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14:伝説の勇者の伝承

 それは、はるか昔のこと。


 邪悪な冥界獣を操る闇の存在、冥王ペドスキーが異界より現れ、この世界に存在するすべての幼女を自分のものとすべく侵略を開始した。配下として仕える黒冥臣達の強大な力の前に人々はなすすべも無く、冥王は思うがままに自らの欲望を満たしていった。


 だがその時、この世界に日本から転移してきた初代勇者ヤスヒコが降臨した。創造神から力を与えられたヤスヒコと3人の仲間達は力を合わせ、長い闘いの末に冥王を打ち倒した。


 そしてヤスヒコは古エド王国の王女ロリリーヌと結ばれ、新生エド王国の初代国王となり、重臣となった仲間達と共に平和な国を作り上げたという。


「えーと、それで勇者ヤスヒコ様の子孫が、今の将軍様?」

「いえ、初代勇者様の奥方ロリリーヌ様は、冥王の呪いを受けて子供が産めぬ体となってしまわれたのだそうです。ですが初代勇者様はご側室を持とうとはせず、老いてお亡くなりになるまで奥方様ただお一人を愛し続けたと伝えられています。


『もし私が側室と子を成し、その子が次の王となれば結果としてエド王家を簒奪さんだつする事になってしまう。私はそれを望まない。この国は私の子孫ではなく、その時代で最も優れた者を選んで継がせるが良い』


 そう言って、共に冥王と戦った戦士――初代将軍トクガー・イェーヤス様に国を預け、お亡くなりになったそうです。それから950年、エド王国はこの世界の平和を守る中心的拠点であり続け、聖教会本山に眠る初代勇者様は今も人々に敬愛され続けているのです」

「うう、ええ話や……自分も初代勇者様ご夫妻の墓所に参拝せねば」


 そう山田が言うと、錬金術師は少し困った顔をした。


「あのう、奥方様のほうは亡くなってはおられません」

「……はい?」

「奥方様は冥王の『永遠なる10歳』の呪いによって年をとることも死ぬこともできぬ少女となり、初代勇者様をお看取りになられたあと、いずこかにお姿を消してしまわれたそうです。今もどこかで王国を見守ってくださっていると言われています」

「……その情報を知ったあと、さきほどのお話の内容をもう一度よ~く検討しなおしてみると、初代勇者様の印象が相当変わってくるんですが」


 余談であるが、ヒトを不老不死にする魔法はこの世界では禁忌とされている。ヒトの心は弱く、あまりに長く生きていると精神を病んで問題行動をおこしたり、みずから命を絶ったりすることが知られているためである。


 山田は不老魔法について意見を尋ねられた時、次のように答えている。

「まあ、外見には多少手を加えても良いと思うんです。寿命が来て死ぬまで見かけが若くて健康って素晴らしいでしょう? 奥さんがずっと綺麗で若いままなのは自分も素直に嬉しいですし……

でも心に手を加えるのはちょっとねぇ……どこかの貴族が奥さん全員の心を3歳で止めてしまったことで起きた、あの話は闇が深いです」(馬の骨風雲録44段の21)


 なお、この談話にある「あの話」は当時にはよく知られている事件であったのだろうが、語る事をはばかられる内容であったためか、具体的な記録が残されていない。


「そして初代勇者様がロリリーヌ様を助け、人類統合軍最高大元帥『勇者』になるまでの愛と冒険をつづった古典的名著が、この本!

私の愛読書である、

『第四惑星に転移してきた俺が凄い力で王女を助けて大元帥に成り上がった件』

です!」

「……毎回思うんですけど、いろんな物がどこから出てくるんですか。

あ、その説明はあとでいいです。えーと、それは題名の感じだと、わりと最近に書かれた本ですか」

「いえ、原著は初代勇者様がご存命の頃に書かれています。初代様がまだニホンにいらっしゃる頃、アキハバラやハルミで活躍なさった逸話も載っています」

 錬金術師が言った言葉に、山田は驚いた。


「え、でも初代勇者様って、1000年近く前の方なのでは……たしか秋葉原って地名ができたのは明治時代で、電気街になったのは第二次大戦後……せいぜい70年前ぐらいなのですが」

「え、そうなのですか?私はてっきり1000年の古都だと」

錬金術師が驚いた顔になる。


「いや、1000年の都は日本にもありますが、秋葉原は新しい町です。晴海で即売会が開かれていた期間に至ってはわずか14年程度です」

それを聞いた錬金術師は唖然として、しばらくは口がきけない様子だった。


「……たったの……14年で滅びた町だったのですか……それは魔物の襲撃で」

「いえ滅びてはいません。即売会はビッグサイトに移って……自分がこちらの世界に来た時点では、感染症の発生で開催休止になっていますが」

「疫病で滅びたのですか」

「滅びては……いやまって、自分がこっちの世界に来た後でどうなったんだろう? まさか、そのまま滅びてないよね?」


 山田のこの疑問に関しては、のちに新たな地球人転生者によってその後どうなったか伝えられる事になるのだが、山田はそれを終生知ることはなかった。そのためその話はここでは語らない。


 少し話が逸れるが、錬金術師はこの時に山田から聞いた情報を書き残している。


「私は彼から『ビッグサイト』というのは町ではなく、東京国にある施設の名前だという事を教わった。

その中核となっているのは4本のとてつもなく太い柱に支えられた、4つの逆四角錐を合わせた形の巨大な神殿である。その高さは約16デカフィート、外部はチタニウムで覆われている。(脚注1)


 我々には想像することさえ難しい話だが、疫病流行以前の古き良き時代には神殿の周囲で開催されていた年2回の神事に4日間合計で75万人もの巡礼が集まっていた。それは回教徒のカーバ神殿巡礼に次ぐ地球世界で最大級の行事であったという。

 当時は神殿内でビッグサイトマンジュウ、ビッグサイトセンベイなどの神饌しんせんが頒布され、巡礼達が聖なる神殿の象徴として故郷へと持ち帰っていた。


 神殿の前庭には超大型巨人が使用していたと伝えられる、血の色をした手挽き鋸が大地に突き刺さっている。その大きさは地上に出ている部分だけでヒトの背丈の10倍近くもあり、参道の横半分を挽き切ったところで止まっている。


 地方在住者がこれらの話を聞かされると、どこの異世界の話?という言葉を返すのが常であった。虚構だと思って検索し、それらが単なる事実であることを知って驚愕するという」

(王都籠中記、巻の1、第3段の54)


「うーん……初代勇者様の話は、どうも年代的におかしい気が……」

「ヤマダ様、転生される方は、時を超えてこられる場合があると聞いております」

「はい?……え?時を?」

「過去から未来に移動したり、未来から過去に転生したりする事があるのだそうです。

 初代勇者様が過去の世界に行かれたのか、ヤマダ様が過去の世界からいらっしゃったのか判りませんが、時系列に乱れがあるのではないかと」

「時系列に……」

「冥王がこの世界に現れた時、この世界にもともとあった魔力の流れを破壊してしまったらしいのです。それが原因で時空が乱れ、魔力が局所的に異常集中するようになり、この世界に『勇者』や『魔王』と呼ばれる者を周期的に生み出すようになったと言われています。異世界からの転生者や転移者が増加したのも、冥王降臨以降だと伝えられています」

「え? 自分のような転生者が、他にも大勢いるのですか」

 山田は驚きを隠せない。


「多くはありませんが、王国にも何人かおられます。チキュウ出身の方は現在は国内にいらっしゃらないようですが」

「地球人以外の転生者……もしかして、宇宙人の転生者とかいたりして」

「外宇宙の深淵からいらした転生者の方なら、うちの職場にも一人おられますよ。

 前世は剣のような形をした金属生物だったそうで、異性に対する美醜の概念が私共とだいぶ違っておられますが」

「うへえ、どういう美意識なのかな……いや別に知らなくていいです話を先に進めてください」


 こうして山田と錬金術師はお互いの世界について教え合い、共に知識を深めていった。


 だが山田が王国の外にある世界のことを知らされるのは、まだこれからであった。

脚注1:日本製鉄の外装用チタン建材、商品名トランティクシー。チタン純度99.9%

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