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22:聖女が創りし場所

 山田と錬金術師は、住民登録をおこなっている聖教会の施設に来ていた。


 聖ラームーン教会は、初代勇者と共に戦った聖女ラームーンが設立したと伝えられるヘイアン時代の礼拝堂に、後の時代からさまざまな建築様式で施設が付け加えられて成立した混成様式の建造物である。


 山田達は建物正面にある朱塗りの大鳥居をくぐり、地球のビザンティン様式に似た丸いドームのある中央聖堂へと歩を進めていった。


「立派な建物ですね。ここが……居住申請をする役場ですか?」

「国の役所ではなく、民間の宗教施設です。と言っても住民台帳や『冒険者の書』などを管理しているので、なかば役所のようなものですが」

「ぼうけん……のしょ?」

「個人の記憶と細胞の一部を保管しておいて、肉体が消滅した場合にも復元蘇生できるよう管理統制している、世界規模の生命魔術機構の俗称です」

「え、消滅した場合……って、死んでも生き返れるんですか??」

 山田は驚愕の表情になる。


「法律で蘇生が許されている期間内で、個人の記憶が記録管理されていて、なおかつ生きた細胞が時間停止保存されている場合に限り、ですけれどね。

 でも登録保存した時点の人物が再生されるので、生き返った方からは登録セーブした時以降、死亡するまでの間の記憶が消滅しています。

 再生ホムンクルス体が元の人間と同一と言えるのかどうかは難しいところで、哲学的にいろいろ議論されています」

 山田はそれを聞いてまた驚く。


「え、ホムンクルスって、クローン人間の事ですか?……なんか、そういうテーマで書かれた恋愛SFがあったなあ。恋人が事故死したあと、二人の思い出を何一つ持っていないクローンが再生されて戻ってくる話」(訳者注:萩○望都「A-A’」1981、46pの短編)

「ヤマダはまだ登録前なので、死ぬと生き返れませんから早く登録しておきましょう」

「そんなによく死ぬんですか……やっぱり異世界怖い」


 山田達は中央礼拝堂へと進む。

堂内にある壮麗な宗教美術の数々が彼らを迎える。


 正面の檀上には、彫刻の名手として知られるタカム・ラ・コーウンが作成した、聖女の卓上人物像が飾られていた。冥王配下の黒冥臣の一人、吸血公エロパイアを秘技ふともも断頭台で昇天させている聖女の彫像は、王国美術史上の最高傑作の一つとされている。


 また、この建物の地下には聖女ラームーンの最強装備として知られる防具が聖遺物としてまつられており、人々の礼拝の対象となっていた。


「初代聖女様は、初代勇者様に次いで人々の敬愛をうけておられる聖人です」

「どんな方だったのでしょう」

「初代勇者様からニホンの武術の話をお聞きになって、その奥義とされる技を独学で再現することに成功した方だそうです」

「日本武術の奥技? 陸奥むつなんとか流みたいな……」

 山田は知っている武術の構えを真似てみる。


「『光の呼吸』と呼ばれる技で、特殊な呼吸法を用いて体の血液に波紋をおこし、光魔法と同じ属性の生命力を生み出す秘術であったと言われています。ご存じありませんか」

「え……聖女様って、話を聞いただけで……その技を再現したのですか?」

「再現できたのは後にも先にも、初代聖女様ただ一人だったと聞いております」

「天才だ」

「その波紋を拳に疾走させて、冥王の操る暗黒屍龍ドラゴンゾンビを一撃のもとに粉砕したと伝えられています」

「すげえと言う以外に感想が出てきません。主人公にして小説が書けそう」


 錬金術師は神官に山田の洗礼手続きを申し込んだ。

王国では住民登録を聖教の各教会がおこなっており、予防術式証明を提出して信徒洗礼をうけた者には王国居住資格が与えられる。


 聖教はこの世界の創造主を唯一神として崇拝する一神教で、ナーロッパ大陸を発祥とする外来宗教である。しかしヤシマ大陸に渡来したあと土着の民衆宗教である初代勇者信仰を取り込み、初代勇者一行を聖人として認定する形で統合が図られている。


 聖教会は汎世界的に支部を持つ、この世界で最大の影響力を有する組織の一つであり、現在では王国でも政治や文化に大きく関わる存在となっていた。


 少し待ったあと、袖付きの白い上衣と緋色の袴を身につけた修道女が礼拝堂に現れた。そして山田達は彼女によって、洗礼が執り行われる木造の造物主堂へと案内された。


 洗礼式は、本来は滝行をして身を清め、造物主との一身化を祈念する宗教儀式である。

しかしヤシマ大陸では勇者信仰の聖餐せいさん式と一体化して変容し、聖餅せいへいと呼ばれる儀礼食を拝受することにより聖教信徒として認められる習わしとなっている。


 司祭が儀式次第に従って造物主経の誦読しょうどくをしたあと、奥にある至聖壇しせいだんから聖餅せいへいを運んできた。

 板張りの床の上に正座している山田の前に、緑色の膳部樹カシワベの葉に盛られた聖餅が、白木造りの四角い小さな膳に乗せられて供された。


 それを見て、山田は内心で驚きを隠せなかった。


(こ……これは!! 何故、異世界にこんなものが!!!)


 聖餅は、「オコメ」と呼ばれる、初代勇者の故郷から異世界召喚された穀物を材料として作られていたのである。

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