第一章 四話 戦戦戦
僕が存在を負思の存在を確認して十秒もしないうちに校庭から爆発音のようなものが聞こえた。
外は僕らにとって分が悪い。
雨が降っているからだ。
不安による反転の影響だろうが、それは氷による攻撃がされることも意味する。
熱望状態になれば防げるとはいえ他のみんなは無理だ。
奇襲ができない。
戦力が少ない僕らにとってそれは致命的だった。
不安は僕が相手するのがベストなんだろうが、
「そうは問屋がおろさないわな。」
体育館の壁をぶち破ってタンクトップを着た一人の大男が入ってきた。
隣にちゃんと扉があるというのに。
負思の一人であることに間違いはない。
至近距離で改めて確認してわかった。
身長は2メートルを超えているろう。
もしかすると東馬の番犬の時よりも大きいかもしてない。
そして腕が異様に肥大している。
あの手に捕まったらひとたまりもないだろう。
鬼の面を被っていて顔はよくわからないが巨大な体躯と合わさり威圧感がある。
「ガガガガガが!」
発狂しながらそいつは突進してきた。
「空間転移!」
負思と入れ替わりになるように、突進してくる負思の後ろをとった。
「地面が、抉られてる。」
負思が通ったところが何かで削ったかのように抉れていた。
こいつは恐らく近距離パワー型だろう。
尚更僕とは相性が悪い。
僕のまともな攻撃手段は必中の期待くらいしかない。
しかも僕はパワー型と呼ぶには非力すぎる。技を叩き込んだところで力負けするのは目に見えている。
「鈴達との合流が優先だな。」
合流さえしてしまえば、撤退でもなんでもやりようはある。
「空間転移」
体育館から再び校舎に戻った。
東馬の咆哮が聞こえる方へ走る。
「鈴!東馬!無事か!あ、あと平さんも。」
鈴達の姿を視認する。
まず目についたのは氷漬けになっていた東馬の姿だった。
下手に動くと体が決壊するからだろうが大人しくしている。鈴と平さんは半径二メートルほどの光の円に囲まれていた。
そしてその先にやはりというべきか不安がいた。
「おひさ、しぶり、ですね。先日、は、やって、くれまし、たね。狂気に、足止め、を、まかせた、はず、でしたが、あなたなら、来ると、思って、ましたよ。」
あのデカブツは狂気だったのかと思いつつ作戦を練る。
本来なら東馬と狂気をぶつける予定だったのだが東馬の氷が溶けるまでは無理そうだ。
鈴達とが無事なのは平さんの能力によるものだろう。
「不安。」
やることは前回と変わらない。
敵の息の根を止めること。ただ、それだけ。
「鈴、平さん。もう一人の負思。狂気の足止めを頼める?」
「わかりました。」
「あくまでぇ、あしどめぇとぉ、いうならぁ」
「恐らく狂気は体育館からこちらへ向かっている最中だ。だから体育館までの経路にいるはずだ。」
「わかりました。戦線を離脱します。」
そう言って二人は走り出した。
そしてあの日と同じ構図になった。
雨が窓に触れ、滴る。
「期待・熱望!」
戦いの火蓋はきられた。
僕は走り出す。熱望は長くは持たない。短期決戦で終わらせる。
「不安・循環」
不安はしゃがみ込み手を床につける。
氷による攻撃は僕には効かない。このまま突っ込んで一撃を喰らわせてやる。
「!」
走り出していたはずの僕の足元が動かない。
「何を?!」
足元を見るとぬかるんでいた。正確には足元のコンクリートを固まる前に反転させたのだろう。
「不安・循環」
僕の足元が再び固まっていく。
膝くらいまでが完全に固定されてしまった。
「今度は、油断も、慢心も、敗北も、しない。君には、ここで、死んで、もらう。今度は、何も、残させや、しない。」
固定されたとしても僕には転移がある。
「空間転移!」
再び距離を取るが安心してはいけない。地面がやつの支配下である以上距離を取るだけでは無意味だ。
「不安・循環」
さらに距離を離される。このままだとジリ貧だ。
外はあいつの支配域だと思って避けてきたが室内の方が危険だったとは、盲点だった。
「不安・循環」
室内の水蒸気を水に変えてさらに氷にまで反転させる。
そしてそれを足元で行うことでぬかるんだコンクリートの床も氷の橋により無効化していく。
「厄介だな。」
こちらはぬかるんだ足場を強制され、向こうはそれを無効化できる。
一方的に不利なフィールドで戦っているようなものだ。
だったら逆にこっち側に引き摺り込めばいい。
「空間転移!」
不安に向かって距離を詰める。
「熱で、頭が、回って、ないのかい?そこ、は、さっき、反転させて、ぬかるんでる、のに、まあ、いいや。不安・循環」
再び僕の足元が固まる。これでいい。このままやつがここまで来れば……
「ああ、もし、かして、コンクリートが、固まる、時の、水和熱で、僕の、足元を、溶かそう、と、してた、のかい?」
「こいつッ」
なるほど。こいつなかなか頭がきれる。僕の付け焼き刃の作戦じゃあ通用しない。
水和熱で足元を溶かし、虚をついたところを仕掛けるつもりだったのだが。
「熱望・解除」
「?!、解除?、なに、を?」
ならばもう一つの手だ。
それにこれ以上熱望していては体が持たなかっただろう。
「熱望、が、切れたの、なら!不安・循環」
再び不安は水蒸気を水に、水を氷へと反転させる。
屋内の場合、熱望状態の時は水蒸気から水へと反転させられた次の瞬間には僕の熱気によって蒸発し、また水から水蒸気へと変化していた。故に水から氷のフェーズに行くことはなかった。仮にいったとしてもやはり僕の熱気によって水へと融解し蒸発していった。
屋外の場合は、空中の僕の熱気が届かないところで氷までのフェーズを経るため氷の雨を降らすことがやつにはできた。それでもやはり最終的には熱気によって融解していた。
要するに屋内において僕に氷の攻撃をしようとすると、必然的に僕の周りの水蒸気を反転させて氷を生成しなければならなかった。そしてその過程を熱望が邪魔をするなりして防いでいたということである。
「不安・循環」
水蒸気から水へと反転させている。
そして、このタイミング。熱望により蒸発もせず、水の状態のままでかつ不安が不安・循環を発動させようとしているこのタイミング。これを待っていた。
「不安・循か」
「空間転移・乖!!!」
それはいつもの空間転移の応用。普段は僕を含めた鈴達も一緒に転移させている。それを応用すれば僕だけを除いて周りのものを飛ばす技へと昇華する。
負思相手だから必中ではないが方向くらいなら視覚で合わせられる。
僕の周りに浮かんでいる水玉を飛ばす。
不安が反転させるのと殆ど同時に。
結果。不安へ無数の氷の斬撃が降り注ぐ。
不安に左右の方に二つ、臍の上に一つ、右足に一つの穴が空いた。
「ああ、ああ、ああああ、また、またか、、」
よく見ると少しづつ傷が再生している。これも不安の反転の能力によるものだろう。
まったく、つくづく理不尽な能力だと思う。それこそほとんどの相手は東馬のように何もできず氷漬けにされて終わりだろう。
だからこそこれで終わりにする。
僕は刀を持っているわけでもなければ、処刑人でさえない。
だからこれが一番いい方法なのかはわからない。
「ーーーーー」
僕は何も言わず、不安の首を折った。
今度こそ心音が止まるのを確認した。




