29:死闘! 兄弟剣
大男に剣を投げてきたのは、武器屋の髭の小男だった。
大男は、何で俺に、という顔をしたが、今は考えている余裕は無い。
ただちに片刃剣を鞘から抜いて山田へと向ける。
〈あれ、何でぼったくり剣なんか使うんですか。そんなの駄目でしょう。
まあいいや、えーと、とにかく首です。あなたの首が欲しい……くび、首〉
山田の姿がふたたび滲んで消える。
防御が間に合う速度ではない。しかし首に攻撃が来ると判っていたため、大男はかろうじて山田の攻撃を自分の剣で防ぐことができた。
一人の刀匠が造った二振りの兄弟剣同士が打ち合わされ、ギャン! と金属音が周囲に響く。
山田はいつのまにか元の位置に戻って立っている。大男の首を守っていた片刃剣は、山田の攻撃を受けても切断されることなく無傷である。
〈あれ……おかしいな、こんなはずでは……〉
山田は首をひねっている。
〈これではお嬢に怒られてしまいます……ならば胴体のほうを輪切りにして、動けなくなってから首を落としましょう。えーと、右のほうから攻撃して胴体の真ん中を、一気にスパッと〉
ふたたび山田の姿が滲む。
今度はズゴック! と鈍い音が周囲に響いた。
〈ああまた防がれた。残念だ、もう駄目、限界〉
元の位置に戻った山田が、自分の剣をゆっくりと下していく。
大男は山田に向けて粗い息づかいで片刃剣をかまえる。
山田は大男に向けて哀しげな顔で微笑むと、口からごぼり、と赤い血を吐いた。
そして膝から崩れ落ちるようにうつぶせに地面に倒れ、ビクンビクンと痙攣してもう一度血を吐き、そのまま動かなくなった。
駆け寄った錬金術師が、脳死に至らぬうちに急いで極大治癒呪文を付与する。山田はたちどころに全回復し、まもなく意識が戻った。
「……あー、負けちゃいましたか。魔法で強化しても、体のほうが耐えられませんねえ……」
山田は片刃剣を地面に置いて胡坐をかいて座り、錬金術師に汚れを浄化してもらいながら、ねぼけた顔で頭をかく。
「でも今のは反則ですよ」
山田は、まだ片刃剣をかまえながら固まっている大男に話しかける。
「あなたのその剣、あなたのものではないでしょう。この勝負は無効です」
「な、何言いやがる。お、俺の勝ちだ。お前の剣だって、お前のものじゃないだろう」
「あ、言われてみればそうでした……でも武器屋のご主人、どうしてこんな奴に剣を渡したのですか」
心配そうに隣に座っていた髭の小男が、山田に聞かれて怪訝な顔をする。
「何を言う、それはお前さんの指示で……」
錬金術師が後ろからそっと「沈黙」の術式を付与したため、そのあとに続く小男の言葉はかき消された。山田は小男に近づいて、何かひそひそと話したあと周囲に聞こえるように語りはじめた。
「なるほど、ご主人のお考えでは、決闘というものは武器の優劣で勝負が決まってはならない……お互いに同じ武器で戦うべきだと。
だからあの人にも同じ刀を渡したのですね」
山田はふたたび大男の顔を見る。
「……でも駄目です。あなたはその刀に隠された秘密を解けていない。使い方を知らない人が持っていても無駄です。さあ、返してください」
「う、うるせえ! てめえに指図される筋合いはねえ!」
大男はあわてて後ろに片刃剣を隠す。
「あなたの武器ではありません。まだお代は払っていない」
「いや、もう俺のものだ! おい武器屋! これは売ってもらうぞ!」
「ああ駄目ですよご主人。この人にだけは、どれほど対価をもらっても渡してはなりません。手に入れても、どうせ秘密が解けずにまたここに来て……あ、そうか、その時に首を」
「無関係の奴がごたごた言うんじゃねえ! おい武器屋! 代価だ!」
大男は魔石が入った小袋を武器屋に投げ渡し、地面に落ちていた白木の鞘を急いで拾い上げた。そして片刃剣をふりまわして見物客を追い払いながら足早に立ち去っていく。
「ああ、勝ち逃げする気ですか。戻ってきてください。無効です。もう一回勝負です」
山田が呼び止めたが、大男は逃げるようにいなくなってしまった。




