第一章 二話 託された者
時は不安との決着前、戦力を分散させるところまで巻き戻る。
「鈴!こいつの相手は俺がする!だから鈴はあの巨大な方を頼む!」
こんな場面で戦力を分散させるのは悪手ではないかと思ったが、リーダーが私に託した。それだけで私には大切で、信じるに値するものだった。
言葉などいらない。目を見るだけで伝わってくるリーダーからの信頼に応えるために。
それならば私がするべきことは一つだ。
信じますよ。そう心の中で唱え私は走り出す。
「でも闇雲に探しただけでは中々見つからないでしょうし。取り敢えずは高台に登ってみましょうか。」
リーダーが稼いでいるこの時間。一分一秒たりとも無駄には出来ない。
そしてここは工業地帯。視界が悪い。
取り敢えず、近くに見えている鉄塔を登って俯瞰して見るのが良いだろう。
「上から見るとだいぶ鉄が吸われていますね。」
キャベツを芋虫が食べ、穴が開くように所々工業地帯から更地になりつつある。
「でも、あそこら一帯だけ無傷のままに見えますね。」
北東方面にサッカーコート数個分くらいの区画だけ殆ど無傷で残っている場所がある。
「本体、またはそれに準ずるものでしょうか。」
鉄塔から降りてそこへ向かおうとする。
幸いここからあまり離れていない。
「やっぱりここら一帯だけは無傷ですね。更地になって弱点である本体が剥き出しになるのを嫌ったのでしょうか。あるいはカモフラージュか。」
ここからは慎重に行かなくてはならない。何せ本体の形状に特徴、大きささえもわからないのだから。
走って探す事数分。段々と焦りが混ざり出す。
「一通り見たつもりですが、ありませんね。あとは、上でしょうか。」
でも上であれは鉄塔に登った時に気づいているはずだ。
「であるならば、下?」
自問自答を繰り返しながら答えを導こうとする。
下に気を配りながら探す事もう数分、やはり見つからない。
「ない。ない。ない。」
焦りが身を蝕んでいく。
ああ、焦りを感じている暇なんてないと言うのに、自分の未熟さに腹が立つ。
どうすれば、リーダーなら、リーダーは、、、、、
違う!
リーダーは、他でもない私に託したのだ。
その私なら、出来るはずだ。
ふと、リーダーの目を思い出す。私を信頼する瞳を思い出す。
先程まであんなにも鋭く蝕んでいた焦りが消えていくのを感じる。
それと比例するように頭もクリアになっていく。
「私は私を信頼する。」
鈴はトゥルースに入ってからまだ日が浅い。普段は落ち着いているように見えて、精神的にはまだまだ未熟だ。それ故、信頼の力を全て引き出すには至らなかった。本来であれば自分に対して真価を発揮する信頼昇華。精神が脆弱で、自分自身に自信がなかった鈴はその力を物に対してでしか行使出来なかった。
それが今、仲間の信頼によって昇華する。
「信頼回帰」
瞳が光る。瞳は白く照り映える。白をベースとした万華鏡のように。
「見える。」
今まで見えなかった物が見える。
星を見る時に肉眼で見るのと望遠鏡で見るのでは全く見え方が異なるように、今までは見えない様々なものの詳細まで見える。
「まるで全てをレントゲンのカルテで見ている気分ですね。」
初めての感覚に少し心が躍る。
「あんなところにあったんですね。」
鉄パイプと鉄パイプの間、目立ちにくいところに本体と思われるものを見つける。
先程のまでの私ならば数時間掛かっても見つけることが出来なかっただろう。
「これが本体?、、、思ったよりも小さいですね。」
そこには正十二面体の形で五十センチほどの物体があった。
「信頼昇華」
念のため刀を強化しとどめを刺そうとする。
ザクッ
予想以上に簡単に刺せた。
なんの抵抗も、逃亡もなく。特に硬度が高いと言った様子もなく。
リソースの殆どを巨体の方へ回していたからなのかはわからないが、簡単に核のような本体が綻んでゆく。
そして巨体も崩れてゆく。
最初から何もなかったかのように。
所々に点在する更地だけを残して。
初めて信頼回帰を使った影響なのか酷く疲れた。でもこれで終わりでないことなど分かっている。
「リーダーの元に行かなくては。」
行きより遅い足取りで向かってゆく。
いつの間にか雨も降り出していた。
「今日天気予報では晴れのはずだったのですが、、」
私がそこに到着する頃にはすべて終わっていて、そこにはボロボロになって倒れるリーダーの姿があった。
「ッ!」
なんとなく予感はしていたことだ。負思との戦闘で無傷でいられるはずがない。
私はリーダーの胸に耳をおいて確かめる。
「よかった。息はある。」
信頼回帰の反動があるとはいえリーダーほどじゃない。
私は彼をおんぶして拠点へ帰ろうとする。
「流石に、疲れましたね。」
一歩が凄く重く感じられる。
「手を貸しましょうか?」
仲間の声ではない。一体誰が?
自然と下にいっていた視線を戻す。
「申し遅れました。私は日本政府、防霊省の物です。」
年は三十路くらいだろうか、眼鏡をかけ、髪はボサボサしており、何よりも目が透き通った青をしている。
間違いない。こいつも見える側だ。
「防霊省、最近秘密裏に出来た省で公に発表はされていません。目的はあなた方と概ね同じです。私達の最終目的は日本の安泰を維持すること。そのために霊神機関が邪魔だから排除したいんです。しかし私達はまだ人員も少なく戦力も殆どない。だから少しでも力が欲しい。」
「だから、私達に協力を促していると?」
「端的に言うとそういうことになるのでしょうけど、其方には拒否権もある。それだけは忘れないでいただきたい。あくまでもこちらが頼む側であることは重々理解しているつもりですから。」
「わかりました。でも私一人の判断では決めれないのでチームで話し合ってから決めようと思います。」
「わかりました。何かあったらここに連絡をください。」
そう言ってその男は私に名刺を差し出した。
何か細工が施されているわけでもないみたいだ。
「では。」
再び重い足を動かす。
「あっ。待ってください。最後に治しておきますよ。」
今別れようとした男が呼び止める。そして私がおぶっているリーダーの肩に手を置く。
「冷静・治癒」
突如としてリーダーの体が蒼の光に包まれる。
「あくまで応急処置ですので、完治ではありませんから。」
そう言い残し私とは反対方向に歩いて行った。
不思議な人だった。感情の変化がわかりにくい人だった。
「うっ、うぅ」
「リーダー!」
「ゃぁ、鈴、おはよう。目を見ればわかるよ。よく頑張ったね。」
少し目頭が熱くなった。ああ、この人は、、。
「取り敢えず、帰ろうか。」
そう言ってリーダーは私に笑いかける。
「はい。」
そして私も笑う。
大きな壁を一つ乗り越えた喜びを噛み締めつつ空を見上げる。
雨もいつの間にか止んでいた。
「晴れましたね。」
「そうだな。」
大丈夫だ。この人と一緒なら私は.......




