9 綺麗なお姉さんは、いつもお偉いさんなのはテンプレですか...?
「えっと...」
どうしよう...どう話そうか
貴方のその綺麗なお姿に引き寄せられてしまいました!
なんて言ったら殴られるに違いない
...間違いなく空を飛ぶ
「かなり大きな音がしたが、何があったんですか?」
考えてる内に、俺の背後から声がした
振り返り見たその姿は、いかにも騎士です、という風貌な白い甲冑姿の男二人だった
意外だったのは、腰に剣を納める鞘が無かった事か
だんだんと混乱してきた状況に、どうするか悩んでしまう
「迷子の子供が不良どもに連れ去られそうになってたから、少し捻ってやっただけさ、だろ?」
お姉さんはそう言って、俺を見てきた
「は、はい...お姉さんには助けて頂きました」
俺はお姉さんが出してくれた助け舟に遠慮なく乗らせて貰うことにした
騎士...この世界なら警備兵が正解か、彼らは俺を一瞥して、お姉さんの方を見る
「そうですか、ですが王女様、貴方が直々に手を下す事も無かったでしょう...貴方なら逃げれるはずですが...」
ん?
「一秒でも早く助ければさらにもう一人助けれる人は増える、だろ?シリウス隊長?それに私が王女って事はあまり知られてない事実で、その方がいい事も知ってるだろう?」
お姉さんは俺の頭に手置く
視線の動きからして目の前にいるのが隊長らしい
だけど、聞き捨てない事を耳にした
お姉さんが、王女...?
「...別にこのような子供に内情を知られても困る事にならないでしょうが、以後口を慎みます」
「ここはもういいから他行きな、私が出てきた意味が無いだろう?」
そう言うと隊長とその付き添いは一礼をして踵返した
一瞬、その付き添いが振りかえって俺を見るが、すぐに先に進む隊長の後を追った
「あんた、以外と演技上手じゃないか」
「...お姉さんほどじゃありませんよ」
「ちょっとついてきな」
そう言ってお姉さんは反転して歩きだした
「ど...どこ行くんですか?ていうか王女様って...」
追いかけていた時よりも少し遅いペースで歩いてくれるお姉さんに聞く
「王族、力皇レオノール·アルデバラン、あたしの本職と本名さ、シルヴァから聞いてるだろ?」
次々と俺の疑問を増やしていく答え
「...分かってたんですか?僕が先生の教え子だって」
「今この国で白い髪持ち王都圏内にいるようなやつは、マリアとルカ·ハイリッヒ...シルヴァの教え子しかいないって分かったのさ」
「そうなんですか?」
「この国は下民の勝手な入国を嫌う、だから外側の門にまで兵士が置いてあるんだけどね」
「...王女様は先生の師匠で間違い無いんですよね?」
「そうだ...王女様は止めてくれ、胸糞が悪い」
「では、師匠、と呼ばせて貰っていいですか?」
ふとお姉さんは立ち止まる
「シルヴァがあたしを訪ねる理由はそれかい、王女様以外なら、好きに呼ぶといい...ちょいきな」
師匠は立ち止まる
俺は少し周りを見てから、言われた通り近づいた
「お前、空を飛んでみるか?」
師匠は少し前に言ったセリフを優しい雰囲気で繰り返し
俺をお姫様だっこして
「え」
...飛んだ
正確には、跳んだ
俺は、今、空に、浮いている
「...うぇぇぇぇぇぇぇ!?」
疑問系で聞いた筈なのに拒否権は無いらしい
下を見れば、街が、家が、人が、小さくなっていた
「ななななななにしてるんですかぁ!?」
「家に帰るための一番の近道さ」
師匠はそう言って、空中を蹴る
...物凄いスピードで飛び出した師匠と俺
「...ハハッ」
師匠が、笑っていた
その顔は、まるで子供と遊んでいる親のような...俺は大好きな祖父と遊んだ子供の頃を思い出す
だが、今まったく俺は楽しくない...!
「―――...―――?」
師匠がこちらを見て何か喋っている
正直まったく聞こえないので口の動きでしか判断できないが
それだけでも俺を驚かせるには十分だった
真っ直ぐ飛んでた師匠は急に方向転換した
向かう先は地面
死んだ...!
白目を向いて半分泣いていた俺
「着いたぞ」
師匠の体が地面に落ちる前に、風が発生する
風は師匠の体を受け止め、減速させる
体勢を変え足を下にした師匠は
大きな暴風を発生させ、着地する
木々を揺らし、砂ぼこりを立て、一軒だけ建っていた家の窓を揺るがす
見たような光景、場所
...師匠の家だ
そう理解して、俺は意識を手放した
>>>
「...帰ってきたんじゃないか?」
「それとね!それと...あれ、お母さん帰ってきたのかな?」
どうやらエレナもお馴染みらしい
師匠の、力皇の帰還の気配を感じて
俺はエレナとの談笑(主にシルヴァの旅物語)を中断し立ち上がり、外へ向かう
後ろからエレナも着いてきてるのを確認して、玄関の扉を開け外に出る
瞬間、突風が襲う
俺は目を細めて手をかざし、その突風の発生源を見る
...案の定そこには、ゆっくりと風にのって降下する力皇がいた
腕に、何かを抱えていた
「ルカ...」
すぐに駆け寄ると、ルカが放り投げられた
俺は落ちてきたルカを危なげに抱え込む
「ただいま」
笑顔で帰還の挨拶を言う師匠に
「...お帰りなさい、お久しぶりです師匠」
俺は少し微笑んで労いの言葉を掛ける、それと一緒に、15年ぶりの再開の挨拶をする
「あぁ、久しぶりだな、シルヴァ。元気そうで安心したぞ」
笑顔崩さずに俺の頭を撫でる師匠
「止めてください、俺はもう子供じゃないんですから」
俺は苦笑いをする
「そうか、そうかぁ、もう大人かぁ...初めて会ったのもそいつくらいの時だったな、やはり時が流れるのは早いなぁ...」
師匠は感傷に浸っている、こう見えても実は師匠は激情派なのだ
「もう俺は30台ですからね...そいつとは、ルカの事ですよね、別にこんなにちっちゃく無かったように記憶してますが」
「さっき飛んだ時、昔のお前を同じように無理やり連れ去ってきたのを思い出してなぁ、まったく同じ絶叫の仕方をしていたぞ、失禁しないだけこいつのほうが強かだがな」
師匠は笑いながら、昔の思い出を回想する
俺にとっては思いだしたくない黒歴史でもあったので苦笑するしか出来なかった
「お母さん、お帰りなさい!」
会話が1拍空いたのを確認してエレナが輪に入ってくる
「おう、ただいま、これ買い物籠だろ?持ってな」
エレナも同様に頭を撫でて、ルカが持っていった籠を手渡す
「うん、分かったわ」
エレナは頷いて、籠を持つ
「シルヴァ、そいつも一緒に連れて居間へこい、本題を聞こうじゃないか?」
そうだ、師匠に用事があって訪ねたのだ、と言っても手紙で大体の内容は伝えてある
俺は頷いた
師匠は早い足取りで家の中へ戻る、それについていく、ルカをお姫様抱っこする俺と籠を持つエレナ
途中エレナが、「あっ」と声を出して立ち止まった
買い物籠の中身には、赤い果実しか入っていなかった
>>>
「ふぅ...さて、話を聞こうじゃないか」
どかっとソファに勢いよく腰かけ足を組む師匠
俺は向き合ってソファに座り、気絶しているルカは俺の膝に頭を乗せて寝かせてある
エレナはその様子を羨ましげに見て、お茶の用意をしている
お茶はさっきまで飲んでいて飲む気にはなれんのだが、一杯程度は貰おう
改めて俺は意識を師匠に向ける
「先日送った手紙にも書いていますが、改めて、ルカに武術の修行をお願いします」
「却下する」
即答だった
俺は思わず顔をしかめる
「...理由を聞いても宜しいでしょうか?」
「そいつは武術には向いていないからな」
「確かにルカは身体面では少し弱い部分が見られます、そこを直すだけでもいいので...」
「そいつには魔術を徹底的に教えるべきだとあたしは思うね」
尚強い口調で反論を寄せ付けない師匠
「...魔術師を目指すにしろ体力面で劣る魔術師は」
「お前はこいつを兵士にでもしたいのか?」
途端、俺は黙りこんでしまう
「お前はこいつに何を望んでいるんだい?向かないことには向かわせず、得意な事をやらせる、適材適所が大切と言ったはずだよなぁ?」
「強くなるためには、先ず全てを学ばなければいけないと教えてくれたのは師匠でしょう」
「それはこいつには適用しない、それにお前は誰の意思で強くさせようとしてるのだ?」
「家庭教師としての役目を果たすには教え子を強くするのが普通だと思いますが...才能の有無で決められる道は師匠の嫌いな所でしょう?」
「強くするだけなら家庭教師などいらないんだよ、それに【私の勘】が言っている、こいつはこいつの才能を鍛えてやるべきだと思うね」
「...師匠はルカの才能にお気づきで?」
「あぁ、キレイさっぱり、お前の知ってる所から、知らない所まで」
知らない所よりも、知ってる所のほうを強く強調していた気がする
「...それを踏まえての判断なら、ルカはとてつもなく強い魔術師になるのでしょう」
師匠の勘については何も疑っていない、俺自信も疑いようのないほど師匠の勘は当たると知っているからだ
「お前は強い弱いの判断から離れろ、何を想ってベルモンドはお前にそいつを預けたと思っているだい?」
俺は黙った、何も返せなかった
だが師匠は続ける
「いずれ世間からのけもの邪魔物にされるであろうそいつを、少しでも胸張って外に出してやりたいから...髪が白いだけで人生を棒にふってほしく無いから、皆に実力で認めてもらえるような力をつけてほしくてお前を呼んだんだよ、だがお前は何を目指しているだい?お前の強さはどこまでを目指している?お前はそいつの何を知って何を想って強くしたいと言っているんだ、一回頭を冷やしな」
俺は、俯いて、黙ったまま聞いていた
俺はルカを俺のように強くさせようとしたんだ
でもそれでは...俺と同じ道しか歩めない
家庭教師は、人生を決めさせる役職じゃない、出来ることを増やしてあげる役職なのだ
「...申し訳ありません、師匠」
俺は、自らの勘違いを謝罪した
「お前はなぜ叱られた時にすぐに謝る、強気で頑固なお前はどこへいったのかねぇ」
たった今言葉攻めにあって敗北したばっかりです、と言いたいとこだが言うべきでは無いだろうと判断した
「お前も起きろ、寝たふりはバレている」
「あだ...バレていたんだですか」
膝で眠っていたはずのルカは、師匠の手刀によって起こされた
実は話をしている間に目覚めたが、起きるタイミングが掴めないが故に寝たふりをしていたらしい
「...僕は別に人生を決めつけられた感覚は無いですよ、それにまだ僕5歳です」
「ハハッ、本当に演技が上手いなぁ!」
師匠は高笑いする
演技...?なんの事だと思った
「僕は先生とあってまだ1ヶ月です、先生の事は何にも知りません、でも尊敬します」
ルカは起き上がってソファにちょこんと座り直した
「でも、僕にもしたい事はあります、それくらいのわがままを聞いて貰えるなら、聞いて欲しかったです」
少し意外だった、ルカがわがままを言うやつとは思っていなかった
わがままを受け入れる準備をしていなかった訳ではないが
「...俺は最初にお前の要望通りにするつもりではいたが?」
「...そうでしたっけ?」
ルカはきょとんと首を傾げる
「それで?今一度言ってみな、お前のしたいことをね」
師匠はルカを見つめる
「僕は、魔法をもっと知りたいです、この憧れた世界で出会った魅力的なこの魔法というスキルを、もっと使いたいです」
俺は驚く、まるでこの世界とは別の世界から来たと言っているような話し方にだ
エレナは...いない
「それが本音か」
俺がエレナがいない事に安堵の息をつく間にも会話は続けられた
師匠は睨む
「はい」
ルカは頷く
「...良いだろう、私が推薦で国立魔術師学園に入学させてやる」
「師匠!?」
俺は思わず立ち上がるが、思いとどまって半腰になる
師匠が俺を手で遮る、俺は渋々座り直した
「ただし、入学は規定で7歳からになっている、残り2年、お前はここで勉強しろ」
師匠から放たれたその言葉、そして今気づいたが...師匠はルカの意味ありげな言葉に疑問も意外性も持っていなかった
「...いいな?」
一瞬視線が交差する
ルカは頭を下げ
「...はい」
承諾の意を唱えた
話についていけないのは、どうやら俺だけらしい
だが、頭を振り、冷静になる
「ですが師匠、話が突飛すぎます!それこそ人生を決めつけるのではないですか?」
「こいつが魔法を学びたいと言ったんだ、それなら望むように、全力で支援してやるのが、師匠の務めってもんだろ?」
俺はルカと師匠を交互に見る
「...分かりました、ではもう一つ聞かせてください...師匠はルカの正体を」
「会った時にね、分かったのさ」
俺が質問を言い切る前に即答した
「...愚問でしたね、やはりさすがは師匠です」
俺は納得した、力を抜いてソファーに座る
後から聞いた話では、ルカ自身も師匠に自分が転生者である事がバレているのは知ってたようだ
飛んでいる時に教えてもらった、らしい
「質問はいいだろ?じゃぁ次はあたしから質問させてもらうよ」
師匠は行動も早ければ会話も早い、師匠と話すときは息をつく暇も無い
「お前がこいつの家庭教師になってから1ヶ月、その教育風景、セバスチャンから聞かせて貰ったよ。私の見立てなら、効率が悪い、30点」
さっきとは打って変わったギャップに思わず俺は戸惑ってしまう
セバスチャンとはハイリッヒ家で俺を出迎えてくれた執事の名前だ、家名までは聞いていなかったが
「...どういう事でしょうか」
「何故日ごとに課目を変えるのか理解が出来なかったよ、教育ってのは反復練習させてなんぼだ、毎日同じ時間割りで毎日同じ事を繰り返し継続させる事が大事だ、まぁこれは他人の言葉だがな、毎日やることを変えるようじゃ意味があまりないと思うんだよ」
「なるほど」
確かに、と納得した
「シルヴァ、お前はまずどうにかして効率のいい時間割りを考えろ、どう見たって1日事にまったく違う事をするのは...なぁ」
再度同じ事を指された
「...人に教えるっていうのは苦手ですので」
「まぁ、そこはお前が未熟だったんだな、安心しろ、私の知り合いにルカの学力と実力を伝え効率のいい勉強方法を教えよう、お前は教えるだけでいいってことだよ」
何に対して安心しろと言っているのかさすがに分からなかった
ただ、師匠の知り合いにはその道の熟練者がいると言う事は分かった
もっとも、師匠が知り合いと言う者達には未熟者等だれ1人いる訳がないのだ
「それで、だ」
師匠は腕を組む
ルカはうとうとし始めている...師匠の前でそんな事出来るとは...思考回路は子供並みなのか
「お前がルカに1ヶ月何をどうやって教えたか、詳しく教えてくれ」
「...分かりました」
俺は頷いて、これまでの1ヶ月を思い出すことにした
自然過ぎてすぐには気づかなかったが、師匠がそいつはやこいつ呼ばわりから「ルカ」と呼び方を変えたのは、ただの偶然なのだろうか




