9.5話 空白の1ヶ月-その1-
シルヴァとルカが力皇アルデバランの自宅(実際は宮殿が力皇の住まいなのだが)...もとい道場に到着した日から1ヶ月前...ルカの魔法の訓練に入った日
「【ウォーターボール】!」
ハイリッヒ家の庭にルカが魔法を発動するため、魔術名による詠唱を唱える声が響いた
ルカが突きだした右手の手のひらに、サッカーボール位の大きさの水球が出現する
そして水球は手のひらから打ち出され、まっすぐ直線上に飛び、シルヴァが作ったした高さ1m厚さ5cmの土の壁に着弾し、上半分を木っ端微塵に吹き飛ばす
「おお...これが魔法ですか!」
ルカは感嘆の声を漏らす
自分の右手と半壊した土壁を交互に見て目を輝かせている
「今のが【詠唱魔法】、特定の魔法が設定された術名を叫ぶ事によりその決められた魔法を発動する、一般的な術式だ」
後ろからルカの魔法発動を見守っていたシルヴァがルカの側まで近寄る
「ウォーターボールは今実際に使ったように、水を球状になるように集めそれを打ち出す、弾丸系統魔法だ」
「弾丸、系統?」
ルカは首を傾げる
「弾丸系統はその名の通り弾丸のような役目を果たす魔法だな、系統とは、魔法の効果や効力等決める属性とは違い、主に魔法の見たまんまの形や用途表す、ウォーターボールは弾丸の役目を果たすため弾丸系統になる」
シルヴァはルカが知りたかった事に付け加え、初めて聞く【系統】という言葉の意味も教えてくれた
「今のは水属性弾丸系統魔法だが、別属性弾丸系統魔法ももちろんある」
そう言ってシルヴァは手のひらから五つの球...5属性の弾丸系統魔法を発動する
「これがさっきと同じ【水球】、火の集合体で構成された燃焼の効果がある【火球】、空気を球状に集め圧縮し暴風を伴う【風球】、土を押し固め作り威力に置いてはこの中で一番の【土球】、電気の塊で殺傷性は一番高い【雷球】」
シルヴァは一つ一つ指差して術名を教えてくれた
球にそれぞれ意思があるように動き周り、やがて霧消する
「術名は覚えただろ?詠唱してみろ」
「はい!」
ルカは一つ大きな返事をして、それぞれの魔法を詠唱する
それぞれの魔法は滞りなく発動に成功した
ルカ自身も上手く発動したことを喜んだ
「上出来だな、と言っても詠唱魔法は自動で魔法を発動してくれるシステムだからな、威力もスピードも球の大きさも形も含めてあらかじめ決められている、魔力さえあれば誰でも同じ物が出来るのは当たり前だ」
だが一転、シルヴァが言ったことはルカのやる気を少し削いでしまう内容だった
ルカがしかめっ面でシルヴァを見るが、シルヴァは別の意味に捉えたようで、ルカの意思を無視しまた話し始める
「詠唱魔法と言うのは、この空気中に見えないが確かに存在している【精霊】や【妖精】に語りかけ、魔力を分け与えて魔法を発動してもらっているんだ、ちなみに精霊や妖精に頼らずとも魔力適正のある生物は魔法を発動出来る、それを一般に無詠唱魔法と言う」
しかめっ面のルカが、無詠唱魔法と言う言葉に反応する
やはりそういう技術があるのか、と思うのと同時に、やっぱり難しいんだろうな、と考える
「無詠唱はそんなに難しい事では無い、さっき詠唱したウォーターボール、発動したときの感覚をイメージするんだ」
今度はルカの考えることを上手く理解出来たシルヴァは、無詠唱魔法が簡単だと言う事を話す
だがルカは意外そうにしていた
「イメージするだけで、いいんですか?」
「あぁ、頭の中でイメージし、その属性の魔力さえあれば簡単に発動出来る」
ルカは目を瞑って、右手を突きだし、さっきの水球をイメージする、今度は詠唱無しで
ルカの手のひらに水が出現し、それが球状となっていく
水球の無詠唱発動は、成功した
「本当に出来た...こんなに簡単なんですね」
ルカは目を開ける
シルヴァは深く頷く
「一度詠唱魔法で覚えた魔法の感覚を覚えて、何時でも使えるようにイメージ出来ればどんな魔法も発動出来る、そして無詠唱で発動した魔法には大きな自由度がある、スピードも大きさも威力も、イメージすれば自由に弄れる、大きさなら大きさをイメージすればいいし、威力を上げたいなら使う魔力を少なくすればいい」
ルカは水球の大きさを小さくしたり大きくしたりした
「おぉ」っと声を漏らし、さらには形までも変えて見せた
「中々上手いじゃないか、他の魔法もやってみろ」
「他のっいうことは、別の属性の魔力使えばいいんですよね?」
シルヴァは頷く
ルカは他の弾丸系統魔法を1つずつ発動した
火球も風球も土球も雷球も大きさや形を色々変えてみた
1つずつ発動する際にその前の魔法は霧消して消える
そこでルカは気づいた
「もしかして、属性さえ揃ってれば別々の属性の弾丸系統魔法も同時に発動出来ちゃいます?」
シルヴァはニヤリと笑った
「そこに気づくとは流石だな、そうだ、それぞれの魔法を同時にイメージすれば、別々の魔法であっても同時発動出来る、その技術を【マルチキャスト】と言う」
出た!マルチキャスト!
ルカは本物の異世界の地で、ラノベで見た覚えのある要素をまた発見したことに興奮する
ルカは両手を体の前に突きだし、右手で水球、左手で火球を発動する
「出来ました!出来ましたよ先生!」
ルカは跳び跳ねて喜んだ
「マルチキャストもそれほど難しくはない、だが同時に発動する魔法が多くなるほど、イメージしても発動しなくなる事が多い、だが訓練すれば同時発動出来る魔法は増える」
「なるほど、つまりは練習次第って事ですね!」
ルカは、水球、火球、風球、と魔法を発動するが、もう一つ発動しようとすると全ての魔法が霧散してしまう
「今は3つが限界です...集中力が切れてしまいますね、これ」
「最初は誰でもそんなもんだ、3つ同時発動出来るだけでも大したもんだ」
実際それはお世辞では無い
普通ならば、初めて魔法を使って同系統ではあるが、同属性ならまだしも、別の属性の魔法を3つ同時発動する事自体は軽々と出来るものではない
イメージする、と言えば簡単だが実際は3つの別々の動作を頭で考えて動かしているような物である
ただし、ちゃんと訓練して慣れていけば、両手と片足を同時に動かす要領で使えるようにもなる
つまり、初めてにしてはルカはマルチキャストの才能があるという事だ
しかし、当の本人はあまり分かってない様子で、シルヴァは苦笑するしかなかった
「ルカ、今体はどんな感じだ?ダルさとか、疲れは感じないか?」
「え?別に疲れてませんよ、まだまだいけます!」
ルカはそう言って腕を回して元気な事をアピールする
「魔力が無くなってくると体調が悪くなったり、最悪失神する可能性もある、まず体調に変化があったらその都度ちゃんと伝えてくれ」
「へぇ、そうなんですか...どうしてです?」
「魔力は人が生きるためのエネルギーを肩代わりしてくれる...らしい、気力論とか聞いた事があったような...」
つまりは魔力は生命に関わる要素だって事らしい
シルヴァ自身、そう言う物には疎いのである。故にその顔はあまり自信のなさげな雰囲気を醸し出している
ルカは最初、魔剣に根こそぎ魔力を吸いとられ倒れた事を思い出す
確か魔力がなくなるにつれ意識が遠くなる感覚を覚えていた
「まぁ大丈夫なら、次の訓練に移るか」
シルヴァはそう言って、少し離れた所に土壁を形成する
ちなみにこれは、【土壁】土属性障壁系統に当たる魔法である
階級は3等級ではあるが、形も大きさも自由であり他属性と違って維持するための魔力消費が無いお得な魔法である
物理的障壁としては十分な役割を果たす魔法で、3等級をマスターするにあたって必須要素である
「発動した魔法をコントロール...遠隔操作する訓練をするが、まず水球を発動してくれ」
そう言ってシルヴァは水球を発動する
それに合わせてルカ水球をも発動する
「うむ、まずは水球と手の間に魔力の流れ、魔力の糸をイメージしてくれ、出来たらその糸を伸ばすように魔力を真っ直ぐ流してみろ」
シルヴァはそう言って土壁に向けて水球をゆっくりと動かす
水球はちょうどシルヴァと土壁の中間で止まる
ルカもそれにならって水球をゆっくり動かす
「止める時は流れを止めればいい」
ルカは言われた通りにして、水球を止める
「よし、この水球だが...てっとりばやく糸を動かすようにイメージして動かせば動く」
シルヴァ水球を上下、左右、8の字に回したりする
ルカも同じように動かす
「この動作を、水球を増やして繰り返す」
シルヴァは2個の水球を同じように動かす
ルカも2個の水球を同じように動かす
そのあとも増やしていくが、3個の水球を操作しようとすると霧散してしまう
「これは訓練していけば精密な操作が出来るようになる、最終的に糸をイメージせず、水球が自分で動いている光景をイメージするだけでその通りに動いてくれる、まぁ反復練習が大切だ、別の属性でも試してみるといい」
そう言われたルカは、他の属性でも同じような動作を繰り返す
たまに数を増やしては魔法が霧散したり、スピードをそれぞれ違くしてみたりと色々やっていた
シルヴァが特に驚いたのは、別属性の球をマルチキャスト、それを操作しようとしているのだ
最初の内は霧散するも、徐々に維持できる時間が増えていく
ルカは、自分のしたい事が成功すると笑って「やった!」と喜んでいた
シルヴァはそれを見守り続け、ルカに好きなようにさせる事にした
シルヴァはルカが魔法で遊ぶようになってからは、訓練の様子を見に来たマリアと軽く談笑をしていた
マリアは北の地の下民である
北の地に住む者は揃いも揃って美しい銀や白い髪を持ち、美男美女が多いと評判である
マリアも去ることながら、その美貌はとても美しい芸術品のようである
だがそれ故に、北の地の者を拐っては、奴隷として売りさばく事例があり、マリアも奴隷として王都に来たのである
その時奴隷となったマリアを買い取ったのが、ベルモンドだった
ベルモンドは奴隷にされ身体的にも精神的にもやつれていながらその美しさは変わらないマリアを見て、一目惚れしたのだ
表向きには奴隷、だがベルモンドはマリアを奴隷とは扱わず、使用人として一緒生活していた
ベルモンドは当時、有力な貴族、王国騎士団の団長でもあり、収入も貯蓄も豊富であり、生活には苦労しなかった
そこからトントン拍子で2人は信用できる少数の友人達を呼んでひっそり結婚式を上げた
マリアも、自分を救ってくれたベルモンドに好意を抱いており、当時からそのなかむつまじい光景を見ていた力皇は「ため息しか出ない」と語っている
シルヴァはマリアの思い出話聞きながら、紅茶を飲んでいた
紅茶何て物を飲む機会が無かったシルヴァは何杯もおかわりをしていて、それを見ていたマリアとメイド長は、10杯目のおかわりでクスクスと笑ってしまう
シルヴァは顔をしかめるが、マリアがシルヴァに非は無いこととそんなにおかわりをする人があまり居ないからと理由になっていない理由を伝えたが、シルヴァは納得したように苦笑するしかなかった
ふと、ドサッと聞き覚えのある音がする
音がする方を見たら、マリアは小さい悲鳴をあげ、メイド長は無表情で、俺は呆れた
案の定ルカが魔力の使い過ぎで、倒れていた
だが呆れたのはそこじゃなくて、良い笑顔で寝息を立てながら寝ていたからである
俺はルカをお姫様だっこして、またもやルカの部屋に運ぶ事になった
今日の実技訓練はこれにてお開きになった




