30:闘いの行方
山田と大男の決闘は、中途半端な結末に終わった。
立ち去っていく大男を追いかけようとしない山田に、見物人が冷たい目を向ける。どこからか舌打ちの音が聞こえ、派手な惨殺場面を期待していた人々は失望して散っていった。
見物人がいなくなった広場の隅で、地面に座りこんでいる山田が隣にいる髭の小男にぼそっと話しかける。
「……売れましたねえ、ご主人」
小男は袋に入っていた魔石を数えながら、山田に答える。
「あの男、わしが言った値段の倍くらい置いていったぞ。お前さん商売上手だな。多く貰った分はあんたの取り分だ、持っていけ」
「え、いやそれは」
山田は錬金術師のほうを見る。
「受け取っておきなさい。あなたが体を張ったのだから、それは正当な労働対価です。ヤマダのお小遣いです」
錬金術師がにっこり笑う。
「それにしてもなあ……わしの造った剣に、秘密など無いぞ。あれはただの丈夫な鉄剣だ」
「いや、ああ言っておけば返品に来づらいと思って。というか、大剣をダイコンみたいに切ってしまう刀が、ただの剣って事は無いでしょう」
「ただの剣だ。切れたのは、そこのお嬢さんが付与した術式のおかげだろう?
魔法を付与して一時的に魔法剣にしたのは判るが、何なんだ、あの術式は」
そう言われた錬金術師は、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの様子で武器屋の主人に説明をはじめた。
「このあいだ創式した『高周波振動』と『分子間力切断』を重複付与してみました。2本目の剣に付与した『振動吸収』、『分子間力強化』と術式同士を干渉させて、打ち合った時点で両者破壊されて引き分け、という予定だったのですが」
錬金術師は早口で一気に語る。相手の理解状況を無視して情報を全部伝えたがるのは知識ヲタク系の悪癖である。誰もそこまでの説明は求めていないので、そこは「新型の魔法です」で良いのである。
錬金術師は山田が地面に置いていた片刃剣を持ち上げ、「構造解析」の術式をかける。
「……予想外の結果です。破壊されるどころか歪みすらほとんど出ていません。無術式の武器では見たことがない構造強度です。
ゆっくり時間をかけて『自動修復』を永続付与すれば、東方騎士団の壱式斬鉄刀を超える武器にできるかもしれません」
要約すると「良い武器だけど、もう一工夫ほしかったね」である。
「ああ、やっぱり『ただの剣』じゃなかったですね」
山田は、ねぼけた顔をしたまま笑う。
錬金術師は、やれやれ、という表情で話を続ける。
「ヤマダ、笑い事ではないですよ……あの程度の方が相手なら、普通は初撃で首をはねて終了です。そのあとも攻撃場所をわざわざ教えて、意図的に防御させて……誰かがおかしいと気づいて指摘しないか、私は冷汗ものでした」
「あー、演技が下手だったですかねえ。アドリブはどうも苦手で……まあ、あの人は本気で騙されてくれたみたいですし、見物人の方々がヤラセだと気付いていなければ成功なのですけれど」
髭の小男が、困惑した顔で山田にたずねる。
「あんた……どうして命をかけてまで、こんな事をしたんだ」
「はあ、まあその、どっちにしても自分は戦いから逃げられないのでしょう?
だったら、できるだけ良い結果が欲しいかな、と」
「良い結果? どこが? お前さんは死にかけて、しかもあの男から負け扱いされて恥をかいたんだぞ? 一撃で勝負を決めておけば誰がどう見てもお前さんの勝ちだったのに……」
「ですよねー」
そう言って山田は日本人特有の、何を考えているのか読み取りづらい愛想笑いを返した。そして彼が何故そのような事をしたのか、理由は語らなかった。
しばらくその場に沈黙が続いたあと、武器屋の小男がボソボソとした声で語りはじめた。




