第一章 三話 協力
不安との決戦の翌日。七月二十一日。
基地ではトゥルースのメンバー五人全員が集まっていた。
「負思の一人を打破。こちらは死者なし。大勝と言える結果だ。」
「そうだね〜。神の誕生も阻止できたみたいだし〜」
オペちゃんが頷く。
「でも、全員を呼んだってことは新たな問題も出てきたってことなんだろ?」
東馬が疑問を投げかける。
「はい。まずは私から。昨日、基地は帰還する前に日本政府、防霊省を名乗る者からの接触がありました。リーダーの傷を治したのもその男です。何でも最近秘密裏に出来た組織で、戦力が足りていないため私達に協力を仰ぎにきたみたいです。」
「そう。やっとなのね。」
チーム最年長で僕がリーダーじゃなかった時からトゥルースに所属していた喜田さんには、何か思うところがあったのだろう。
「鈴ちゃん。その接触してきた人の外見は覚えてる?もしかしてだけどメガネとかかけてたりした?」
鈴が少しだけ目を見開く。
「喜田さんの言った通り確かに眼鏡をかけていました。年は三十くらいだったと思います。髪はボサボサで、」
「ありがとう鈴ちゃん。もう十分だよ。その人は信頼していいよ。私が保証する。」
喜田さんが言うから間違いないのだろう。そして僕を含めた皆が同じ気持ちのようだ。
「じゃあその件は承諾するとして、話を変えるけどここからはあまり良い話じゃない。」
むしろこっちが本題とも言える。
「おそらく、神の誕生、、、再誕や顕現と言い換えてもいいけど、、とにかく、神はもうすぐ現れる。」
鈴と東馬は少し目を見開いた。
「「ーーーーーーー」」
オペちゃんと喜田さんはこうなることを予期していたかのように何も言わない。
僕は続けて言う。
「今回の戦いで擬似的にだが神とも呼べる段階まで機関は辿り着いた。言ってしまえば神の骨格が揃ったわけだ。あとは肉付けをするだけ。いつ完成するかもわからない。次かもしれないし、その次かもしれない。いつまでも未完成なままで終わるような奴らじゃない。とにかく、期限は迫っている。」
「おわり、、、、。想像も出来ませんね。機関もおわりなんか求めて何になると言うのでしょうか。」
「鈴が疑問に思うのもわかる。でもわからないからこその戦いだ。人が仲間になれるのは共感出来る相手とだけだからね。」
「そうですね。区切りを改めてつけました。」
鈴は少し強くなったと思った。
「ちなみにリーダー。打開策は考えているのか?」
「考えていないことはないんだけどね。でも普通にめんどくさいし、人員も必要だと思う。だから防霊省の人と協力関係を結べた時にまた話そう。」
「リーダーがそれでいいなら俺はそれで構わないぜ。」
「それじゃあメガネとは私がコンタクトをとるよ。」
メガネ?ああ、防霊省の人か。
「それじゃあ、その件は喜田さんに任そうかな。」
そのあとはいつものように各々の近況報告でその会議は終わった。
やはりと言うべきか喜田さんと東馬が向かった負思の拠点跡地からは何も新しい情報を得ることは出来なかったらしい。
だが無駄ではなかっただろう。今のうちに打てる布石は打っておきたい。
七月二十二日。
また翌日になった。翌日。あるのが当たり前なもの。でもその当たり前ももうすぐ終わりかもしれない。
だめだ。やはり朝はナイーブになる。いつも通りやればいいんだ。いつも通り。
七月二十三日
やはり不安は拭えない。僕らは予防が出来ない。予防するだけの力も時間も僕らにはない。でも今日は小さな希望もある。喜田さんがメガネとコンタクトをとる日が今日だって言っていたな。
七月二十四日
再び基地に五人が揃う。でも今回は五人だけじゃない。
メガネもとい防霊省の人が来ている。
「初めまして。防霊省から来た冷崎だ。そこの喜田のようにメガネと呼んでくれて構いません。」
メガネは敬語とタメ口が混ざった言葉で言う。
「メガネは前リーダーの時のトゥルースのメンバーの一人で、契約する透霊は冷静。オペちゃんと同じで非戦闘要員だよ。」
確かに思い返してみれば見覚えがあるような気がする。
オペちゃんは勿論知っていたみたいだ。
「えっと、言いにくいのですが、、」
鈴が口を開く。
「こいつに遠慮はいらないから言ってやっていいよ。」
喜田さんが背中を押す。
「じゃあ、、どうして一度トゥルースを抜けたのに今になって協力しようとしてくれたんですか?」
確かに少し聞きづらいが、もっともな質問だと思った。
「簡単なことです。前リーダーから頼まれただけのこと。昔のトゥルースは今よりもっと小さかった。私を含めてリーダーと喜田さんとオペちゃん。喜田さんは戦えなくはないけど限度がある。実質的な戦闘要員として戦えたのはリーダーだけ。戦力としてはあまりにも乏しすぎる。だからリーダーは国の力を借りようとした。まあ一筋縄ではいかなかったのですけれど。つまりは前リーダーが未来に託したものは三つあったというわけです。このチームと、国からの協力、そしてあなた。」
そう言って彼は僕を指さした。
分かっていたことだ。僕は前リーダーの期待の延長線上。希望だ。
「分かっているつもりです。」
今の僕にはそう答える他ない。
「ーーー」
冷崎さんはメガネに人差し指を押し当てて数秒黙り込み、そして再び口を開いた。
「本題に入りましょう。こちらはガラスアイを持つものが私を含めて三人。二人は戦闘要員です。そしてその下にガラスアイを持たない諜報員が二十名ほどいます。基本的にはその二十名は各地に散らばって拠点の場所を探してもらっています。」
「戦力として数えれるのは二人。サポートが一人。情報網として数えることができるのが二十人。という認識で間違いないですか?」
「はい。その通りです。」
「そしてその一人が、不安がいなくなって統率の乱れた拠点を発見いたしました。なのでそこをなるべく早く叩きたい。」
負思がいなくなった隊は他の負思の隊に統合される。
その前に取れる情報は取っておきたいのだろう。
「わかりました。僕としてはその案に賛成です。」
「リーダーが賛成なら私に言うことはありません。」
鈴が続く。
「意義なし。」
「意義なし〜」
「意義はないぜ。」
今後の方針が決まった。
その日は作戦や決行日を決めて終わった。
決行日 七月 二十五日 早朝(翌日)
決行メンバー
広隅 狭
信音 鈴
夢見 東馬
防霊省の一人
作戦内容
空間転移で瞬時に敵本部に潜入。東馬が敵の気を引いている内に他三人が本部内を探索。速やかに情報を奪取し帰還する。
また、負思がいた時は撤退に専念し、二人以上いた場合は即作戦失敗とし帰還すること。
前回の参入任務はうまくいかなかったが戦力も増強された今、確実に安定感は増しているはずだ。
それでも手が震える。
それでも明日はやってくる。
七月二十五日 作戦決行日
少し眠くて気だるさが残る早朝。顔を洗いスイッチを入れる。決行前の軽い興奮が頭を起こす。
鏡に映る自分を見る。
救われた命が写っているのを見る。
「行こう。」
まずは学校地下にある僕らの基地に転移する。
「おはよう鈴。」
「おはようございます。リーダー。いつでも行けます。」
基地に行くと最初に鈴が出迎えてくれた。
「あなたがぁ、リーダーぁ、ですねぇ。俺ぇは、防霊省の平だぁ。平穏の透霊とぉ、契約しているぅ。」
負思の不安くらい個性的な人来た。それが僕のファーストインプレッションだった。
右耳に白銀製のピアスを三つ付け、金髪で、瞳の色は透き通ったオレンジ色をしていた。
平穏とは程遠い格好をしている。
「リーダー」
鈴が僕に小さく囁く。
呆気に取られていたのを鈴が引き戻してくれた。
「あ、あぁ、悪い。もう大丈夫だ。作戦はわかっていると思うので割愛する。東馬は今回ヘイトを一番かいやすい。気をつけてくれ。それじゃあ行くよ!」
「「了解」」
「空間転移!」
拠点内部についた。
「東馬!」
「わかってらあ!俺は夢中する!夢に囚われて吼えろ!夢の中の番犬!」
東馬の体が巨大化していく。狼のように全身に毛が生え、凛々しくなる。それはまるで人狼のように。
その体躯は2メートルほどとなり番犬状態では東馬は頭のネジが文字通り取れる。全てが吹っ切れたように、撹乱し続ける。
それは東馬の強みであると同時に弱みでもある。
隠密作戦や奇襲には向かないからだ。だが、撹乱という一点においてだけは、東馬に敵うものは誰もいない。
「頼んだぞ東馬。」
そう言って僕らも動き始める。
不安が拠点としていたのは廃校。故に構造が比較的単純だ。
「すぐ見つかるといいのだが、」
そう願いながら走る。
途中霊神機関の残党にも出会うが鈴が切る。
僕は念のため空間転移の可能域を調べる。
「ここは、、、体育館か?」
転移出来なくはないが少ししにくそうな場所を見つける。
不安がいつもいた場所ならその残滓が残っていてもおかしくはない。残滓が残っているなら転移しにくいのにも説明がつく。
「鈴、平さん、僕は体育館に行ってみます。二人はそのまま校舎をお願いします。」
「了解」
「了解だぁ」
「空間転移!」
体育館に転移する。
だだっ広い体育館には緑の生命が芽吹き始めていた。
そして体育館の中心には机と紙が置かれていた。
「ビンゴか?」
髪をめくって何が書かれているのか確かめようとする。
しかし、そこに書かれていたのは新たな情報でもなく、何が書かれているというわけでもなくただの白紙だった。
「けど、何かが消した跡が、、あるような?」
文字のようなものが読めるような、、、、
「違う!文字が浮かび上がっている!」
読めたのではない、何者かによって読まされたのだ!
でもこんなことが出来るのは!
僕は咄嗟に空間転移の可能域を調べる。
「くそッ!気づくのが遅れた!」
猛スピードで空から近づく転移不可能な領域が二つこちらに近づいてきている。それは勿論のこと、負思が二人近づいている他ない。
そしてその一人は、、、、、、不安、だろう。
先程の文字が浮かび上がるのも反転の力を利用したのだろう。
気づいたら雨も降り出していた。




