26:ぼったくりの武器
仕立て屋で自分の服を新調してもらった山田は、その装束に違和感を持たざるを得なかった。
「……お嬢、なんか自分一人だけ凄い服になって、驚いているんですが」
「王宮御用達の仕立て職人が作った注文服ですからね。その服なら私と一緒に王宮に同伴しても大丈夫ですよ」
「服や靴がその場で作れてしまうのが驚きです。うーむ、魔法って凄い」
「普通はもっと時間がかかるのですけれどね。特急料金を払って創ってもらったので」
「え、王様の仕立て屋の特急料金? ……いったいいくら払ったんです?」
「ヤマダは気にしなくて良いですよ。服飾は私の支払いですから」
「うわああ、なんか怖くてこれ以上聞けないいい。
というか、こんな服を着て町を歩いているって……どうなんですかこれ」
山田は不安そうな表情である。
「はい?……損傷自動修復と、自動浄化の術式が付与されていますから、常時着ていても汚れる心配は無いですよ?」
「……いや、そういう意味ではなく……メイドさんが普通に町を歩いている世界ですから、こういう服で歩いていても不自然に思われない文化だろうとは思うんですけど……お嬢が芋ジャージと袢纏のままなのに、ちょっとお互いのバランスが悪くないですか」
山田が身につけているのは燕尾服と黒い光沢靴。それにチョーカーとストレートネクタイを組み合わせたような首輪兼用の黒い頸装。全体の印象としては黒い執事のセバスさんである。
山田に強い違和感があったのは、地球の場合、燕尾服は夜装服、つまり夜にしか着ない服だからである。日中であればモーニングという服を着なければならない。
また燕尾服は服と靴以外すべて白で統一する決まりであり、タキシード着用時のように黒ネクタイと合わせてはいけない。それ以前に燕尾服は第一級礼装なので、宮中晩餐会など格式の高い夜会以外の場所で着用するのは場違いである。
要するに地球基準であれば「駄目だこいつ、服飾のことを何も判ってねえ」と言われ、服飾警察と呼ばれる秘密組織に連行されてしまう装束なのである。
このような理由から地球では、暗殺者系の職業の者が日中の商店街で燕尾服を着て歩いていることはほとんどない。
加えて言うなら、地球では『お嬢様』に『執事』が付き添う事も無い。執事とは全従業員の統括をする総支配人であり、通常は年配者が担当する上級職務である。
そのような職務の者がお嬢様の専属係として勤務する事は一般的ではない。また、この世界のように同一の館に複数の『執事』が勤務していることもありえない。
この時、山田が奴隷として与えられた職務『執事』は、地球であれば『従者』と呼ぶべき職種である。いずれにせよ山田は一般的な執事のようにオーラ力を纏って敵と戦うことはできないため、執事姿はあくまで形だけのものであった。
芋ジャージを着た乱れ髪の女性と、その執事が次に向かったのは武器屋である。
「武器って……自分には武術の心得は無いのですが」
「本職が創った殺傷力が高い武器は、装備しているだけで違いますよ。遠距離系は使いこなすのが難しいですけれど、近接系の軽い武器なら殺意さえあれば誰でも使えます。切断系と打撃系のどちらが良いですか」
「……銃刀法とか無いんですね」
「じゅうとう……何ですかそれ。記録させてください」
二人が異世間話をしながら河童橋の道具屋街にさしかかった時、一軒の小さな武器屋の前で騒ぎがおこっていた。
「はあああ?? ただの鉄剣だろ? 素材はゴミみてえな値段だろうが!! 適正価格ってもんを教えてやってんのに、何だそのふざけた態度は!」
装飾過多の傾奇いた防具を身につけた大男が、子供のように小さい髭面の男を怒鳴りつけていた。
髭の小男ががっちりした筋肉質の腕を振って、不快そうに大男に言う。
「……聞こえなかったか? 値引きはせん。高いと思ったら買ってもらわなくて結構だ。とっとと向こうに行ってくれんかな、商売の邪魔だわ」
「あぁ? てめえ何様のつもりだ?」
大男はいきなり背中に背負っていた大剣を抜き、小男の眼前につきつけた。
遠巻きに見ていた人々の間に、ざわめきがおきる。
「あいつ……抜いたぞ」
「抜いたな」
「誰がやる?」
「そこに執事がいる」
周囲の人々の目が一斉に山田へと注がれた。




