34:おかかのおむすび
もうもうと白い湯気が羽釜の中に沸き立つ。
山田は熱気に少し顔をそむけるが、湯気が減るのを待ちきれず釜の中をのぞき込む。
湯気の中でつやつやと光り輝く白いオコメ粒。一粒ずつが立ち上がり、見た目にはふっくらと炊きあがっているように思える。
山田は錬金術師に頼んで、自分の手としゃもじに浄化殺菌の術式を付与してもらった。そして長いしゃもじを釜底までぐい、と差し込み、力を入れてかき混ぜる。
炊きたての新米の匂い。釜底から剥がれて混ざる、香ばしいお焦げの香り。山田はかき混ぜた蒸し炊きのオコメをしゃもじで少しすくい取り、味見をする。
もしゃもしゃと咀嚼した山田は、錬金術師のほうを向いて右手の親指をぐい、と立てた。
状況を手帳に記録していた錬金術師は山田の仕草の意味が判らず、少し首をかしげながらも自分も右手の親指を立ててみる。
「お嬢も味見してみますか?」
「もちろんです」
「では小皿と、あと箸をお願いします」
錬金術師は皿と、山田に頼まれて作っておいた二本の木の棒を彼に手渡した。
山田は小皿に削り節をたっぷりと乗せ、豆醤の瓶の封を開けると注意深く滴下して箸で混ぜ合わせた。味見をした山田は満足そうにうなずく。
山田は錬金術師に再浄化と熱耐性強化の術式を付与してもらうと、熱々のオコメをしゃもじで掬って手にとった。そしてオコメの真ん中に穴をあけ、味をつけた削り節を詰めて三角形に整えた。
「それは……聖餅? でも、カレ節を入れるのですか?」
「領聖に使う時は何も入れませんが……これでいいかな。
お嬢、どうぞお召し上がりください」
山田が小さめの塊を小皿に乗せて、錬金術師に差し出す。
錬金術師は、好奇心に満ちた表情でそれを受け取る。
「……どうやって食べれば良いのですか」
「そのまま手で取って、がぶりと。お嬢の口に合わせて、小さめに握ってあります」
錬金術師はおずおずと手を伸ばし、聖餅の熱さに驚いて一旦手を引いたあと、ぎごちない手つきでもう一度手に取った。
そして彼女はそれを、そっと小さな口へと運んだ。
炊きたてのオコメの芳醇な香り。そこにお焦げの香ばしさが混ざり合って口の中いっぱいに広がる。釜炊きの、つやつやで、もちもちした食感のオコメ粒。それは咬めば咬むほどに上品な甘みへと変わっていく。その上にかぶさってくる削り節と豆醤の暴力的なまでに濃厚な旨み。
錬金術師の白い喉がごくりと動く。すべてを飲み下した彼女が、陶然とした表情で山田のほうを見る。
「もっと、ですか?」
「え、でも……」
「おや、いらないのですか。では残りは、収納室に仕舞ってしまいましょう」
「ヤマダの意地悪」
顔を赤らめた錬金術師が、空になった小皿を山田に返す。
山田はいたずらっぽく笑って小皿を受け取ると、今度は蒸し炊きのオコメ全体に味付きの削り節をよく混ぜてから握った。
「さきほどの物と、少し変えてみました」
山田に渡された聖餅を、錬金術師は目を輝かせながら受け取る。
(この人、まるで子供だな)
もぐもぐと口を動かしながら幸せそうな顔をする錬金術師を、山田はエロ親父が若い女性を見てほっこりするような、もとい情感に満ちた大人のまなざしで見つめる。
錬金術師がシブ茶で喉を潤し、5個目の聖餅を手に取った時、彼女は山田が自分用に作った聖餅を見つめながら、じっと物思いにふけっていることに気がついた。




