21:お肉料理の戦慄
山田は路地の奥で売っている、肉の串焼きに思わず目が行った。
なんと! この世界にも、まともな食べ物があるではないか!!!
「あ、屋台だ……おぉぅ……美味そうな香りが」
「露店は駄目ですよ、危ないから」
「え、食中毒ですか」
「その程度なら解毒と治癒の魔法で治りますけれど、あの肉が野生の魔獣のものだった場合、どんな病原体、寄生体が含まれているか見ただけでは判りません」
「言われてみれば日本でもイノシシ肉なら肺吸虫、旋毛虫やE型肝炎ウイルス、ウサギ肉であれば吸入感染する野兎病、不治の死病エキノコックス症、輸入ペストなんかがありますね」
「感染性蛋白因子の場合、どんなに加熱しても感染力が失われません」
「シカ肉の狂牛病」
「魔物には無害なのに、ヒトに対しては致命的な菌を持っていたりもします」
「ウシの腸内には普通にいる細菌、o-157のような。レバ刺し食べて救命困難な出血下痢になるやつ」
「最悪の場合、持ち込んだ肉から新型の疫病が広がってヒト族社会が滅びます」
「うわああああ」
心当たりがあるようである。
「王国の場合は隔離飼育された個体で、さらに国家検疫を通した浄化処理肉でなければ扱ってはいけない規則があります。でも、あのお店には食品販売業認可証が掲示されていません。非常に怪しいです」
「そ、そうか、お肉って、よく考えたらすごく恐ろしいものだったんだ……うう、生卵を食べても死なない国の感覚で考えては駄目だ」
「冒険者が変な肉を生焼けで食べたために、内部融合されて翌朝に人間でない存在になっていた事もあります。温血動物を食べる事は、衛生学的にはきわめて危険な行為です」
ドン引きしている山田に、錬金術師はさらに言葉を続ける。
「王国以外であれば、しとめた獲物を冒険者組合窓口に搬入するまでは一般人にも許されている事が多いです。でも、食肉解体は猛毒魚の調理と同様に各自治領の認定免許が必要です。
設備検定をうけた陰圧施設内でしか許されていない行為でもあるのですが、闇の解体業者が時々摘発されます。売っているのが再生肉だったりすると味が相当落ちるらしいですけれど」
「さいせいにく?」
「美味しい部分だけを切り取って、死なないうちに治癒呪文で治して、また切り取って……
都市伝説だと思いますけど、どこかの施設では女の子の奴隷が食用児として育てられて」
「あああストップ。都市伝説ですよねそれ。そうかー奴隷少女なんていなかったんだよかったー。お願いしますそういう事にしておいて下さい」
地下駅からしばらく歩き、錬金術師に連れられて最初に山田が行った場所は王国指定の労働保険療術院である。
療術院では公認鑑定師によって各種感染症、寄生獣、憑依、精神操作、呪術付与、魔物化徴候などの有無について健康診断がおこなわれる。
山田には問題の無いことが確認されたため、続けて住民登録をする際に必要な各種の予防術式が付与された。
そのあと背中寄りの肩に太い注射のようなものを打たれ、術式付与証明を受け取って、ここでの手続きは終了である。
「……いきなり何か刺されたので驚きました。魔法をかけてもらったので痛くなかったし、傷口も残っていないようですけれど」
「あれは魔力針の埋め込み道具です」
「まりょくしん?」
山田は首をかしげる。
「識別番号を魔力的に刻み込んだミスリルの小さな針を、錬成水晶で包み込んだものを皮下に留置しました。
昨年度の奴隷愛護法改正で、奴隷には魔力針の挿入と、それを埋め込んだ主人の情報登録が義務づけられました。除去防止の術式がかけられているので普通の人には取り除けません。
それを入れておけば首無し死体になっていても身元が確認できます」
「え、首無しって……よくあるんですか」
「まあ、めったに無いです。どちらかというと首輪がはずれた迷い奴隷や、記憶を消された捨て奴隷の身元確認用です」
「捨てられる奴隷もいるのですか」
「……良くない事ですけれどね。法律で禁止されてもいるのですが」
錬金術師は少し悲しそうな表情をした。ここで簡単には語り尽くせないほどさまざまな奴隷虐待問題がある事を、彼女はよく知っていたからである。
山田も彼女の様子を見て、もうそれ以上は何も聞かなかった。
そのあと彼らが向かったのは王国聖教会の主要施設の一つ、聖ラームーン教会であった。




