31:武器屋の推し
武器屋の小男が、山田に話しかける。
「……わしは……魔法を使うのが苦手でな」
山田は小男が何を言いはじめたのかと、黙って耳をかたむける。
「魔法を使わねばオリハルコンやミスリルは加工できん。わしが造れるのは、ただの鉄剣だけだった。
むろん、そんなものが売り物にならん事はわし自身が判っておったから、商売抜きで自分の趣味として好き勝手に作っておった。
そのうち調子に乗って、どんどん変なものを作るようになってしまってな」
「それがあの剣ですか」
小男はきまりが悪そうな顔で、肯定の仕草をする。
「初代勇者様の愛剣は手打ち鍛造だったと聞いて真似してみたのだが、いくら工夫しても魔法で強化しなければ、しょせんはただの鉄剣だ。
ほとんどの客はわしが作った剣を一目見て、こりゃ駄目だという顔をして帰ってしまう」
「売れませんでしたか」
「そりゃあもう、全然駄目だ。オリハルコンのように硬さと柔軟さを兼ね備えた特殊金属ならば、剣の形にするだけで使い物になる。
だが、ただの鉄はそうではない。形だけ剣にしてもそのうち折れるか曲がる。普通に作ったらただのガラクタだ」
武器屋は渋い顔である。
「それだけ判っていて、どうしてご主人は『ただの鉄』で作刀するのを止めなかったのですか?」
そう山田に聞かれた小男は、憮然とした表情で答えた。
「そりゃあ面白いからに決まっておるだろう!
硬すぎて折れる鉄、柔らかすぎて曲がる鉄、両者の弱点を絶妙に補い合う種類の鉄を組み合わせ、一つの剣に練りあわせてやる。その時『ただの鉄』に武器として命が吹き込まれる。その工夫を自分の手で探していくのが生産職の醍醐味だ!
凄い素材を使って作ったから凄い、そんな仕事をしてどこが面白い?
鉄というのはな、とてつもなく工夫のしがいがある素材なのだ!」
小男は鼻息を粗くして力説する。
「ははあ、どうやらご主人は『推し素材』の面白さを布教しようと思っておられるようですねえ」
山田は面白い人を見つけた、という表情で楽しそうに語る。
「でもまあ、普通の人にアピールするためにはこの刀の拵えでは少々地味すぎますね。商品戦略的に、もっと高級品に見えるよう工夫しないと」
「工夫?」
「白鞘は保管にはベストですが、売り物にするなら漆塗りの鞘に象嵌の鍔、柄は梅花皮貼りにして上から革紐を巻く、とか」
山田の言葉を聞いた小男の目がギラリと光った。
小男はゆっくりと立ち上がると山田の肩をがっしと掴み、低い声で耳元にささやいた。
「……お前さん、面白い意匠を思いつくな」
山田は小男の思わぬ反応にとまどった。
「え? いや自分が考えたわけではなくて、自分の故郷にあるデザインで……」
「この近くに、わしの家がある。そこでゆっくり話を聞かせてもらいたい」
小男は本気の目になっている。
「お店が留守になりますよ?」
「今日はもう店じまいだ。剣も売れたしな。とっておきの酒があるから飲んでいけ。遠慮はいらん」
「いや自分はそれほどお酒が得意ではなくて。あ、そうだ、今日は急ぎの用事があるんですよ。ねえ、お嬢」
「私もそのお話を横で聞かせてもらって、記録をとらせていただいてもよろしいですか?」
「お嬢ぅおおぉ~~~~!!!」
山田は、小男にひきずられるようにしてその場から連れ去られていったという。
ここで話は一旦、この事件からしばらく後に移る。
王都に
「斬新な武器を造っている武器屋が居る」
という噂が流れた。
古代文明の秘密が隠された魔剣らしい、ミスリルの武器を切断する名剣だそうだ、初代勇者の聖剣を再現したらしい、などとさまざまな話がささやかれ、噂の元になった武器屋には大勢の客がおとずれて武器が飛ぶように売れた。
だが、その武器屋が来店客達に聞いたところ、噂をしていた人々は「その剣が使われた場面を実際に見た」と言う者達も含めて、それぞれが「聞いたら面白い話」を勝手に作って広めていた。噂を流す前に、武器屋に真相を確かめに来ていた者は一人もいなかった。
また王国近在領では、とある冒険者が「俺の武器の秘密を鑑定しろ」と言って武器屋で暴れ、首をはねられる事件が発生した。これについては蘇生された当事者によって「鑑定能力の無い武器屋が逆ギレして、俺の首をはねて強制的に黙らせやがった」という話が広められた。
その情報も真偽をきちんと確認した者は一人もいなかったが、そのまま領内に噂が拡散された。その結果、正義の戦士達が集まってきて悪徳武器屋の店は物理的に炎上させられ、店主はそのあと行方不明になったという。
余談になるが、現在、王国にはドワーフ族の刀工が女性錬金術師と共同で作成したという口伝(訳者注:言い伝え)を持つ、一振りの太刀がある。
とある辺境の貴族から献上されたというその武器の、異風な拵えに興味を持った時の将軍ヨシムーネ公は自らその太刀で試し斬りをし、その鋭い切れ味に感嘆して自らの佩刀(訳者注:腰にさして持ち歩く刀)に選んだという。
そして邪龍ブラックディルドが襲来した際、将軍はその太刀を振るい邪龍を3枚おろしにして成敗した。
この逸話によって太刀は「ドラゴンおろし」と名付けられ、将軍家の家宝の一つとして今に伝えられている。
だが、その太刀を造った刀工と錬金術師については何も記録が残っておらず、彼らが誰で、どのような技術を用いてその太刀が造られたのかは定かでない。
話は戻る。
こうして山田の、王国での生活がようやく始まったのである。




