11:異世界食、どう?
錬金術師が運んできたものを見て、山田はごくりと唾を飲み込んだ。
食欲を感じたのではない。むしろその逆である。
「……あの、これは……」
「食べ物です!」
「いやそうではなく、料理の名前……」
「名前はありません。収納庫の中のもので急いで創ったので味には自信がありませんが、栄養は完璧のはずです。どうぞ冷めないうちに」
「い、いただきます」
山田は合掌してから、皿に添えてあった金属の匙を手にとった。
(見た目の印象はギガ盛りの紫芋アイスという感じだが……全体から湯気が立っている……マッシュポテト的な何かだろうか?)
意を決して匙を入れる。粘りは無く、土のようにボロリと崩れる。
一匙すくって口へと運ぶ。
クソ不味い。
生ゴミと化学廃棄物が手を取り合って、一緒に暗黒舞踏を踊っているような味である。
食感もほぼ土だが、その中に妙な甘みと苦味があって生臭い。飲み込んだあと不快な酸味が舌に残る。鉄臭さと青臭さと化学臭が混然一体となって鼻に抜け、じわじわと吐き気を誘発する。
「お口に合いますでしょうか?」
錬金術師が心配そうに問いかけてくる。
「はい、美味しいです」
言うまでもなく嘘である。だが、食べ残すという選択肢は山田には無い。
(綺麗な女性が自分のために一生懸命に料理を作ってくれたのだ……度し難い味であろうとも、全部食べきらねば)
しかしできるだけ味を感じないようにしながら、むりやり半分ほど飲み込み続けたところで山田の手が止まった。
〈これは食べ物じゃねえ! もうやめろ山田! 死ぬぞ!〉
山田の本能が大声で警告を発している。
だが山田は再び食べ始めた。
(今、手を休めたらもう二度と食べられなくなる。大丈夫だ俺はやれる。頑張れる。これは毒じゃない毒じゃない毒じゃない全部食べても平気だ平気だ平気だへーき。俺は死なない。死なないといいな。うぅおぅ、ぐぉぷっ)
危険を悟った本能が、胃の奥から食べたものを逆流させようと試みてくる。だが意思の力でむりやりそれをねじふせた。嫌な汗が額を流れる。
本能が鳴らす警報音が大音量で脳内に鳴り響いている。だがもう完食が見えてきた。
山田は食べる。さらに食べる。もう少しだ、山田頑張れ、頑張れ、頑張れ、頑張れ。あと3口。あと2口。今、大皿を左手で持ちあげ、残りを一気に匙で口にかきこみ、何も考えないようにしてむりやり飲み下した、ついに山田完食、完食である。
「ああ、美味しかったです」
そう言って山田は空の皿を膳の上に戻し、錬金術師ににっこりと笑いかけた。
「では、おかわりをお持ちしますね!!」
錬金術師が追加を取りに立ち上がった。




