100:山田の動く城
「はじめましてご領主様。今回の移住のお手伝いをさせていただきます、ヌーク商会の商会長ですだなも」
「こちらこそよろしくお願いいたします。領主になる予定の山田です」
エド王国の南西の外れにある船舶係留場に、山田と召喚士はやって来ていた。
二人を出迎えたのは、獣のような顔をした小柄で小太りの獣人族。端的に言うと服を着た直立歩行のタヌキである。
「はあ、これが自分の船ですか。おお、見た目はまるで高級クルーザー」
山田は係留場に留めてある船を見て、その近代的な意匠に驚いていた。
「わが商会自慢の陸上船だなも。正式名称は大陸横断用高速走行多脚船だなも」
「地球で言うとシェプファー・ヨット社の『オキューラス』に似てますが……なんか足のようなものがいっぱい生えてますね」
「120本あるだなも。これを動かして地面を歩くだなも」
「歩く」
「本気を出せば風のように早く走れるだなも。ほんの少しの時間なら空中を走ることもできるだなも」
「有名アニメに出てくる、バスに擬態した化け猫みたいだな」
「でも動力源が息切れしやすいから、半日以上の高速走行はできないだなも」
「息切れ」
「船舶代金、改修費、整備費、魔力費、人件費、備品代……諸々あわせて、合計49800石になりまーす! だなも」
「え? ……えーと、日本円に換算すれば……よ、498億円っ! 無理無理無理無理むりっ、『払えません』っっ!!!!」
山田は請求額を聞いてぶんぶんと首を振った。
「ご心配いらないだなも。担保なし、利息請求なし、ある時払いの催促なし。これはもう負債ではなく財産だなも。こんな素晴らしい話がどこかの世界にあったら教えてほしいだなも」
「いやしかしお金、じゃなくてお石が」
「お石以外にも返済方法はいろいろご用意してあるだなも。領地でできた果物を渡してくれるとか、商会の仕事を手伝ってくれるとか、色々な生き物を捕って商会に売ってくれてもいいだなも」
「生き物?」
「魚とか、虫とか、領民の若い娘とか」
「奴隷商だった」
「うちの商会は法律に触れない物ならば、なんでも売り買いしてるだなも」
「しかも合法」
「資源に乏しい領地では、人的資源の活用が重要だなも。今ならご領主様の内臓の高額買取もしてるだなも」
「俺、内臓売らなきゃいけないの?」
商会長は船のほうを見て話を続けた。
「それに、内装や機能設備は全部新品と交換してあるけど、船体は中古なので破格にお安くしてあるだなも。性能を考えると非常にお買い得だなも」
「中古って事は、どこかの貴族が使っていた船ですか」
「旧タルソテス王国跡地にある、古代第六文明の遺跡から発掘された船だなも」
「いやちょっと待て」
「心配はいらないだなも。内部は全面改装してあるから、世界を破滅に導くような武装はもう存在してないだなも」
「もう?」
「必要に応じて別売りの武装をつけてほしいだなも」
「うわ武装まで売ってるの? と言うと大砲とか」
「陽電子砲とか、相転移爆雷とか、装弾筒付翼安定対龍徹鱗弾とか、うちの店の陳列台に日替わりで色々並べてあるだなも」
「店の陳列台に」
「でもお値段が半端無いから、短期運用の場合は冒険者ギルドに依頼して、同等の戦闘力がある人を護衛として雇ったほうが安上がりだなも」
「同等の戦闘力」
「まあおぬしの船の場合、わしが乗っていくから護衛はいらんじゃろう」
横から召喚士が言葉をはさみ、山田はそれを聞いて目を丸くした。
「は? いや召喚士様、今何とおっしゃいました?」
「わしもおぬしの領地に行く」
「ええええ、召喚士様も?」
「屋敷に戻っても暇じゃからな。おぬしを見ているほうが面白そうじゃ。
そのためにわしが快適な旅をできるような船をわざわざ買ったのじゃ」
「いやしかし、だからと言って俺のツケ、それも498億、いきなり巨額の借金生活からスタートって」
「領主がケチ臭い事を言うな。わしが領地防衛をしてやれば元がとれた上にお釣りが来るというものじゃ。もし領民が反抗的であれば炎龍に命じてすべてを焼き払い、新しい下僕共を住まわせる事にしよう」
「お父さん魔王だ、魔王がいるよ」
そして召喚士は意味深に笑うと、山田に言葉を続けた。
「わしが領地にいれば、おぬしは領地を誰に防衛させるかを気にする必要は無くなる。つまり、おぬしが真に望んでいる事が自由にできるようになるのじゃ。
明日、錬金術師殿が戻ってきたら、おぬしの口からそう説明してやるが良い」
「え、自分がですか? あの、望んでいる事と申しますと」
「……ああもう、全部説明せぬと判らんのかこの鈍感領主は。ここまでヒントを出しても判らぬ奴はもう一生判らんで良いわスカポンタン」
山田が困惑しながら何か言いかけた時、遠くのほうから声が聞こえた。
「あーいたいた。ヤマダ、ここにいたのね。探しまくった」
「え? ……お嬢???」
芋ジャージ姿の錬金術師が、大きな収納袋をいくつも肩から提げ、頭の上に召喚士の使い魔を乗せて山田のほうに走り寄ってきた。
「使い魔ちゃんから思念を読み取ったら、召喚士様とヤマダがここに来ているというから。でも細かい場所までは判らなくて参った」
「それはさぞお疲れに……というか、何なんですかその荷物は」
「集合住宅を解約して引き払ってきた」
「は??????」
「収納庫の中のものに加えて家具や内装、研究所に置いてあった私物まで収納したら私の収納魔法の容量を超えたので、あとは収納袋に入れて全部持ってきた。部屋に残ってたヤマダの私物も全部この中」
そう言うと錬金術師はにっこりと笑って、収納袋を ぽん、と叩く。
「え? あの、状況がまったく飲み込めないんですが」
「私はもう王国にいられなくなった。今は犯罪者として追われる身。だからヤマダ、あなたの領地にかくまって頂戴」
「ええええええええええええええ???????」
山田は思わず固まり、横にいた召喚士も はああ? という顔になる。
「あの、お嬢、いったい何をなさったので?」
「研究局の偉い人を張り飛ばした」
「ええええ」
「ついでに頭皮の毛根が一本残らず死滅する呪いをかけてきた」
「うわあああ、何というむごい仕打ちを」
「思いっきり複雑な術式にしておいたので、たぶん私以外には解呪できないと思う。明日の朝には効果が発現して犯行が発覚するから、それまでに国外に逃亡しないといけない」
「いやちょっとお嬢、何でそんな真似を」
「顔を見たらむかついたから」
「えええ何それ。いやその、今ならまだ自首すれば許してもらえないですか。あまり早まった行動はですね」
錬金術師は山田の言動を無視し、商会長に話しかける。
「あなたが船を売ってくださる方ですか? この船はもう出航できますか?」
「魔力は完全充填済だから、契約を済ませればすぐにでも動かせるだなも」
「それならすぐ出航しましょう。そこのご領主様、動力室で船霊と契約して頂戴。ほらこっちに来て。はい早く乗る。ぐずぐずしない」
「いやお嬢何をうわやめくぁwせdrftgyふじこlp」
召喚士は、何があったか判らぬが、まあ一歩前進かのう、と独り言を言うと、
商会長と最後の手続きを済ませたあと二人の後を追って船へと乗り込んだ。
こうしてその日の日没頃に新領主・山田の陸上船はゆっくりと腰を上げ、彼らの新しい舞台となるトンデモネ村に向かって、ざわざわと音を立てて走り出したのである。




