第一章 霊神編 開幕
七月十四日
収穫なし
七月十五日
収穫なし
七月十六日
収穫なし
七月十七日
収穫なし
収穫なし、収穫なし、収穫なし、、
また一日、また一日と収穫のない日が続いていく。
七月二十日
負思との接触からもうすぐ一ヶ月。
暦上では初夏から夏へ、桃の季節から西瓜の季節へと移り変わっている。
「やはり負思どころか機関の者さえ見ませんね。」
「そうだね。やっぱり警戒体制を敷いてるんだろうね。でも、霊神機関の目的が透霊を使って擬似的に神を創り出すことである以上、透霊を調律してったら何か掴めるはずさ。」
「分かってはいるのですけれど、やはり焦ってしまいますね。」
もうそろそろ奴らが動き始めてもおかしくない頃合いではある。
「「「「「「「「「イヤ」」」」」」」」」」」
「聞こえた。」
「聞こえましたね。」
透霊が出た。
基本的に僕らは二人一組で行動する。東馬と喜田さん、僕と鈴。東馬と喜田さんは負思の拠点の跡地での調査で不在、拠点にいる戦闘要因は僕と鈴のみ。必然的に僕らが行くしかない。
「久しぶりに少し大きめなのが出たね〜。寝てたのに起こされちゃったよ〜。今敵の詳細な位置とか出すね〜。」
「ありがとうオペちゃん」
パソコンのスクリーンにマップと指し示すピンが映し出される。
位置はここから20キロほど離れた工業地帯。
十分空間転移で飛べる距離だ。
「鈴行ける?」
「もちろんです。」
「空間転移」
透霊の付近には空間転移が出来ないため少し離れた位置からは足で行くしかない。
工業地帯なので鉄のパイプなどの構造物に阻まれ視界は悪い。
しかしそれは大きかった。製鉄所などがミニチュアに見えるくらいにはそれは巨大な体躯をしていた。
無数の長い足が細長い円柱に等間隔についていて、その円柱の先には幾何学的な立体が備えられている。どこぞのSF映画に出てくるような頭部が大きい宇宙船や、T2ファージ(バクテリオファージ)のような見た目をしていた。足の部分だけで10メートルほど、全長は60メートル以上はあるだろう。
でもおかしい。被害が少なすぎる。この巨体なら動くだけでも大きな被害が生じるだろう。なのにその痕跡が一つもない。
「こいつもしかして発生してから動いてないのか?!」
「その可能性も捨てきれませんね。動く気配さえないですし。」
透霊の種類もまだ不確定で動かない以上予測もつけられない。
「もしかしてですけど、もう動いた後っていう可能性はありませんか?この細長い足だと建物の間を踏み締めて被害を出さずに移動くらいは出来るでしょう。」
なるほど。思考の転換というやつか。
「確かに巨大とはいえ質量が軽ければ不可能じゃない。でもこんな所に移動して何になるんだ!?」
この場所にたくさんあるものといえば、、
ポトッ
学校で使うために胸ポケットに入れていたシャープペンシルが落ちた。
「何で落ちたんだろう。」
すぐに拾おうとしたがシャープペンシルを拾うことが出来なかった。
「やっぱり、吸い寄せられてる。」
「え?」
「鉄だよ鈴。あれは鉄を吸収しているのさ。ほら、あそことか。さっきはあったはずのパイプがいくつかなくなってる。」
「もともと沢山あるものなのでわかりづらいですが、確かに減っていっている気がします。」
「透霊だから目的はあるのか無いのかよくわからないけど、早く止めるに越したことはない。」
「そうですね。このままだといずれ世界から鉄が消えてしまいそうで........!!!!」
「鈴も気づいたみたいだね。」
世界から鉄が失われるのは文明が石器時代に戻るだけだ。でも問題は、その鉄の括りがどこまで広いかによる。
生物も鉄の括りと判断されたら、、、、
僕らの血が赤いのはヘモグロビンという鉄分が含まれているからだ。そして他にも生物は体に鉄を内包しているものが多い。
生物を無条件に取り込めるのだとしたらそれは、食物連鎖の真の頂点、現段階の頂点であ人間の一つ上、、
文字通り人間という種とは格が違う。
そんなのまるで、、、、
「あれは、もはや神の領域に昇華しつつあるんんじゃ........」
「!!、そこまで、ですか.....」
「う〜ん。弱点だってあっただろうし、神として見るには不完全すぎるけど、それでも神としての最低限の条件は満たしつつあるから.........」
「神じゃないですか!?」
「神という定義をどう解釈するかによるけど、一般的には人知を超えた存在、絶対的存在を僕らは神と呼んでいる。」
「やっぱり神じゃないですか!?」
「そ、そうだね。このままだと本当に神になってしまいそうだから、それまでに手を打たないと。」
「とりあえず切ってみますか?」
「動く様子がないとはいえ、反撃がないとは限らないから慎重にね。」
「わかりました。 信頼昇華!」
念のため僕の必中も増やさせておく。
「共鳴戦技!不知火!」
瞬く間に斬撃が透霊に届こうとする。
カンッッ!!!!
金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が響いた。
弾かれた。
透霊が僕らの共鳴戦技を弾くほど硬度が高かったわけではない。透霊に届く前に弾かれたのだ。
それも、僕らがついこの前会ったあいつに。
負思の一人。不安を名乗るあいつに。
「またお前か!」
「そう、あせる、なよ、新時代が、幕を、開けようと、してるん、だから。」
新時代?こいつは何を言ってるんだ?!いや、それよりもあいつはどうやって僕らの共鳴戦技を弾いたんだ?あいつの能力は精神操作の系統だと予測していたが......
「その顔、僕の、能力が、気になって、気になって、仕方が、ない、って、顔を、しているね。別に、隠すほどの、ものじゃ、ないん、だけど、ね。」
こいつは相変わらず弱々しく喋る。
「鈴!今回ばかりは撤退出来ない。やるしかない!」
先程の共鳴戦技が効かなかったのを見るに生半可な攻撃では倒せないだろう。
負思は透霊そのものと言っても過言ではないほど透霊の密度が高い。
故に必中を付与できない。
透霊に対しては必中を付与できない。
なのに、、なのになぜあの巨大な透霊に対しては必中を付与できたのだろう。
「鈴!こいつの相手は俺がする!だから鈴はあの巨大な方を頼む!」
「え?」
「あの巨体は多分、本体じゃない。本体または核のようなものがあるはずだ。」
鈴と目が合う。
信じますよ。声には出さなくともそう言っているような気がした。
背中を向け、鈴は走り出す。
「あ、れ?よかった、のかい?戦力、を、分断、させて。それに、あの巨体が、本体、という、可能性だってあるし、仮に、本体じゃ、なかった、としても、本体が、近くに、あるなんて、根拠、ある、のかい?」
「仮に根拠があったとして、敵にそれを易々と話してしまうのは二流だな。」
「それも、そうだ。」
実際のところ根拠はある。
まずあれが本体じゃないのは僕の必中が物語っている。
そして本体も近くにある理由について。
これは単純に辻褄が合うからだ。言ってしまえばあれは神の卵のようなもの。霊神機関が今まで喉から手が出るほど欲しかったものだろう。そんな物を機関が易々と逃すとは思えない。だから負思が派遣されている。
負思が派遣されるところは何処か。何もない所に機関の最高戦力である負思を派遣するほど機関も愚かではないだろう。つまり負思がいる以上そこに何かあるのだ。
そして彼は僕らの共鳴戦技からあの巨体を守った。あの巨体も器としていつかは必要になるのだろう。器と中身、この二つが成長しきって合わさってしまう前に、片方を潰す。それが僕らに残された最善だろう。
まったく、器だけでも厄介と言うのに、、、
「なにか、色々と、考えて、いるみたい、だけど、無駄だよ。」
不安は右手をゆっくりと空へ薙ぎ払った。
何かの技の動作か?!
期待を回避に変えて備えようとする。
「不安・圧力」
「は?」
僕の足が地面から離れる
空に登ってる。いや、落ちていってる。
「回避が出来なかったのか!?」
でもこの能力なら相殺できそうだ。
「空間転移!」
再び地へ足をつく。
「あれ、?、やった、と、おもった、けど、これは、君とは、相性が、悪かった、みたい、だね。じゃあ次は、、」
念のため回避は切らさず走り出す。
このままではやられる一方だ。ならこっちから攻めてやる。
「!」
待て!攻めるべきではない!冷静になるんだ僕!
鈴が本体を潰すまでの時間を稼げればいいんだ。攻める必要なんて全くない。
また、思考をいじられた!
「ああ、アグレッシブに、なって、隙が、できた、ところを、やる、つもりだった、のに、冷静に、なっちゃったな。やはり、二度目、となると、効きづらい、のかな。」
やはり不安がなにかしたのか。
でも今回は思考を弄られたが不安にはなっていない、むしろアグレッシブになっているような。
まるでその時の感情という名のベクトルにそのままマイナスを付けたような。
疑念が確証へと変わっていく。
「お前の透霊の能力、反転だな?」
「正、解。まあ、わかった、ところで、だけどね。不安・循環」
唐突に空が曇り始める。
ポツ、ポツ、ポツ、、、、
ついに耐えきれなくなって天から水が降り注ぐ。
「雨?」
雨は避けない。避けようとしても、避けることが出来ない。単純に避ける場所がないからだ。
「不安・循環」
重ねがけ?!
まずい!
ピキッ、パキッ!
体が凍り始めている。
水蒸気から水へ。水から水蒸気へと反転させたのだろう。
物質量による物理的な必中。これでは避けようがない。
「くそッ!やられた!」
「ゲーム、オーバー」
「空間転移!」
後方へと逃げるが効果は一時的だ。
どうする。鈴もまだ終わらせてないだろうし。
考えている間にも体は凍っていく。
彼ならこんな状況でも簡単に打破出来ただろう。
期待の力を持っと引き出せれば!この力はこんなもんじゃないんだ!彼から受け継いだ期待は!期待はどこまでもまっすぐで!どこまでも強い!!!!
「期待・熱望!!!!」
髪の色が黒から白へ。
瞳の色は紫から黄色へ。
体からは熱を発し、蒸気が僕の身を包む。
ジュゥッ!
氷が溶ける音がする。我が身が燃える音がする。
期待・熱望、それは我が身をも焦がし突き進む。その体が持つ限り。
耳が遠くなる。視界がぼやける。
それでも倒すべき敵だけは捉え続ける。
「ばか、な。きゅうに、、いや、その能力、は!先代、の!」
敵が何か言ってるが聞こえない。どうせ、僕には必要のないことだ。
「必中の熱望!!」
透霊の影響で完全な必中とまではいかないものの、熱望状態により能力が活性している。だから敵までの簡単な軌道くらいまでなら定められる。
「不安・反射!」
バンッ!
僕の拳が塞がれた。まるで強化ガラスを殴った時のように、自分の腕にだけ痛みが返ってくる。
「ひやっと、しました、が、反射、して、しまえば、どうって、ことない!」
「それは、どうかなァ!」
ジュッッ!
「アッ!あつ、い、あつい、あついぃぃぃぃ!!!」
おそらく反射の対象となるのは物理的な攻撃だけだろう。熱に対しては反映されないはずだ。
何故なら熱も反射するというのなら、今度は逆に熱がないことにより凍え死んでしまうからだ。
そして今の僕は我が身をも燃やす炎そのもの。言ってしまえば熱の塊だ。
敵の能力は完封した。
勝鬨だ。
敵を確実に葬る為火力をさらに上げる。
「熱望!」
しかしそれは自分自身も死へと加速することを意味する。
短期決戦だ!これを使ったからには勝たなくては、意味がない!
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
衝動に身を任せ突撃する。
考える能などもう焦がれてしまったのだから。
「くっそッ!不安!反射!!!」
「必中の熱望!!!!!」
バンッッッッ!!!!!!
バキッッ!パキッ、、パリンッ
反射を超えて拳が不安に届く
拳が不安にのめり込む
「グアぁぁああぁ!」
バタッ
不安が、倒れた。
やっと、倒した。
でもまだ、安心、出来ない
次、は、
透霊は、、、、
鈴は、、
行かなく、ちゃ、、、、
行か、、、なく、、、、、、、、、
僕の記憶はそこで途切れている。
バタッ
その場所に二人目が倒れる音がした。




