プロローグ2
駆けつけてくれた少女の名前は「信音 鈴」契約する透霊は「信頼」年齢は十六歳。黒髪が肩くらいまであって、透き通った赤い瞳を持つ信頼する仲間の一人である。ちなみに同じ学校に通っている。クラスは違うが。武器として刀を使う攻撃特化型だ。
「数が増えたところで所詮は有象無象。二人まとめて潰してあげます!」
「回避は任せます!リーダー。」
「おう!」
僕の能力はサポートにおいて真価を発揮する。空間転移を応用した味方へのサポート。敵の攻撃が味方に当たりそうになった時に味方を攻撃の範囲外へ辿り着かせる。
鈴は走り始める。倒すべき敵に向かって。
彼女に鎌を飛ばす弾丸のような攻撃が降り注ぐのを僕が躱わす。
「私は信頼しています。この刀があれを切れることを!信頼昇華!」
鈴の能力は人や物の能力を上昇させることが出来る。
いわゆるバフとかエンチャントとか言われるやつだ。
バシュッッッ!!!!ブシューーーーーーーー!!!!
鈴の刀があいつを切った。
「うぁあ、ああああぁ、、ぐぅうぅ、、、うあああああああああああああ!!!!!」
嫉妬の力が暴走し始めている。無理もない。実質生贄とも呼べる代償を必要とする負の透霊を使役しているのだ。器が壊れ始めればその強すぎる力によって自壊していくだろう。
「くっ!私が醜く足掻くことになるなんて!」
まだ、あいつは諦めていない。
「鈴!まだだ。まだ浅い!」
急所にあたるギリギリのところで体を傾けて外されたのだろう。
「私は、私は嫉妬します。貴方たちを。世界を。全てを。私でさえも!全てを燃やせ嫉妬の業火よ!」
ボワッ、ボワッ、ボワッ
僕と鈴の周りが炎で囲まれていく。
「攻撃が躱されるのなら、躱わすための逃げ道をなくせばいい。炎は嫉妬のように燃え続けます!貴方たちを燃やし尽くすまで!!!!!」
このまま炎が燃え広がればさらに躱わすところがなくなりジリ貧だ。やつが怪我を負っている以上持久戦も視野に入れていたのだが、別の案で行かざるをえない。
「鈴!特攻する。まだギリギリ躱わすスペースが残ってる。だから今のうちにやるんだ!」
「わかりました!」
「させるかァあァ!!!!!!」
先程より大きさも速さも上がった鎌が僕らを細切れにしようと襲いかかる。
それでも、
僕は走り出す。空間転移は回避のみに専念して。
鈴は走り出す。刀にありったけの信頼を乗せて。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」
「うぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」
「僕は期待する!」「私は信頼する!」
「「共霊戦技!」」
信頼された刀に僕の必中を付与する。不可避の一閃。
「「不知火!!!」」
今度こそ急所を切った。僕らの周りを囲っていた炎も消えた。今度こそ。終わったのだ。
「うぁ、ぁぁ、」
まだ微かに意識が残っているようだ。
「ぁぁ、や、っぱり、、羨まし、かった、なぁ。、、嫉妬、しちゃう、、くら、い、に、は、、、、」
そう残して彼女は光となって消えた。身も骨も残さず、この世への未練だけを残して。
「終わった、のですね。」
「そうだな。」
時は四年前に遡る。僕は霊神機関の実験体の一人だった。その時はまだ霊神機関も負の透霊と契約した際の代償を肩代わりさせる術を持っていなかった。代償転換計画。実験が成功しても失敗しても、どちらにしろ実験体の僕らに待つのは死のみだった。ただ死を待つだけの生活。生きることを諦めかけていた僕らの元に一筋の光が差し込んだ。そうあの時、、僕は決めたんだ。透霊機関を潰すことを。それが僕の悲願であると。
「ダー?、リーダー!」
「わっ!びっくりした。何かあったのか鈴?」
「何かあったの?ではありません。急にボーとしてどうかなされたのですか?」
「ごめん、少し昔のことを思い出していただけだよ。」
「それならいいのですが。まぁ、とりあえずは皆の元へ戻りましょう。新しい報告もあるそうですよ。」
「そうだな。」
僕らの拠点は学校の地下にある。仲間の能力で隠蔽しているため普通の人には見つからないようにできている。中は薄暗く広さは学校の教室ほど。中心に大きな長方形型の机と椅子があり、壁には三つの大きなモニターとパソコンが置かれている。
「ただいまー」
「ただいま戻りました。」
今拠点にいるのは僕らを合わせて三人だけか。
「おつおつ〜。みんなももう少ししたら帰ってくるはずだよぉ〜」
丸メガネに白衣をきた少女。髪は背中付近まで伸びていて実は結構美人だったりする。年齢十七歳。髪と同じで薄い紫がかった透明な瞳を持つ。
彼女の名前は「知泉 小兵」チームのみんなはオペちゃんって呼んでいる。
契約する透霊は「関心」。能力は把握したいと思ったことを把握する能力。ただし、なんでも知れるわけではない。現実の時間で三時間以内に調べたり知ることの出来る情報ならば一瞬で知ることが出来るといった具合だ。例えば数桁かける数桁の掛け算くらいなら三時間以内に調べることが十分可能なためすぐ知ることが出来る。しかしスーパーコンピュータでも数時間掛かるような計算などはその定理に当てはまらないため知ることが出来ない。
直接的な戦闘能力を持たないため、基本的には拠点にいて僕らの戦闘などのサポートおよびオペレーターとして活動している。
「オペちゃんこそお疲れ様。なんか新しい情報が入ってるって聞いたんだけど。」
「うん。今日の会議の時説明するよぉ〜」
今日の会議は実があるものになりそうだ。
「ただいま。」
「帰ったぜ。」
二人が帰ってきたようだ。
少女と少年。少女の方の名前は「喜田由美」契約する透霊は「喜び」。黄色の透き通った瞳、同じく銀杏のように輝く髪が彼女のチャームポイントである。ポニーテールで人当たりも凄く良い。年齢十八歳。チームの最年長だ。
少年の方の名前は「夢見 東馬」年齢は十七歳。「夢中」の透霊と契約している。今は茶色の透き通った瞳を持ち、いつも茶髪がトゲトゲしている。少し素行が悪いところもあるが、仲間思いだったりする。
「おかえり」
「おつおつ〜」
「おかえりなさい」
五人全員揃ったな。最初は僕とオペちゃん、喜田さんしかいなかった。確実にチームは強く、そして前へ進んでいる。
「じゃあ早速だけど今日の会議始めからちゃうねぇ〜。まずリーダーと鈴ちゃんが霊神機関と接触し、撃破したことから。」オペちゃんが言う。
「確かに撃破まで成功したけど、おそらく機関の中でも弱い部類、下級組員の一人だったと思う。」
「それは私も思いました。嫉妬の力を全開放するのもあまり得意ではなさそうでしたし、何よりも弱すぎました。」
鈴も僕と同じ意見のようだ。もしあの場にいたのが中級または上級組員だったら僕らはただじゃ済まなかっただろう。あるいは命を落とす可能性さえある。
「下級組員か〜、じゃあ機関の詳しい説明さえも受けてなさそうだね。じゃあ次は遠征に行ってた二人からの新情報について話そぉ〜」
「本題から言うぜ。機関の分隊の拠点を見つけた。」
東馬が確かにそう言った。
「なっ!?」
霊神機関にはボスの他に機関を率いる者が四人いる。「負思」と呼ばれるそいつらは霊神機関のボス直属の構成員で、トゥルースの前リーダーはそいつらによって殺された。そして負思には各々分隊を統べる権利が与えられている。
分隊の拠点があるということはそこに負思の一人がいるということでもある。
「それが本当なら、霊神機関を打破するための大きな一歩だ。」
ここまで霊神機関に直結する情報は久しぶりだ。
「詳細を教えてください。」
鈴が僕の心を代弁してくれた。
「隣町の山奥の廃墟となりつつある神社に拠点を構えていたよ。」
喜田さんと東馬が言うから間違いないだろう。
「今座標をモニターに映すね〜」
こんなところに神社なんてあったんだな。
「ところでリーダー。どうする。全員で正面から殴り込むか?」
場合によってはそれもありだが、、
「いや、奇襲を仕掛ける。正面から殴り込んだところで数と地の有利はむこうにある。時間が掛かればかかるほど不利になるのはこっちだ。だから速やかに頭を潰す。」
「まあ、それが安牌だろうね。」
喜田さんが言う。
「行くメンバーはどうしましょう?」
「まだ考えている途中だけど、何かあった時に空間転移で逃走及び戦闘のサポートとして僕、アタッカー要因として鈴までは決めてるんだけど。それで鈴はよかった?」
「構いません。」
「あと二人のうちのどちらか来てくれない?」
「じゃあ俺が、」
「今回は私が行くよ。」
「待ってくれ、俺が行きますよ、喜田さん。」
「でも今回の特攻においてあなたの夢中の能力は不利だよ。」
「う、た、確かに。仕方ないからオペと留守番することに、する。」
基本的には非戦闘要因であるオペちゃんにはいた戦闘が起こってもいいように戦闘要因である他の四人が常に近くにいる。拠点が学校の下につくったのは、平日忙しい時でも学校の生徒である僕や鈴が近くにいれるためである。もっとトゥルースの人員が多ければ拠点を移すこともできるのだが。
「じゃあ今回のチームは決まったね。」
チームメンバー
広隅 狭
契約する透霊 「期待」
信音 鈴
契約する透霊 「信頼」
喜田 由美
契約する透霊 「喜び」
作戦の流れ
1、空間転移で山の麓まで行く。
2、負思の存在を確認
存在確認次第特攻作戦へ移る。
負思の存在が確認されなかった場合、直ちに逃走作戦へ移る。
3、特攻作戦
作戦開始から三十分以上の作戦続行は認められない。
門番または見張りとの前哨戦が見込まれるが迅速に決着をつけ拠点内部に入る。
なるべく戦闘は避け、負思の元へ。
4、逃走作戦
負思の存在が確認されなかった場合、及び特攻作戦失敗となった際実行する。
「以上が今回の作戦の流れだ。質問とかあるかい?」
「では私から一つ。」
そう言って鈴が手を挙げた
「負思の存在はどうやって確認するのですか?」
「そういえば鈴は大規模の作戦に参加するのは初めてだったね。僕の能力は辿り着くことっていうのは知ってると思うけど、やはり限度がある。正確に辿り着ける範囲は手のひらが届く範囲くらいだし、それ以上だとどうしても誤差が出てしまう。それに辿り着けない場所だってある。僕の能力の起源は期待だからね。期待しても概念的に不可能な場所とかには行けない。天国とか地獄とかね。そして透霊の近くとか。あれらは
僕ら人間が把握できる枠を超えている。もはや一つの現象だ。だから期待しても透霊の近くには転移できない。」
「負思もそれにあたると?」
「正確には負思の契約している透霊のせいだね。僕らは能力を使う時だけ透霊から力を貸してもらっているが、向こうはそれが出来ない。なにしろ完全に制御出来ているわけではないからね。だから常に透霊の力が負思の周りを漂っている。負思の契約する透霊は強力、だからこそ僕が絶対に空間転移の出来ない場所となる。その場所が拠点の中にあれば負思がいるってことだ。」
「なるほど。よく考えられてますね。」
「まあ入れ知恵なんだけどね。」
「作戦決行は明後日の夜。それまで各々準備を進めるように。それじゃあ解散。」
その夜。久しぶりに夢を見た。僕たちがトゥルースの前リーダーに助けられて、モルモットから人になった日のことを。そして前リーダーが死んだ時のことを。
明後日の夜なんてものはすぐに訪れる。
決行の時だ。
「行くよ。みんな。」
「「うん。」」
「空間転移」
タイムリミットまでの秒針が進み始めた。
「敵の位置は、、、」
そう言って僕は空間転移出来ない場所を探す。
それは割とすぐ見つかった。
「いたぞ。拠点に。特攻作戦に移る」
「「了か、」」
「いや、その必要は、ない」
そう言ってやってきた男の元へはどうやっても辿り着けない。そう瞬時に判断できてしまうほど、、いや説明は不要だろう。
でも確かに拠点に負思がいたはず。それなのになぜ。
もしかしてこの場に負思は、
「負思、は、この場に、二人、いるんだよ。」
敵であるそいつは軽々と答えを口にした。
「自己紹介、しよう。僕は、不安。負思の、一人。今、拠点に、いる負思、には、手を、出させない、だから、安心、して、いいよ。」
第一印象は弱々しい男だと感じた。色白で髪は緑っぽい。何処かで見たことのあるような気がするが気のせいだろう。瞳は透き通っているが黒く染まっている。
まさか二人目の負思がいるとは。この場合のプランは考えていなかったが、イレギュラーが発生した以上、撤退がベストだろう。撤退がベスト。だが、次分隊及び負思の情報が入るのはいつになるのだろうか。これは大きな機会だ。この機会を逃したくないな。失敗したくないな。だって「不安」だから。
「倒すべき相手がいるんだ。戦おう!」
「え?リーダー?これは明らかにイレギュラーです。撤退するべきです。」
「でも鈴。この作戦を成功させたら、僕らは霊神機関を打破する大きな一歩となる!そんな大きなチャンスを失うなんて、不安で不安で。不安じゃないか!!!!!」
「私の出番だね。あなたは喜ぶ。過ちを正せたことを。再起の喜び」
喜田 由美の能力。「喜び」
人が喜ぶ時はいつだろうか。何か嬉しいことがあった時、成功した時、過ちを正せた時。喜ぶことには必ずそれまでの過程が存在する。しかし過程がどうであれそれが良い結果ならばそれは喜びに帰結する。喜田 由美の能力はその過程を省略し、対象者の感情を強制的喜びを基準として変える。洗脳などによって仲間がピンチに陥った時のカバーはもちろんのこと、奇襲作戦において敵の警戒を解くなどして作戦を優位に進めることが出来る。
「うぅ、あ!僕は!何を考えて、、ありがとう喜田さん。」
「いいってことよ。」
でもいつだ?いつ能力を使われた?でもだめだ。深く考えすぎるな!今は撤退することだけ考えろ!
「撤退だ!鈴!喜田さん!」
「「了解」」
「空間転移!」
「ああ、行っちゃった、か。つまん、ないな。あと、もう少し、で、掌握、できそう、だった、のに。まあ、いいや。どうせ、次、が、あるからね。」
不気味に佇む男の姿がそこにはあった。
「はぁ、はぁ」
何とか拠点に戻ってきたものの皆浮かばない顔をしていた。
「あんなに簡単に、、喜田さんがいなければあの時全滅していてもおかしくなかった。」
「そうですね。負思の力を過小評価しすぎていました。」
「そう重く受け止めすぎちゃだめだよ。少なくとも負思の一人の契約する透霊と顔が割れただけでも大きな進歩だよ。」
喜田さんだけは僕らをフォローする。
「おかえり〜」
「災難だったな」
留守をしていた二人が出迎える。
「今日はもう遅いから会議は明日にしよ〜」
「そうだね。今日はもう遅い。」
、、、、焦るな。今はまだその時じゃない。
大丈夫。確実に近づいてはいる。
皆と解散してから家で一人眠りにつこうとする。疲れていたからか案外早く眠りにつくことが出来た。
朝六時に起きる
朝食を食べて学校へ行く
放課後になる
僕らは集う
ここまでがいつもの流れ。今日も同じように進んでいく。
ガチャ
拠点の扉を開ける
「おつおつ〜昨日ぶりだね〜みんな揃ってるからいつでも始められるよ〜」
「お疲れ様、オペちゃん。そうだね。いつもより早いけど今日の会議を始めよう。」
「やはりまずは昨日の件についてですね。不安と名乗った負思の一人。能力は恐らく精神支配だと思われます。」
「そうだね。僕も鈴の言った通り精神支配の能力だと思うよ。いつ使われたのかは分からなかったけど。」
「何かをする素振りも見なかったね。」
いつも物事を俯瞰している喜田さんが言うのだから間違いないだろう。
「たぶん、負思の拠点の位置も変えるだろうな。」
「振り出しに戻ってしまいましたね。」
「まあ〜でも収穫がゼロってわけじゃないしさぁ〜」
「そうだねオペちゃんの言う通りだ。僕らはいつも通りするだけさ。」
「そうですね。それが最善です。」
「じゃあまず今後の僕らの指針を決めよう。最終目的は変わらず霊神機関の打破。そのための過程として、負思の四人の撃破とボスの情報収集。だからこれから少しの間は情報収集に徹することとなりそうだね。」
「異論はありません。」
「右に同じ〜」
「同じく」
「おう」
鈴に続きオペちゃん、喜田さん、東馬が賛同する。
振り出しに戻ったらまた進めば良いのだ。そこまで。そしてその先まで。霊神機関を潰すまで。何度でも。何度でもだ。




