17: 異世界わくわく契約
「『主人は従僕のあるじとしてふさわしき者であれ。また従僕は主人が誇れる存在となるよう努めよ』
……え、奴隷契約って、内容はこれだけですか???」
「詳細な隷属条件はこれから話し合いで決めますが、ヤマダ様は債務奴隷や犯罪奴隷ではありません。ですから行動を縛るものは主従の信頼関係のみです。
主人は自らの名誉をもって奴隷のことを守る。奴隷はそれに応えて主人に仕える。
どちらかの信頼が損なわれた時は、奴隷契約を解消して別々の道を進みます」
山田はしばらく絶句していた。
「……自分が予想した契約とはまったく違います」
「ヤマダ様はすでにクマノの誓約で縛られていますから、面倒な追加条項は必要ないでしょう」
「あー……逃げられないし反抗もできない、と」
「乱暴狼藉を禁じているだけですから、反抗はできますよ。
意に沿わない命令は拒否できます」
「うーん……錬金術師様の奴隷になった場合、自分はどんな仕事をすれば良いのでしょうか」
錬金術師は少し考えてから答えた。
「そうですね……研究の助手でしょうか」
「助手?……自分は錬金術などというものは、何もわからないのですが」
「異世界人としての感性で、見たこと聞いたことについて感想を言ってくれるだけで参考になります。あとは時間のある時にチキュウの事を教えていただいたり、……そうですね、雑用などを時々手伝っていただければ」
「雑用……というと、部屋の掃除とか」
「それは部屋付きの人工精霊がやってくれるので、ほとんど必要無いです」
「洗濯とか」
「浄化魔法があるので、基本的に不要です」
「料理……は召し上がらない?」
「食べるのは好きなのですけれど、自分一人だと用意するのが面倒で」
「あれ? さっき用意してくださった『食べ物』は……?」
「あれは……自分で食べるのはちょっと」
「はい? あの……この世界には、あれと別の食べ物もあるのですか?」
「町まで出かければ色々な料理やお菓子が売っていますし、貴族は専属料理人を雇って美味しい高級料理を作らせています」
その時、山田はその言葉を聞いて、ものすごく複雑な顔になったと伝えられている。
「えーと、この世界の料理がどのようなものか判りませんが、調理には魔法が必要なのでしょうか」
「魔道具を使えば代用できますけれど」
「あの、では自分がお食事を作らせていただくというのは?」
「え?ヤマダ様は魔法を使えないのに……お料理を錬成できるのですか?」
「30年近く自炊していましたので、多少は」
「え、凄いです! では異世界料理を創ってもらえるのですか!」
「すいません目が真剣で怖いです。
えーと、この世界の素材や調理器具を見てからでないと、作れるかどうかまだ判りませんけれど」
「大丈夫ですよ、私も手伝います!
うふふふふ、異世界料理の解析記録……あ、でも栄養の問題がありますし、ふだんは私が用意するべきでは」
それを聞いて山田は血相を変えた。
「い~~~えいえいえいえ、とんっでもございませんっ!!!
ご主人様に、そ・ん・な・お仕事をさせたら奴隷として失格でございます!
どうかご自分でお作りにならず、自分に、す、べ、て、全部まるっとスリっとお任せください!
というより作ってみたいのです作らせてくださいお願いします」
「え、は、はあ、そこまでおっしゃるなら。では道具代や材料費は私持ちで」
「……よし、これで生き延びられる」
「今何と?」
「いや、光栄でございますと」
錬金術師は草案に業務内容についての文章を書き加えていった。
「ヤマダ様が住む場所ですが、この部屋でもよろしいですか?」
山田はその言葉の意味がしばらく理解できなかった。
「え、この部屋……って……ここは錬金術師様のお部屋なのでは?」
「私の寝床は別の部屋に出しますけれど、この部屋では狭いでしょうか」
(それはその、あなたと一つ屋根の下で?……一緒に?……同棲……どうせいっっ!???)
「あの、ヤマダ様?」
「あ、はいはいはいこの部屋。ええもう自分は全然オッケー、ででですけけれど……
そそその、れ、錬金術師様は自分と一緒に暮らして、えーと、ももも問題無いのでしょうか?」
「私はそのほうが連絡をとる苦労が無くて楽なのですが……共同生活がお嫌でしたら、別の場所にヤマダ様のお部屋を借ります」
「いえっ! 錬金術師様によけいなご負担はかけられません!
自分は押入れでもトイレでも玄関の靴脱ぎの上でもどこでも平気ですっ!
ぜひここに置いてくださいっ!」
「ではこの部屋で生活……と」
しかしそこで山田はふと不安がよぎった。
「あ、でも……もしかして一生ここから出てはいけない……とか……」
「黙って危険な場所に行ったりしなければ、外出していただいてもかまいませんよ。城郭内であれば逃亡扱いになりませんから」
「え? いいのですか? 奴隷なのに?」
「この国になじむまでは、外出時には迷子にならないよう私がご一緒しますけれど」
「え、そ、それはもしや……実質デート……あの、で え と……」
「はい?」
「いえ何でもありません。あああ目から汗が」
まもなく状態異常から回復した山田に、錬金術師は言葉を続ける。
「あー、そうそう忘れてました、大事な事を」
「はい?」
そのあと錬金術師が続けた言葉に、山田は耳を疑うことになった。




