターを作り、味噌バターラーメンを創出するようなピンポイント遺伝子組み替えが可能になりました。まるごと全遺伝子を混ぜるような人はほぼいなくなっています」
「……なるほどね……この花の場合も、単純に種族合成すれば、おそらく悲惨な結果になる……」
「ご明察でございます。意図的遺伝子改変植物を作り出すには、あらかじめ綿密に計算された遺伝子設計図が必要なのです」
錬金術師は、山田の話を聞いて、考え込んだ表情になった。
*Rosaは薔薇の学名。メコノプッシー草のモデルはMeconopsisという草です。




