28:剣と魔法の大決闘
大男は山田の返答を聞いて一瞬ぽかんとしたあと、大声で笑いはじめた。
「そうか、初心者は場数を踏んで度胸をつけないといけないからな。俺は優しいから、苦しまないように一撃で決めてやろう。お前の練習にはならないかもしれないが、まあ死ぬのも経験のうちだ」
「えええええ、その、もう少し穏便にお願いできませんか」
「心配するな、痛みは一瞬だ」
大男は横柄な態度のまま、山田に問いかける。
「お前が使う武器は何だ?」
「えーと、ぼったくり剣です」
「はああ??」
山田が手に持っているのは、さきほどの白鞘の片刃剣である。
「てめえ……俺を馬鹿にしてんのか?」
「いえそういうわけでは。これはその、相談した結果で」
「……気が変わった。楽には死なせねえ」
大男の形相が変わった。噴き出る魔闘気に当てられて山田がよろける。
「いや待って、もう少し冷静になりましょう。無益な殺生です。もし戦いを始めれば次の瞬間、あなたは血溜りの中で返り血を浴びて立っている事になりますよ?」
「……逃げられると思うなよ」
「えええ、本当にやるんですか……やらないと駄目ですか、駄目なんですね」
商店街の荷捌き場に移動した大男と山田は、遠巻きに見物する人々に囲まれて対峙する。錬金術師が山田にいろいろと魔法術式を付与し、彼はおぼつかない足取りで大男の前に進み出た。
片刃剣を両手に握ってかまえるが、まったく腰が入っていない。その動きは見るからに素人である。
しかし、それを見ても大男は油断する気配を見せない。大剣に魔闘気を纏わせて攻撃力を最大限まで高め、熱気で周囲に陽炎が立ち上る。「龍は粘魔を倒すのにも全力を尽くす」と言わんばかりの様子である。
〈……先手は譲ってやる。本気でかかって来い〉
〈え? 何? 何で言葉が頭の中に聞こえるんですか?〉
大男の権能〈念話〉にとまどう山田。
〈早くしろ。クソチビの味方になったことを後悔させてやる〉
〈やめて、その顔怖いです……ああ、やるしかないのか……すみません、もう始めてもよろしいんでしょうか〉
〈とっとと来い!!〉
〈ひえええ(泣)、行きますよ、行けばいいんでしょう、もうヤケクソだ〉
山田がそう伝えた次の瞬間、その姿は滲むようにぼやけた。
そして大男は、突然に手元が軽くなった事に気がついた。
いつのまにか彼のかまえていた大剣が根元から切断され、剣の本体だけが少し離れた場所に落ちている。
〈うへぇ凄い……本当に切れたよ〉
〈何だ!? てめえ今、何しやがった!〉
〈いやその、そこまで歩いていって、この刀でですね、その剣の根元をスパッと〉
〈「瞬歩」に「斬鉄」だとおおお???〉
大男の顔が驚きで歪む。剣の柄を投げすて、ただちに魔法詠唱に移った。
「わが身体に宿りし魔の力よ、劫火の奔流となりて我が敵を滅ぼせ!『極大火炎呪文』!!!」
大男が両手を合わせると、手のひらの間に白く輝く炎が燃え盛り、山田に向かって打ち出された。
だが魔法というものをあまり見たことがない山田は、大男が何をしたのか瞬時にはわからない。避ける動作すらせず、そのまま炎の直撃を受けてしまった。
しかし炎が山田の体に到達した瞬間、まばゆい光が生じて炎弾は大男に向かってはじき返された。
「なっ……!!」
大男は熱気を吸い込んで肺をやられぬように息を止め、腕で顔を覆ったが、膨大な熱量によって手足がみるみる焼かれる。
〈うわあああ大変だ、焦げてしまった、だ、大丈夫ですか〉
大丈夫ではない。
大男は立っているのも辛い。上級回復薬を取り出して次々と使うが、簡単には全回復しない。
〈すみません、なんかその、自分にはマホなんとかという呪文がかけられていて、魔法で攻撃されると自動的に反射するそうで〉
大男は、彼の頭に響いた言葉を理解するのに数拍かかった。
(こいつには物理攻撃しか通用しない)
そう悟った大男は、考えていることが山田に伝わらぬよう注意しながら銀製の小球を取り出して、目にもとまらぬ速さの魔力指弾で放った。人狼討伐の時に使う、彼の必殺隠し技である。
銀球は音よりも早く山田の額に到達した。もにょん、と奇妙な音が響き、衝突部位から同心円状に虹色の光芒が広がる。勢いを失った銀球が、ぽろりと彼の足元に落ちた。
山田は、何だろう?という顔をして地面に落ちたそれを見る。
「物理障壁……なんでそんな上級魔法を」
大男は力なくつぶやき、絶望に満ちた顔になった。
〈あ、すみません、えーとですね、あそこにいる自分の主人が〉
そう言って山田は、錬金術師のほうをちらりと見る。
錬金術師は「やっておしまい」の仕草を返す。
〈あなたの首を取れ、と申しておりまして〉
山田は困った顔をしながら、片刃剣を前にかまえる。
大男は思わず後ろに一歩引いた。
〈自分としては不本意なのですが、主人の命令なので恨まないでください。なんかその、生き返れないように燃やすつもりらしいんですが、えーとその、申し訳ありません。ご葬儀は出したほうが良いですか〉
今度は大男が顔面蒼白になる番である。
大男は何か武器は無いかと周囲に目を配る。その時、見物人の中から声が聞こえた。
「これを使ってみろ」
大男に向かって、木の棒のようなものが投げ渡された。
彼はあわてて右手を伸ばし、それを受け取った。
大男が手にしたのは、武器屋の主人が作った、もう一本の白鞘の片刃剣だった。




